[インタビュー]
プロセスやタスクに加え“コミュニケーションマイニング”へ─UiPathが示すプロセス最適化/自動化への道筋とは?
2023年7月20日(木)田口 潤(IT Leaders編集部)
UiPathと言えば、RPA(Robotic Process Automation)による業務自動化ソリューションのイメージが強いが、近年の同社が注力するのはRPAのその先。買収で得たプロセスマイニングツールによる業務プロセスの可視化・改善に加えて、話題の生成AIを含めたAIの活用を拡充するという。どこへ向かおうとしているのか。同社でプロセスマイニング/タスクマイニング製品を統括しているパラク・カダキア(Palak Kadakia) 氏に聞いた。
RPAによる業務自動化に取り組むベンダーとしてグローバルで認知の高いUiPathが、サービス領域の拡充を急いでいる。買収で得たプロセスマイニングツールによって、業務プロセスの可視化・改善を強化するのに加えて、話題の生成AIを含めたAI活用の拡充に取り組んでいる。
後者については2023年7月、①請求書などのテキストをアプリケーションのデータ入力項目へと転記する作業を省力化する「UiPath Clipboard AI」、②自動化処理のワークフローを自然言語で生成する「Wingman」という2つのソリューションを発表した(関連記事:RPA「UiPath」にAI新機能、データ転記を省力化する「Clipboard AI」と自動化処理を自然言語で自動生成する「Wingman」)。
とはいえ、個々の取り組みだけを見ていると、「RPAブームが一巡したため、次を開拓するべくいろいろと手がけているだけ」「プロセスマイニングも業務の自動化に向けたAI応用も競合は多い。UiPathは茨の道に踏み込んだのでは」といった疑問が生じる面もある。実際のところ、RPA分野をリードしてきたUiPathは(図1)、どこへ向かおうとしているのか。
拡大画像表示
そんなことを考えていたとき、米UiPathの製品管理担当兼ゼネラルマネジャーであるパラク・カダキア(Palak Kadakia) 氏(写真1)にインタビューする機会があった。カダキア氏は企業や組織の業務プロセスを継続的に可視化するためのDiscovery and Analyticsプラットフォームを率い、プロセスマイニングやタスクマイニングのソリューションを統括している。
結論を先に書くと、RPAによるタスクの自動化からエンドツーエンドの業務プロセスの高度化や自動化に舵を切ったと思える。そのために「コミュニケーションマイニング」と呼ぶ技術を開発しているという。なお、エンドツーエンドは受注や購買といった単位ではなく、受注から納品、請求、入金に至る始まりから終わりまでの一連のプロセスを意味する。英語ではOrder to Cash(受注・入金)、あるいはProcure to Pay(購買・支払)などと呼ばれる。以下、一問一答でお届けする。
RPAはハイパーオートメーションに貢献する
──RPAが大きなブームになってすでに6、7年が経ちました。最近ではあまり話題に上りませんが、RPAを巡る状況はいかがでしょう?
RPAは日々の業務を自働化するツールです。それにより、業務の担当者はより戦略的で高い価値のある業務に集中できるようになりました。ですから今もRPAの市場は成長し続けていますし、何よりもRPAの適用を含めた自動化の機会は大きく拡大しています。人が行うタスクも業務プロセス全体についてもそうです。AIの進歩と相まって自動化の可能性は今後も広がっていくでしょう。
──RPAブーム最中の2019年秋、UiPathはオランダのプロセスマイニングベンダーだったProcess Goldを買収しました(関連記事:UiPath、プロセスマイニング機能などを追加した次世代RPAプラットフォームを発表)。自動化の可能性が拡大する中でプロセスマイニングツールを提供することは必然だったのでしょうか?
そのとおりです。企業や組織がRPAを実装し展開するのに伴い、さまざまな機会があることがわかりました。必ずしも問題が明確ではない業務にも、自動化が有効なケースが数多くあるのです。
別の表現をすると、RPAは単なる自働化のツールではなく、ハイパーオートメーション(Hyperautomation)に貢献すると考えました。そのため適用する領域を見極めるための手段が大事だと早い段階で判断しており、4年前にProcess Goldを買収し、我々のポートフォリオに組み込みました。
──ハイパーオートメーションとは、どういう意味ですか。
ユーザーインタフェースなど人の画面操作を中心とした反復業務の自動化ではなく、エンドツーエンドの業務プロセスにおける各種の自動化を意味します。そのためにはさまざまなドキュメントの理解をはじめとした業務プロセスのインテリジェンス化が必要であり、技術面ではマシンラーニング(機械学習)や生成AIというところにまで広がります。これまでの自動化を超えるのが、すなわちハイパーオートメーションです。
例えば多くの業務では自然言語を扱いますよね? 自然言語処理や機械学習を利用できれば、自然言語で表現されたドキュメントの理解や処理を代行できます。AI-OCRで単にドキュメントをデータにするのではなく、人同士の共同作業や人とシステムの連携などを見極めて、自働化の仕組みを適用できます。プロセスマイニングによるディスカバリー(発見)は、ここに貢献します。
不都合な真実を含めてプロセスの詳細を浮き彫りにする
──とはいえ、欧米でも同じかもしれませんが、日本ではプロセスマイニングはRPAほど普及していません。プロセスマイニングによるディスカバリーは本当に必要でしょうか?
よい質問だと思います。答えはイエスです。企業や組織はプロセスをディスカバリーするため、業務を担う人々にヒアリングしたり、ずっと観察し続けたりしてきました。そうしてプロセスを再構成して可視化してきました。
しかし人は主観的な存在です。ハッピーパス(Happy Path)と呼ばれる理想的なプロセスは覚えていますし、説明できますが、例外的な業務やプロセス、間違いがあるプロセスなどは、必ずしもそうではありません。観察を繰り返したとしてもやはり限界があり、可視化したプロセスにはバイアスがかかっています。
これに対し業務実績データに基づくプロセスマイニングは、不都合な真実を含めて業務プロセスの詳細を明らかにします。具体的に説明すると、プロセスマイニングでは業務遂行の結果であるトランザクションデータやログデータを収集し、業務プロセスの実態を可視化します。どれだけバリエーションがあるか、各プロセスに要した時間はどうか、ボトルネックがある場合の原因は何か、といった業務プロセスに関するインサイト(洞察)を得ることができます。現場が知っていることと、ビジネスが知りたいこととは通常、違うのですが、プロセスマイニングはそこを橋渡しすると言えます。
こうしてエンドツーエンドの業務プロセスにおける見えなかった課題を明らかにします。そのうえでどう変えればよいかを検討し、自働化します。例えば個々の人にヒアリングするだけではわかりにくい、コールセンターの電話対応のピークタイムをデータで知ることができます。これは見えている業務上の課題を自動化するのとは違います。自動化の前にディスカバリーが必要なのです。ですから中にはRPAよりもプロセスマイニングを中心に利用する企業もあります。
──Process Goldを買収して4年、製品の統合やUiPathユーザーのどれくらいがプロセスマイニングを使っているかなど、現状を教えてください。
組織的には完全に融合し、製品もタスクマイニングを含めて統合を完了しています。2019年に「UiPath Process Mining」という名称に変え、2021年にはクラウド版をリリースして、「UiPath Business Automation Platform」に統合しています。それにより、個人のタスクやエンドツーエンドの業務プロセスを改善する機会や、改善すればROIが最も高くなる業務領域を発見し、自動化に取り組めるようになっています。
UiPathのユーザー企業は現在1万800社ほどで、プロセスマイニングのユーザー企業数は公表していません。しかし我々の想定よりも高い成長を示しています。地域別で見ると北米、欧州が高く、それに日本が続きます。日本ではリコーや三井住友信託銀行などが当社のプロセスマイニングのユーザーです。新興国にも広がっています。isbank(イシュバンク)というトルコ最大手の銀行は、住宅ローンに関わるエンドツーエンドの業務プロセスをマイニングし、効率化や自動化の取り組みを通じて11万6000時間もの削減に成功しました。
●Next:“コミュニケーションマイニング”とは? 生成AIが何を可能にする?
会員登録(無料)が必要です
- 1
- 2
- 次へ >