[ユーザー事例]

「AIが読めないデータ」からの脱却─ドコモSMTBネット銀行が選んだ、データ基盤の段階的刷新

「ドコモの銀行」が目指す、Agentic Enterpriseへのロードマップ

2026年10月9日(金)森 英信(アンジー 代表取締役)

ドコモSMTBネット銀行は、事業戦略の根拠となるデータ分析の強化を迫られていた。しかし、旧来のDWH(データウェアハウス)では、AIによる分析が困難なことから、米Snowflakeのクラウド型DWH「Snowflake」を中核とする基盤の刷新に着手した。旧環境を残しながら段階的に移行するアプローチを採ることで、プロジェクトの推進と同時に、分析クエリの実行時間短縮やストレージコスト削減といった成果を得ている。2026年9月11日、Snowflake主催コンファレンス「Snowflake World Tour Tokyo」に登壇した同行 システム本部 執行役員の渡邊弘氏が、基盤刷新の過程で得た学びを共有した。

業務には支障がないが、AIがまともに機能しないデータ基盤

 住信SBIネット銀行は2026年8月、ドコモSMTBネット銀行へ商号を変更した。サービスブランドを「ドコモの銀行」とし、全国のドコモショップなどで口座開設を支援する体制を敷く。NTTドコモとの提携サービスも同月に始まり、「dアカウント」との連携に加えて、KPIの共有にも動き出しているという。

 ドコモSMTBネット銀行 システム本部 執行役員の渡邊弘氏(写真1)は講演の冒頭、新ブランドがまだあまり知られていないことに「がっかりした」と明かしたうえで、こう呼びかけた。「今日一番持ち帰っていただきたいのは、この『ドコモの銀行』という名前です」(渡邊氏) 

写真1:ドコモSMTBネット銀行 システム本部 執行役員の渡邊弘氏

 渡邊氏は2017年に入行し、2019年に勘定系を除く全システムのクラウドリフトを完遂したのち、マイクロサービス化を経て内製化へ進めた。2022年ごろに始めたベトナムでの大学生採用は、今年でおよそ30人規模となり、この内製チームがデータ基盤刷新の開発を回している。

 データ基盤整備の背景は、ビジネス環境の変化だ。開業以来ほぼゼロ金利の環境で成長してきたが、金利のある世界への移行を受け、戦略の検証が重みを増している。一方で、その根拠となるデータ分析人材が潤沢にいるわけではなく、経営の要求に応えきれない状態が続いていた。そこで同行はAIに期待をかけたが、うまくいかなかった。

 「いざ使ってみたら、AIがまともに機能しない。当社のデータが読める状態ではなかったのです」(渡邊氏)

 登壇後の取材で、渡邊氏は当時の状態をより具体的に語った。業務そのものは問題なく動いていたが、やりたいことが実現できればよいという発想に基づき、システム部門がテーブル構造を作り込んできた。「カラム名も、コードも統一性がない。AIを繋ぐまでもなく、これは無理だ、という状況でした」(渡邊氏)


完全移行を待たず、まず業務で使える状態に

 開業時から使ってきた従来のデータ基盤は、米SAS Instututeおよび米テラデータ(Teradata)の製品で構成されていた。刷新の議論が始まったのは2025年ごろだ。製品選定にあたっては、クラウド型DWHの「Google BigQuery」「Databricks」「Snowflake」の3製品を候補に、評価項目・基準を作って調査を実施。最後は2製品がほぼ同等のところまで並び、最終的に選んだのがSnowflakeだった。

 移行プロジェクトの進め方として同行が最初に決めたのは、完全移行をゴールに置かず、段階的に価値を出すこと。「完璧な移行計画を待っていると、学習や業務利用、業務変革の機会を失ってしまいます」(渡邊氏)

 フェーズ1では、DWHとして使ってきたTeradataのテーブルを、米Amazon Web Services(AWS)のオブジェクトストレージ「Amazon S3」経由でSnowflakeへ同期し、まず業務で利用できる状態を作った。同期方式では両者に同じデータを持つため、ストレージのコストはかさむ。それでもストレージの単価は安く、許容できる範囲だと判断した(図1)。

図1:フェーズ1のアプローチ。Teradataのテーブルを同期し、完全移行を待たずにSnowflakeの業務利用を開始した(出典:ドコモSMTBネット銀行)
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 移行対象の取捨選択には、別の難所があった。取材で渡邊氏が挙げたのは、金融機関ではよくあるデータオーナーの不在だ。アクセス履歴から、未使用のテーブル一覧を作り、削除候補としてビジネス部門に渡しても、わからないという反応が返ってきた。そこでオーナーを立てず、Teradata環境を残したまま運用し、質問が来なければ不要と判断する道を選んだという。

●Next:データ構造を最適化、コスト削減とクエリ高速化を実現

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