[市場動向]
難病の早期発見と治療法開発を生成AIが支援─日本IBMの「難病情報照会アプリ」に見る医療AIの急速な進展
2024年3月27日(水)五味 明子(ITジャーナリスト/IT Leaders編集委員)
医師・研究者・専門家が長年にわたって蓄積してきた日本の難病治療・研究の膨大な情報を最新のAI技術で効率的・継続的に抽出し、広く情報提供する──日本IBMが京都大学大学院医学研究科、RADDAR-J for Societyとの産学連携で共同開発した難病情報照会アプリケーション「Rare Disease-Finder」。一般向けと医師・研究者向けに提供される同アプリケーションは、医療・医薬分野における生成AI活用の可能性を示す新たな例である。2024年2月に開催された説明会から、もたらすベネフィットとテクノロジーの特徴を確認してみる。
日本IBMは2024年2月20日、京都大学大学院医学研究科、AIを駆使した医療研究に取り組むRADDAR-J for Society(RJ4S)と共に開発した難病情報照会システム/アプリケーションを公開した。一般市民向けの「Rare Disease-Finder(RD-Finder)」と、医師/研究者が対象の「Rare Disease-Finder Pro(RD-Finder Pro)」である。
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日本IBMは、医療AIの黎明期である2015年頃から一貫して、サイエンスとテクノロジーを活用した疾患の克服と健康の改善に取り組んでいる。コロナ禍の時期も含めて、医療・医薬分野におけるテクノロジーベンダーとしての取り組みをたびたび紹介してきた(図1)。
同社代表取締役社長の山口明夫氏(写真1)は、「今回、難病の症例を、生成AIを活用して検索し、専門医につなげるアプリケーションを公開することができて非常に嬉しく思う。今後は量子コンピューティングも含めた最先端テクノロジーの実装を医療分野で進めていきたい」と語る。
世界人口の6~8%が何らかの難病に罹患していると言われているが、個々の疾患の患者数が少ないことから早期発見や診断/治療が難しく、専門医も少ない難病に対し、AIの活用による患者支援と治療法開発/創薬の促進を目指す。
難病情報照会アプリを一般/医師・研究者の双方に提供
今回発表された難病情報照会アプリケーションのうち、一般市民向けのRD-Finderは、患者や家族が、Webから平易な日本語で信頼性の高い難病情報を無料で照会することができる(図2)。
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患者がWebアプリケーションであるRD-Finderのフォームに、「めまい」「動悸がする」「手足がしびれる」といった症状を自然言語(自然文)で入力。すると、RD-Finderに実装された生成AIが入力内容を専門用語に変換し、内部データベースから罹患可能性のある疾患の候補を抽出、関連情報を表示してくれる。
関連情報には、疾患の概要や症状だけでなく、指定難病/難病研究班の情報や、都道府県別の難病医療提供体制も含まれており、患者が専門医の情報にたどりつきやすいインタフェースとなっている(画面1)。
一方、医師・研究者向けのRD-Finder Proは難病患者の早期発見と難病研究班のレジストリ(特定の疾患や治療経過などの情報を収集したデータベース)の悉皆性(しっかいせい:どれだけ全数を把握しているか)の向上を目的としている(図3)。
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臨床医はRD-Finder Proを通して、診療した患者の症状から疾患候補を検索でき、難病患者の早期発見を支援する。また、臨床医による難病患者の発見が増えることで難病研究班のレジストリが強化され、治療法の開発や創薬の支援につながることも期待される。
一般向けのRD-Finderよりも疾患の関連情報を細かく検討でき、AIによってスコアリングされた関連度をヒートマップで可視化するなど、医師による利用を前提としたインタフェースとなっており、特定の疾患に関して検索条件や精度、入力情報などのチューニングを行うことも可能だ(画面2・3)。
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●Next:RD-Findeのナレッジベース「難病プラットフォーム」が目指していること
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