[調査・レポート]

「長い在社時間」も「返信の早さ」も無関係? データが暴いた「生産性が高い働き方」の間違い─イトーキ、松尾研

854人の行動ログを基に「データ駆動型生産性推定モデル」を構築

2026年10月6日(火)神 幸葉(IT Leaders編集部)

イトーキ(本社:東京都中央区)と松尾研究所は2026年10月2日、イトーキ日本橋オフィスで働く従業員854人の行動データをAIで分析した「データ駆動型生産性推定モデル」の構築と分析結果を発表した。発表会では、「会議の長さより数がメンタルを削る」「忙しさの正体は送信ではなく受信量」といった事実や、従来信じられていた通説を否定するような分析結果を示し、根性論や主観に頼らない「データ駆動型働き方改革」の実用性を印象付けた。

オフィスにおける生産性測定の難しさ

 イトーキと松尾研究所は2025年から生産性に関する共同研究を進めている。発表会では、まずイトーキ ソリューション事業開発本部 ソリューション開発統括部 プロダクト開発部 AI開発チーム チームリーダーの酒井美帆氏(写真1)が、オフィス環境や働き方の文脈で「生産性」を扱う際の難しさについて説明した。

 日本生産性本部による一般的な生産性の定義は「投入(インプット)に対する産出(アウトプット)」の割合である。しかし、工場での製造量などとは異なり、オフィスワーカーのアウトプット(成果)を定量的に捉えることは非常に困難だ。

写真1:イトーキ ソリューション事業開発本部 ソリューション開発統括部 プロダクト開発部 AI開発チーム チームリーダー 酒井美帆氏

 「売上などの最終的な数値は職種によって測れないことも多く、研究開発であれば特許出願数など指標がバラバラになる。そのため従来の調査では、アンケートによる主観的な中間指標(熱意やエンゲージメントなど)に頼らざるを得ず、関係する因子も多すぎて『具体的に何を行動に移せば生産性が上がるのか』は分かりづらく、大きな壁だった」(酒井氏)

854名のデータから「因果関係」を紐解くアプローチ

 こうした課題を解決するため、イトーキと松尾研究所は、主観的なサーベイだけに依存しない、日々の行動データ(マルチモーダルデータ)を活用した客観的な分析モデルの開発を進めてきた(関連記事:何をもって「生産性向上」と言えるのか?─イトーキと松尾研究所がAIで「成果につながる働き方」の解明へ)。

 発表会で示されたのは、共同研究の最新成果である、AIで『働く』を可視化する「データ駆動型生産性推定モデル」だ。イトーキ日本橋オフィスに勤務する従業員854名から、館内ビーコンによる位置情報や移動履歴、カレンダーの予定表、メールやチャットの送受信ログなどを抽出し、匿名化されたメタデータを基に生産性向上の因果関係を探索するモデルを構築した。

 松尾研究所 シニアデータサイエンティストの大西直氏(写真2)によると、今回の研究における最大の技術的進歩は、時系列の因果探索手法「VAR-LiNGAM」の採用である(図1)。VAR-LiNGAMとは、データの分布の偏りを手がかりに因果の向きを推定する手法「LiNGAM」を時系列に拡張したものを指す。

写真2:松尾研究所 シニアデータサイエンティスト 大西直氏
図1:前回の発表からの分析の変化(出典:松尾研究所)
拡大画像表示

 「従来の分析の多くは『2つの事象が同時に起きている』という相関関係を見るにとどまっていた。しかし相関だけでは、例えば『メールの送受信が多い人ほど人間関係が良い』という結果が出た際、人間関係が良いからメールを打つのか、メールを打つから人間関係が良くなるのか、その因果の”向き”が分からない。今回導入した時系列の因果探索モデルによって、どちらが原因でどちらが結果なのか、さらには『今日の行動が翌日のコンディションにどう影響するか』という時間差を含めた向きを特定できるようになった」(大西氏)

 モデルの構造としては、取得したデータから抽出した「70種類の行動特徴量」が、働く人の状態である「コンディション(フィジカル・メンタル・ソーシャル)」にどのように影響を与え、最終的なアウトプットへとつながるかを示している(図2、3)。

図2:データ駆動型生産性推定モデルの構造(出典:イトーキ、松尾研究所)
拡大画像表示
図3:分析に用いた70種類の特徴量(出典:イトーキ、松尾研究所)
拡大画像表示

●Next:生産性向上のための通説をデータが覆す

この記事の続きをお読みいただくには、
会員登録(無料)が必要です
  • 1
  • 2
関連キーワード

イトーキ / 松尾研究所 / 業務効率化 / ハイブリットワーク / 協業・提携 / R&D

関連記事

トピックス

[Sponsored]

「長い在社時間」も「返信の早さ」も無関係? データが暴いた「生産性が高い働き方」の間違い─イトーキ、松尾研イトーキ(本社:東京都中央区)と松尾研究所は2026年10月2日、イトーキ日本橋オフィスで働く従業員854人の行動データをAIで分析した「データ駆動型生産性推定モデル」の構築と分析結果を発表した。発表会では、「会議の長さより数がメンタルを削る」「忙しさの正体は送信ではなく受信量」といった事実や、従来信じられていた通説を否定するような分析結果を示し、根性論や主観に頼らない「データ駆動型働き方改革」の実用性を印象付けた。

PAGE TOP