[市場動向]

“Beyond Internet”の研究も本格化─WiMAXとNGNで充実するブロードバンド環境

ネット技術8つの最前線 Part8

2009年8月26日(水)IT Leaders編集部

ネットサービスを支えてきたブロードバンド環境が生まれ変わろうとしている。高速無線データ通信を広域で展開しやすいWiMAXが商用化。NTTグループはNGNの普及に向けたプロジェクトを発足した。IPに代わる新世代ネットワークの研究も盛んだ。ネットワークの最新動向と将来像に迫った。

WiMAX
9事業者が一斉にサービスをスタート

「WiMAX」による通信サービスが相次いで登場した。UQコミュニケーションズが2009年7月1日に「UQ WiMAX」の提供を始めると、ニフティやNECビッグローブなど老舗のISPだけでなく、トリプレットゲートワイコムといったベンチャーも一斉にWiMAXサービスをスタート。ビックカメラとヤマダ電機といった家電量販店のように、これまで通信サービスと無縁だった企業までもがWiMAXサービスに乗り出した(表8-1)。

表8-1 主なモバイルWiMAXサービス。UQ以外はすべてMVNOとして同社の回線を利用している
名称 運営 料金 概要
@nifty WiMAX ニフティ 初回登録料2835円、月額使用料4200円※1
  • 下りデータ通信速度最大40Mbps
  • 上りデータ通信速度最大10Mbps
  • エリアは首都圏と中部、関西の大都市圏。2010年末に人口カバー率76%を予定
  • 2.5GHz帯周波数を使用
  • 常時接続のため、接続ごとのダイヤルアップ不要
  • 複数のアンテナでデータを受信する「マルチアンテナ技術(MIMO)」を採用
  • データ非送信時に電力消費量を低減する「スリープモード」に移行
  • 1つの基地局の電波カバー範囲は約500〜600m(都市部の場合)
  • 地域WiMAXとは将来的にローミングも
DIS mobile WiMAX ダイワボウ情報システム 初回登録料2835円、月額使用料4480円
BIC WiMAX SERVICE ビックカメラ 初回登録料2835円、月額使用料4480円
BIGLOBE高速モバイルWiMAX NECビッグローブ 初回登録料2835円、月額使用料4263円※2
Business WiMAX KDDI 初回登録料3150円、月額使用料4480円※3
YAMADA Air Mobile WiMAX ヤマダ電機 初回登録料2835円、月額使用料4480円
UQ WiMAX UQコミュニケーションズ 初回登録料2835円、月額使用料4480円
WirelessGate
Wi-Fi+WiMAXプラン
トリプレットゲート 初回登録料2835円、月額使用料4480円
WICOM WiMAX ワイコム 初回登録料3150円、月額使用料3990円
※1 @niftyの接続サービスを利用中の場合 ※2 BIGLOBEの接続サービスを利用中の場合 ※3 別途通信端末利用料金が必要

WiMAXサービスは国際標準規格「IEEE802.16方式」を用いた無線データ通信サービスだ。パソコンに同方式に準拠した通信アダプタ(通信カードやUSB機器など)を接続し、国内では周波数2.5GHz帯の電波を使って通信する。

基地局の整備をはじめとした設備投資を考えただけでも、通信サービスへの参入障壁は高い。にもかかわらず、新規参入を含め、これだけの数の事業者が一斉にWiMAXサービスをスタートしたのにはワケがある。

このほどWiMAXサービスを開始した事業者のうち、通信設備を持っているのは、実はUQコミュニケーションズただ1社。それ以外の事業者はUQコミュニケーションズから通信設備を借り受けてサービスを提供するMVNO(仮想移動体通信事業者)なのだ。総務省がUQコミュニケーションズに通信事業者免許を発行する際、MVNOに設備を提供することを義務づけたことが背景にある。

ADSL並みの通信を屋外でも利用可能に

WiMAXサービスの最大の特徴は、広いエリアで高速の無線データ通信を利用できることだ。WiMAXサービスが使うIEEE802.16方式は、無線LANに使われている802.11方式に比べ、遠くまで電波が到達する。「電波の妨げになる高層ビルが立ち並ぶ都市部でも、1カ所の基地局から半径500メートルは電波が届く」(UQコミュニケーションズの坂口肇マーケティング戦略部長兼建設1部副部長)。データ通信速度は最大で下り40Mbps、上り10Mbpsなので、ちょうどADSLサービスを屋外で使うイメージになる。

無線データ通信サービスに関してはNTTドコモやイーモバイル、ウィルコムも提供している。携帯電話やPHSのネットワークを使うので提供エリアは当然広域だが、データ通信速度は最速のサービスで下り21Mbpsにとどまる。NTTグループ各社が提供する公衆無線LANサービスを利用できる空港や喫茶店、ホテルも増えてきた。こちらは最大で下り54Mbpsのデータ通信が可能だが、空港や店舗の外では使えない“室内”サービスである。

ただし、現時点でWiMAXサービスを利用できる地域は東京、名古屋、大阪の都市部に限られる。UQコミュニケーションズは早期に人口カバー率80%を目指して基地局の整備を急いでいるが、スムーズに作業が進むかどうかは不透明な状況だ。関係筋によると、UQコミュニケーションズは電波の送受信条件が良い建物のオーナーと基地局の設置の交渉をしているが、価格面などで折り合わず難航している。好条件のビルにはすでに携帯電話やPHSの基地局が設置してあって、スペースに余裕がないケースもあるという。

だがエリアの整備が進めば、MVNOを中心に積極的なサービス展開が考えられる。UQコミュニケーションズでは、情報家電のトレーサビリティへの利用が広がることを期待しているという。

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