ビジネスの成長を考える上で今やデータの活用は不可欠であり、データは「ヒト」「モノ」「カネ」に続く、第4の経営資源となっている。そうした貴重な資産を適切に管理するためには、データマネジメントの知識やスキルを備えた人材の育成・確保が不可欠だ。2023年3月9日に開催された「データマネジメント2023」のセッションでは、データ総研の小川康二氏が、データマネジメントのプロフェッショナルとして活動する人材に求められるスキルと、育成のためのステップについて解説した。
第4の経営資源「データ」を適切に管理する「データマネジメント人材」
「長らく企業活動における重要な資産として『ヒト』『モノ』『カネ』が挙げられていたが、近年では、第4の経営資源として『データ』が着目されている。データを資産として適切に扱うためには適切な管理が不可欠であり、そこで重要となるのがデータマネジメントだ」と、データ総研の小川康二氏(エグゼクティブシニアコンサルタント)は強調する。
そして、企業がデータマネジメントを実行していくためには、それを取り扱う人材、すなわちデータマネジメント人材が必要となる。しかし、ひと口にデータマネジメントといっても、その取扱い領域は幅広く、データ活用のエコシステム全般で活躍できる人材を育成、確保していかなければならない。
ここでデータマネジメント人材が企業内で活躍できる領域を個々に考えていくと、以下の4つが挙げられる(図1)。
- データ活用
- データ活用基盤
- 連携元システム
- データマネジメント
各領域の「推進者」に求められる人材像を、順に見ていこう。
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①データ活用の推進者
はじめに、データ活用の推進者は、要件定義を支援できる人材が求められる。データを活用する現場の担当者に対して、具体的にどのような情報があればビジネスに貢献できるのかを確認し、それを展開できるスキルを有した人材だ。加えて、企業全体を見渡しつつ、経営者の目線で業務知識を活用する能力も重要となる。
また、データサイエンティストとして、どのようにデータを分析すれば利用者から求められる解答を導き出せるのか、統計解析などの手法を用いながら支援していくスキルも必要だ。
「このほか、分析されたデータをどのように表現すればデータ活用者に気づきを与えやすいのか、デザインスキルやBIツールスキルが必要となるほか、データの活用者に対してどのように教育を行えば自発的に行動してもらえるかといった教育スキルも求められる」(小川氏)。
②データ活用基盤の推進者
データ活用基盤では、大きく「器を作る」部分と「中身を整理する」人材に分けられる。器を作る人材には、データ活用基盤をうまく構築、導入するスキルが求められる。「特に近年ではクラウドやSaaSをうまく組み合わせて活用するケースが増えており、最適なサービスを選択するための目利きをはじめ、率先して新しいアプリケーション知識や設計スキルを身に着ける能力、そして、データ活用基盤の安定稼働を支えるための運用知識も必要だ」と小川氏は強調する。
一方、中身を整理する人材には、出自やフォーマットが異なるデータの業務的な意味を理解し、活用しやすい形に標準化や統合を行い、提供できる能力が求められる。加えて、データ整備者や活用者に向けて、データの意味や取得経路、加工ロジック、品質やセキュリティ情報を整備、提供できることも重要となる。
③連携元システムの推進者
データマネジメントエコシステムとして、データ活用基盤をサイクリックに回していくためには、連携元システムを適切に取り扱える人材も不可欠だ。連携元システム推進者には、日々の業務を通じて、適切なタイミング・品質で、データの登録/修正/削除が行えることや、非定型なドキュメントを使った業務やコミュニケーションの改善や効率化が図れることが求められる。さらに、レガシーな基幹系システムの再構築、ERP、SaaSの導入にも携わることから、要求/要件定義や設計、実装のスキルも必要となる(図2)。
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④データマネジメントの推進者
データマネジメントの推進者は、データ活用においてガバナンスとマネジメントを担う人材である。データ管理の基本方針を定め、そのためのルールを策定、監視するとともに、データが適切に管理され、運用されているのかチェックや改善指導を行うことから、データガバナンス/マネジメントに関する高度な知識をはじめ、教育や啓蒙活動、指導力など幅広いスキルが求められる(図3)。
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データマネジメント人材をいかに育成していくのか
それでは、データマネジメント人材はどのようにして育成していけばよいのか。多くの企業からは、「データマネジメント人材の育成は難しい」との声が寄せられている。その背景の1つには、必要となる知識領域が膨大で、かつ日々進化しているため、そのアップデートに多くの労苦が伴うことが挙げられる。
また、現場でのオペレーションやデータ活用から、データ資産を適切に管理するマネジメント、そして全社的なガバナンスの適用等、幅広いレイヤーの相談相手に対して、都度、視座を変えて対話できる能力も求められる。同様に、実データの話なのか、それともメタデータに関する話なのか、テーマに応じて視点を変えながら対話するスキルも必要だ。
小川氏は、「1人の人間がすべての領域を網羅するのではなく、複数の担当者が専門領域を分担するのが1つの方策となる」と語る。
このほか、小川氏は、データマネジメント人材育成のキャリア設計においても言及。「システム開発プロジェクトと業務での経験の両方を積み、最終的に両者のスキルをバランスよく融合させた人材に育成していくことがポイントとなる」と強調した。
データマネジメント人材に求められるスキルと業務経験とは?
これからのデータマネジメント人材には、どのようなスキルと業務経験が求められるのか。その1つが、トップダウンの視点とボトムアップの視点を併せ持つことだ。小川氏は、「経営の視点から『全体最適化』を意識しつつ、『ヒト』『モノ』『カネ』をうまく分散しながら、バランスよく経営していく“経営者目線”がデータマネジメントの視点でも必要となる。データ活用に際しては、もたらされるメリットと、必要となるコストのバランス感覚を有することが重要だからだ」と説明する。
もう1つは、現場の視点から「適切な課題発見・改善実行」ができること。すなわち、アウトプットから逆算して考える論理的な思考であり、業務要件からどのような「アウトプット」が求められているかを熟考し、そのアウトプットを生成するためにはどのような「インプット」が必要かを考える能力である(図4)。
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さらに小川氏は、「業務プロセスの理解」と「データ構造化スキル」を併せ持つ「モデリングスキル」も必要なスキルとして挙げる。データマネジメント人材には、業務を知るとともに、その業務がどのようにデータによって落とし込めるのかを知る能力が必要である。また、モデリングと言えば、データベース設計を思い起こしがちだが、「実際にデータ総研がモデリングスキルを活用する局面は業務設計の部分が多い」(小川氏)という。
「業務の結果、情報が生まれる。情報がどのタイミングで生まれ、更新され、活用されるのか、その流れを情報単位(=画面や帳票など)に記載したモデルがプロセスモデルである。また、情報は複数のデータが組み合わさって構築される。そのデータ間の関係性を記載したモデルがデータモデルである。プロセスモデルとデータモデルを立体的に見ることによって、業務を的確に理解することができるようになる。ビジネスを改革していくにあたっては、これらプロセスモデルとデータモデルをセットにしながら検討していくことが肝要だ」(小川氏)。
そして、最後に小川氏が挙げたのが「マネジメントスキル」だ。
「データマネジメント人材には、管理者の視点も求められる。実務において、ある程度マネジメントを経験したことがなければ、『なぜ、管理しなければならないのか』を理解することが難しい。管理しなければならない理由を自身が理解していれば、他者に対するコミットメントもおのずと強いものとなる。そうした観点から、実務でマネジメントを経験している人材は有利であるといえる」(小川氏)。
小川氏は最後に、データマネジメントのプロになるために必要なものとして、データに関する一般的な知識の他に、ユーザーと対等に会話し業務知識を身に着ける気概、データに対する熱い思い、新しいものを学ぶ姿勢、個人の魅力などを上げ、データ総研は共に働く仲間を募集しているため、ご興味のある方は応募してほしいとアピールして、講演を終えた。
●お問い合わせ先
株式会社データ総研
URL: https://jp.drinet.co.jp/
問い合わせフォーム:https://jp.drinet.co.jp/contact.html
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