[市場動向]
広がる「Starlink」の利用シーン、KDDIが事例と共に示す衛星ブロードバンドの可能性
2023年12月18日(月)神 幸葉(IT Leaders編集部)
米Space Exploration Technologies(SpaceX)が開発し、グローバルに展開する衛星ブロードバンドサービス「Starlink(スターリンク)」。その利用が国内でも広がりつつある。Starlinkを国内提供する3大キャリアは、インターネット接続が困難ないし不通のエリアでの導入、あるいは企業がメインで運用するインターネットのバックアップ回線として法人市場に注力している。国内サービスの先陣を切ったKDDIの発表内容から、国内におけるStarlinkの動向やユースケースについて見ていく。
Starlinkの発展に向けたSpaceXとの共同技術検証
SpaceXの「Starlink」は、通信衛星4000機超を高度550kmの低軌道上に配置して(従来の静止軌道衛星に比べて地表からの距離が約65分の1)、大幅な低遅延と高速伝送を実現している(図1)。
KDDIは2021年9月にSpaceXと業務提携し、他キャリアに先駆けてStarlinkの国内事業化、また共同でStarlinkの技術検証に取り組んできた。au基地局のバックホール(注1)にStarlinkを用いて、山間部などでも都市部と同様の高速通信を実現する環境を順次構築している。
注1:バックホールは、末端のアクセス回線と中心部の基幹通信網をつなぐ中継回線/ネットワークのこと
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2022年10月からは国内初の「認定Starlinkインテグレーター」として、法人・自治体向けサービス「Starlink Business」、Starlinkをバックホール回線としたau基地局サービス「Satellite Mobile Link」の提供を開始。建設現場や屋外施設の遠隔監視、災害対策などさまざまなシーンでの利用を提案している。
2023年7月18日の発表会では、地理的に光ファイバーを敷設しにくい地域や人口が少ない集落、日本百名山に数えられる山々の山小屋、キャンプ場や温泉などの観光地、海上など、安定した通信環境を得にくいエリアでStarlinkを活用した高速・快適なブロードバンド環境を整えていく方針を示した。
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2023年度中の計画では、災害時の通信確保手段としてStarlinkを用いた車載型基地局・可搬型基地局(写真1)を200台導入すること、Satellite Mobile Link によるau基地局の5G対応などを挙げている。「Starlinkを全方位で展開することで、キャリアとしてつなぐ力をさらに強化していく」(KDDI 取締役執行役員 パーソナル事業本部 副事業本部長 兼 事業創造本部長の松田浩路氏、写真2)ことに余念がない。
全都道府県にエリアを広げ、法人・自治体利用を拡大へ
法人・自治体向けのStarlink Businessは、「衛星間通信」の仕組みで、2023年7月から沖縄県を対応エリアとして追加した。これにより全都道府県でStarlink Businessを利用できるようになった。
衛星間通信(Inter Satellite Link)は、Starlinkの衛星同士が通信し、地上局から離れた場所でのエリア化を実現する技術である(図2)。KDDIとSpaceXは2022年から衛星間通信の共同実証を進めてきたという。「衛星間を介して通信したほうが速度が上がるのではないかということで理論を実証し、顧客に提供できる品質を確保できたと考えている」(松田氏)。
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Starlink Businessの事業状況について、同社 ソリューション事業本部 ビジネスデザイン本部 副本部長 兼 事業創造本部 副本部長の髙木秀悟氏(写真3)によると、山間部、離島などの関連企業、自治体から2000件を超える商談・問い合わせがあるという。
Starlinkの国内事例に見る領域の広がり
Starlink Businessの導入企業・自治体には、大林組や飛島建設、清水建設、埼玉県秩父市などがある。 大林組では、遠隔地の風力発電建設現場にStarlinkを導入し、Webカメラで現場状況をリアルタイムに把握。安全な業務遂行と業務効率化を実現している。
飛島建設は、光ファイバーの敷設が困難な屋内の点検・監視業務において、充電ポートを搭載したドローンとStarlinkを組み合わせて遠隔運用を行っている。
清水建設は、地上からの電波が届きにくい超高層ビル建設現場の通信環境を、Starlink Businessで構築する実証実験を行った。Starlinkのアンテナをタワークレーン上部に設置することで、光ファイバーなどの有線ネットワークに代えて通信環境を構築している。実証結果を基に、他の超高層ビルの建設現場に展開する計画だ(写真4、関連記事:清水建設、超高層ビルの建設現場に衛星通信「Starlink」を導入、クレーンにアンテナを設置)。
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秩父市では、災害現場支援での活用が取り組まれた。2022年9月に同市大滝中津川地区で発生した土砂崩落で物流が分断されたが、この現場でStarlinkとドローンを活用し、地域住民への物資の輸送・配送を担った(図3)。「災害時、急遽インターネット回線が必要になったシーンで、Starlinkの通信環境を迅速に配備することができ、高評価をいただいた」(髙木氏)。
ほかには、東京都が持続可能な都市実現に向け、災害時のStarlinkの有効性に関する実証実験を進めている。
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海上での安定した通信環境を実現
KDDIは、2023年7月からStarlink Businessの海上利用向けサービスを開始している。海上の船舶においては、航海に必要な海洋気象情報や水路通報・航行警報など多様な情報を収集する用途で通信回線が必要となる。これまで、海上での通信は静止軌道衛星を用いた衛星通信サービスが担ってきたが、近年は情報・データ量の増加などで、陸上から遠く離れた海上で、リアルタイムな情報収集が難しくなりつつあるという。
最初の事例として、東海大学(本部:東京都渋谷区)の海洋調査研修船「望星丸」がStarlink Businessを採用した。7月下旬から同船にStarlinkアンテナを搭載し(写真5)、海上での通信品質の確認、海洋気象情報のリアルタイム取得、陸上との双方向オンライン授業、調査結果を活用したWebミーティングの開催などの用途について実証実験を行っている。Starlinkにより、航海中にダウンロード速度最大220Mbpsのブロードバンド通信を実現するという。
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今後は、島嶼(とうしょ)部や災害医療の現場における望星丸の活用も視野に入れている。遠隔地の患者と都市部の医師とのオンライン診察や画像データ診断などを予定している。
髙木氏は、「海洋調査船に限らず、漁船・貨物船などにおける船舶業務、旅客船・フェリーにおける乗客用Wi-Fiやキャッシュレス決済、船舶型基地局などでも、Starlinkの活用が期待できる」と話す。
●Next:山小屋、音楽フェスなど、レジャー領域における活用事例
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