データドリブン経営を志向する企業は増えているが、その多くがデータ活用基盤の整備に疲弊し、思うような成果を出せていない状況にある。3月9日に開催された「データマネジメント2023」のセッションに、SAPジャパンの椛田后一氏が登壇。「ホンネで語る、間違いだらけのデータマネジメントとその解決策」と題して、データ利活用が社内で浸透しない原因と、その解決策として求められるデータマネジメントアーキテクチャーについて解説した。 さらに、SAPでは、2023年3月22日に、顧客のデータ環境をシンプルにできる データ管理ソリューションの新製品として「SAP Datasphere」を発表。これまでのSAP Data Warehouse Cloudに、新機能の追加とサービス名称のリブランドがなされ、ビジネスのコンテキストやロジックはそのままに、意味のあるデータを迅速に提供するビジネスデータ・ファブリック・アーキテクチャの構築を目指している。
データ活用を阻害する「バケツリレー型」と「データ変換依存型」のデータウェアハウス
社内外に散在するデータを収集し、ビジネスに生かすことはもはや常識となっている。だが、多くの企業が取り組みに着手するものの、成果につながらないケースも多い。その原因には組織文化やデータ人材の不足といった複数の原因が絡み合っているが、そこで見落とせないのがシステム面での課題だ。
SAPジャパンの椛田氏はシステム面での課題として、データ活用基盤のアーキテクチャーが従来の「バケツリレー型」で「データ変換依存型」であることに起因すると指摘する。

「データドリブン経営を目指した取り組みが進んでいますが、業務毎にシステムを個別最適化してきた経緯もあり、依然として各システムはサイロ化しています。システムがサイロ化していることを”当たり前”と受け入れ、それを前提に各システムからデータを集約しているため、企業のデータ活用基盤はデータ変換作業に追われています。苦労してデータを整備しても、データの鮮度が古かったり、正確なデータが見られないため、データ活用を業務に組み込めない事態に陥ります。SAPでは、ERPのパッケージアプリケーションであるSAP S/4HANAを使い、業務プロセスを標準化して、複数業務間でも一貫性のあるデータを生成することが重要だと提案しています」(椛田氏)。
例えば、製造業ならば、企業グループレベルでの最適な製品(部品)供給と調達コスト、製造コストの低減・最適化を実現するために、グループ内で製造品ごとの原価要素(原材料調達価格、製造費用)ならびに販売価格の正確な把握が絶対条件となる。SAPの製品でいえば、SAP S/4HANAで基幹業務システムを構築することで条件を満たすことが可能だ。

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システム間連携をリアルタイムなプロセス連携で実装、キレイなデータを生成
「ただし、ERPシステムだけで、企業活動のすべてがまかなえる時代ではありません。ERPの仕組みを企業システムのデジタルコアに据えながら、さまざまな関連システムとリアルタイムに連携することが重要です。具体的には、CRM/SFA、案件管理、人材管理、外部調達のためのビジネスネットワークとの連携です。エンドツーエンドでこれらのシステム間で一貫性のあるビジネスプロセスを実装することが、今後の企業システムで重要になってきます」(椛田氏)。
例えば、SalesforceとSAP S/4HANAを連携させることで、引き合いから受注登録までのプロセスをSalesforceで担い、見積りから受注、出荷、請求などのプロセスをSAP S/4HANAで担うといったエンドツーエンドのプロセス連携が必要になる。このように複数のシステムが連携しても、発想は従来のSAPシステムと同様だという。業務プロセスの流れのなかでリアルタイムに複数のシステムを連携させるわけだ。
「DXの取り組みが活発な今こそ、業務プロセスの標準化とシンプル化に取り組むべきです。SaaSの積極的な活用やレガシーシステムの撤廃、システムの統廃合が求められています。システム間連携をリアルタイムなプロセス連携で実装し、整合性のとれたキレイなデータを生成していきましょう」(椛田氏)。

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データアクセスレイヤーで実現する「利用者視点のデータマネジメント」
伝統的なデータマネジメントのアーキテクチャーは、さまざまなデータソースからデータを溜めるデータレイクと、データを加工・変換・集計するDWHで構成されている。これに対し、SAPが提唱するデータマネジメントアーキテクチャーは、ソースシステムも整備しながら、「利用者視点」の要件を取り入れた、リアルタイムなデータマネジメントであることが特徴だという。
「利用者とデータソースの間にデータアクセスレイヤーを設けて、利用者が欲しいデータをすぐに利活用できるようにすることがポイントです。従来のDWHのように物理的にデータを集めるだけではなく、仮想データ領域を設け、あたかもデータがあるように結果を返します。データアクセスレイヤーはソースシステムと直接連携するので、透過アクセスやリアルタイムレプリケーションによって鮮度の高いデータの利活用が可能です」(椛田氏)。
このアーキテクチャーでは、SAP HANAのデータ仮想化テクノロジーやインメモリテクノロジーを活用している。
「SAP S/4HANA自体がリアルタイムオペレーションを目指した基幹業務システムです。SAP S/4HANAのデータと他のさまざまなデータを、クラウドネイティブなデータ活用プラットフォームサービス、SAP Datasphere(データスフィア)でオーケストレートし、データ可視化基盤のSAP Analytics Cloudと連携しながら、データを利活用することができます」(椛田氏)。

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シンプルでコンパクトなデータ活用基盤を目指す
企業にはすでに多くのデータ活用基盤が存在している。こうした既存のデータ基盤をいきなりリプレースするのではなく、段階的に新しいアーキテクチャーに移行していきながら、企業内のデータ利活用の文化を醸成していくことがポイントになる。
「バラバラなシステムの全てのデータを一箇所に集めて蓄積することにフォーカスするのではなく、業務ユーザーが『こうしたデータがほしい』という要望にあわせてすぐに適切なデータを取り出せるような環境を構築していきます。既存のDWHやデータレイクとも連携しながら、利用頻度の高いデータを取り込み、段階的にデータ活用基盤を集約、統合していきます」(椛田氏)。
このように、データマネジメントの取り組みで成果を出すためには、データソースである各業務システムを見直すことが重要だ。システムの統廃合や標準化が進むなかで、SAP S/4HANAを活用していくと、マスターデータも統一され、整合性のあるデータをリアルタイムに取得できるようになる。
椛田氏は最後に次のように述べ、講演を締めくくった。
「従来のデータマネジメントは、ソースシステム側の見直しに言及するのはタブーとされていましたが、DXの取り組みの中で各業務システムも進化が求められています。また、データの仮想化テクノロジーやネットワーク性能も進化していきます。データを物理的に集めて大きなDWH、データレイクをつくることを目指すのではなく、シンプルでコンパクトな次世代型のデータ活用基盤の構築を一緒に目指していきましょう」(椛田氏)。

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SAPでは、毎月「SAP DX EYE~使わなければもったいない! SAP S/4HANAのデータを2倍活用する」と題し、オンラインライブセミナーの開催を行っている。SAP S/4HANAのデータを全社的に活用するために、オンプレミスやクラウドに散在するデータ資産をどのようにつなぎ、活かしていくのか、具体的な説明とともに、2023年3月22日に発表されたばかりのSAPの新たなデータマネジメントプラットフォーム「SAP Datasphere」の詳細やSAP Analytics Cloudを利用したデータ活用技術も解説される予定だ。
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フリーダイヤル:0120-786-727
Web:https://www.sap.com/japan/registration/contact.html
製品URL:https://www.sap.com/japan/products/technology-platform/datasphere.html
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