ピープルソフトにハイペリオン、BEAシステムズ・・・。過去5年にわたり、48社の専業ベンダーの買収を繰り広げてきた米オラクル。IBMやSAPといった競合ベンダーも買収戦略を強化する中、当時、一見すると“他に先を越されまい”という焦りの現れにも見えた同社の姿勢に、「闇雲に買収を繰り返しているだけなのではないか」という推測も多く生まれた。実際のところはどうなのか。それに答えるべくビジネスプロセス革新協議会(BPIA)が2009年1月22日に開催した「第32回経営サロン」で、日本オラクル常務執行役員システム事業統括本部長の三澤 智光氏は、米オラクルのM&A戦略を明らかにした。それによると冷静克つ緻密な事業ポートフォリオ分析と戦略立案、買収効果をスムーズに発揮させる情報システムの仕組み作り、買収プロセスを可視化した方法論などがあってのことだという。つまり「実態は上記の推測とまったく逆」というわけだ。以下、三澤氏の講演内容を示す。
さらなる成長のため
M&Aへの取り組みを開始
M&Aに乗り出す以前のオラクルの製品ポートフォリオは、最強のデータベースに、中あるいは弱小のソフトウェアを複数抱える状態だった(図1左)。データベース市場は安定しているが、急拡大は望めない。一方で周りを見渡すと、ERPパッケージで高いシェアを持つSAP、ロータスやラショナルの買収でソフトウェア製品事業を強化するIBM、そして様々な領域に進出するマイクロソフトという強力なコンペティターがいる。特にIBMやマイクロソフトはデータベース事業を拡充しようと動いており、オラクルとしては何らかの手を打つ必要に迫られていた。
実は2000年頃までオラクルはM&Aには否定的な考えを持っていた。IT産業では過去、様々な規模のM&Aがあったが、成功例はほとんどない。それもあって、CEO(最高経営責任者)のラリー・エリソンを初めとする幹部は「他社の作ったソースコードを取り入れても、自社製品とうまく結びつくわけがない」と考えていたのだ。
しかしWebサービス、XMLといった標準技術、標準インタフェースの導入が本格化するにつれて、考え方は180度変化した。標準化された製品同士であれば、合併によるシナジー効果が出しやすくなる。このような技術の変化が、M&Aに対する姿勢を改めるきっかけとなった。
M&A成功のための
緻密な企業選定戦略
「オラクルが様々なIT企業の買収に走るのは、見かけ上の売り上げ拡大、あるいは他社による買収を阻止するためでは?」などと見られることがある。しかしそれは間違いだ。オラクルが買収対象企業を選定する基準は明確で、(1)製品、(2)顧客基盤、(3)迅速な統合の可否、(4)財務面、の4点で買収する企業を評価している(図1右)。
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