三越伊勢丹グループの重点戦略の1つが「個客とつながるCRM戦略」だ。その狙いは、識別顧客の拡大、パーソナル化、相互送客、小売と金融のサービス連携、インバウンドでの新規顧客獲得、リピート向上など多岐にわたる。こうした事業戦略をICTの側面から支えるのが、三越伊勢丹システム・ソリューションズだ。3月9日に開催された「データマネジメント2023」のセッションでは、三越伊勢丹システム・ソリューションズの藤本忍氏と前島珠美氏が登壇し、個客とつながるCRM戦略を実現するためのICT構造改革やデータ活用について解説した。
お得な特権を準備することで「個客化」を進める
三越伊勢丹システム・ソリューションズ(以下、IMS)の藤本忍氏は、個客とつながるCRM戦略について、全体戦略と概要を紹介した。
藤本氏がまず戦略の背景にある「環境認識」として挙げたのは次の4つである。1つ目は、所得と消費の二極化が加速していることだ。富裕層が拡大し、今後10年間で所得1,000万円超の人口が倍増すると言われている。2つ目は、顧客構造の変化だ。ミレニアム世代が台頭し、少子高齢化が進んでいる。3つ目は、オンラインの加速だ。デジタル化が加速し、非対面・非接触のサービスが拡大している。4つ目は、ITによる環境の変化だ。コロナ禍でIT化が一気に進み、もう元の状態に戻ることはないだろうと言われている。また、リモートワークなどのライフスタイルの変化により、地域への意識が高まるなど、リアルの提供価値に変化が起きている。
藤本氏は「私たちはお客様の暮らしを豊かにする特別な百貨店を中核とした小売グループを目指しています。ナンバーワンであり、かつオンリーワンでありたいと考えています。お客様と深く付き合い、お困り事や嫌な事、関心事に対してより革新的に感動的に解決するための商品群、サービス、店を作っていきたいと考えています」と述べる。
それを実現するために掲げている重点戦略が、「“高感度上質”戦略」「“個客とつながる”CRM戦略」「連邦戦略」の3つだ(図1)。
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本セッションの中心テーマはCRM戦略だが、それと深い関係があるものとして、まずは高感度上質戦略と個客とつながるCRM戦略のアウトラインが示された。
高感度上質戦略とは、縦軸に「感度」、横軸に「こだわり・質等」を置いたときに、感度が高く質がいい、右上の位置を狙うということだ。そのために場である店舗とマーチャンダイジングを磨き上げていく取り組みを行う。
「顧客については、まず外商顧客を拡大していきたい。中間層のお客様には憧れと共感を持って三越伊勢丹の顧客になっていただきたい。また将来に向けて、ミレニアム世代とインバウンドにもしっかりアプローチしていきたいと考えています」(藤本氏)。
個客とつながるCRM戦略とは、顧客とつながってCRMで関係性を育み、顧客生涯価値(LTV)を最大化していく取り組みだ。事例としては、ポイント会員やIMSが提供するクレジットカード「MIカード」の加入に向けた施策などがある。サロンドショコラ等の人気催事に絡めたインセンティブの取り組みや、限定品、先行販売など希少アイテムとの連動した施策、催事等での優先レジなど、お得な特権を準備することで「個客化」を進める。そして、個客とつながり様々なデータを収集・活用し、一人ひとりに最高の顧客体験を提供する。そのような取り組みを通じて、個客との関係性を育んでいく形だ。
4つの事例から見る、戦略を支えるデータとICT基盤
次に、これらの戦略にITがどう関わってくるのかについて、同社の前島珠美氏が説明した。情報、サービス、品揃え、在庫の4つをITで最適化し、オフラインとオンラインをシームレスにつないで顧客に最高の顧客体験を提供するというのが、IMSの目指す姿だ。
前島氏はITを活用したソリューションの事例を紹介した。1つ目は、「YourFIT365」という靴のフィッティングアプリだ(図2)。
「店頭で足を3D計測するとそのお客様の足に近い木型を使った靴がいくつか選ばれ、その情報を基にコンシェルジュがカウンセリングを行う。そして、そのお客様にぴったりの靴を選んでいただくという流れになっています。大変好評をいただき、お客様からは『手持ちの靴を全部これで買い直したい』といったお声もいただきました。また、今回は3ヶ月という短期間で開発を行えたことも大きな成果だと考えています」(前島氏)。
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事例の2つ目は、リモートショッピングアプリである。名前の通り、チャットや通話によって店頭に来てもらっているかのような接客が可能になるというアプリだ。提案だけではなく、そのまま購入してもらって決済につなげることも可能だ。
3つ目は、POSシステムの内製化だ。百貨店におけるPOSはPOSベンダーに開発・保守を依頼せざるを得ないのが現状だ。ちょっとしたバージョンアップや故障などもその都度依頼しなければならず、時間と手間とコストがかかるという課題があった。三越伊勢丹グループではPOSシステムを内製化することで自前での対応が可能になり、コスト削減も実現した。
4つ目は、スマホで見ることができるデジタル会員証だ。デジタル会員のデータのタッチポイントは主にECサイトになる。他にもふるさと納税サイトや化粧品オンラインストアなど様々に接点を拡大できる。
これらの購買行動から蓄積したデータを活用し、店内の陳列や告知、また顧客に渡すレシートにプリントする内容など、その後の宣伝、接客に生かしていく。また、Webで一番見られているのはどこか、スマホで一番タップされているのはどこかを分析して打ち出し方を変えていったり、特定の嗜好を持っている顧客に限定のキャンペーンを展開してその顧客に届けたりといったことも可能になる。
培ったノウハウを基にグループ外のDXを支援し、勉強会も開催
IMSでは三越伊勢丹グループ内外を問わず、DX支援事業も展開している。藤本氏はIMSのDX経験について紹介した。
「一番初めに行ったのは、モダナイズによるコスト最適化方針を決めたことです。システム資産全てのコストの可視化にチャレンジし、それぞれシステム単位で分類し、その分類されたシステムごとにこの先どうやってモダナイズしていくかを策定するということです」(藤本氏)。
その後、段階的なシステム移行を行った。必要な機能やデータがレガシーにある場合はそれを使っていく。新たな機能や共通化を急いだ方がいい機能は、マイクロサービスとして構築していく。レガシーから段階的に切り替え、現在は多くの機能がマイクロサービスとして実装しているという状況だ(図3)。これらの取り組みにより、サービス開発のスピードが最速で3ヶ月でできるというケースが生まれた。
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IMSのDX支援メニューの主なものは3つある。DevOps導入、基幹システムのモダナイズ支援、マイクロサービス化支援だ。
最後に藤本氏は、「作り手とお客様とをつなぐ次世代の小売のあり方を模索する勉強会を開催します。これからの小売のあり方、新しい価値の提供に向けて、志を同じくする皆様と情報交換をしたいです」と述べ、“個客とつながる「おもてなしDX」勉強会”の紹介をしてセッションを終えた。
●お問い合わせ先
株式会社三越伊勢丹システム・ソリューションズ
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