[市場動向]

大手9社のM&AからITの未来を“透視”する─激化する「ニッチの基幹技術」獲得合戦

2009年10月8日(木)IT Leaders編集部

1990年代後半から2000年代前半にかけてIT業界で繰り広げられた大型M&Aの時代は終わった。今、大手ITベンダーによる買収の矛先は、革新的な情報システムを支えるのに欠かせない「ニッチの基幹技術」に移っている。シスコシステムズ、EMC、HP、IBM、マイクロソフト、NTTデータ、オラクル、SAP、シマンテックのM&Aマップを基に、ITの未来を“透視”していこう。

 この10年余りの間に繰り返された大型M&Aで、IT業界の勢力図は大きく塗り替わった(図1)。古くはコンパックが1997年に超並列マシンのタンデムコンピューターズを買収し、翌1998年にはミニコンで名を馳せたディジタル・イクイップメント(DEC)を手に入れた。短期間でサーバー分野を強化すると共に事業規模を拡大したコンパックだが、2002年にはライバルのヒューレット・パッカード(HP)によって買収されるという経緯を歩んだ。

大きな話題となったIT業界の主な買収案件
図 大きな話題となったIT業界の主な買収案件

2003年以降は、ソフトウェア分野で大型M&Aが急ピッチで進んだ。火をつけたのはERPパッケージ大手ピープルソフトだった。トヨタ自動車の基幹系システムで採用されるなど国内でも存在感を高めていた同社は2003年、競合するJ.D.エドワーズに対して買収をしかけ、世界2位のERPパッケージベンダーとなった。

その後、本格的に攻勢に出たのが、データベースベンダーのオラクルである。2005年に前述のピープルソフトを手中に納めると、翌2006年にCRM(顧客関係管理)ソフトのシーベル・システムズ、2007年に多次元データベースソフトや分析ツールを持つハイペリオン・ソリューションズ、2008年にアプリケーションサーバーソフトのBEAシステムズを立て続けに買収。そして2009年4月、経営基盤がぐらついたサン・マイクロシステムズを買収すると発表した。

オラクルの派手な動きに影がかすみがちだが、IBMとマイクロソフト、SAPも最近の3年間で大型M&Aを完了している。IBMとSAPはそれぞれ、BI(ビジネスインテリジェンス)ソフト大手のコグノスとビジネスオブジェクツを2007年に買収済みだ。マイクロソフトは2008年にエンタープライズサーチ大手のファスト・サーチ&トランスファを傘下に収めた。

技術ポートフォリオの拡充へシフトする大手ベンダーのM&A

大手ITベンダーによるライバル企業の買収は、保守サポートや機能強化の観点でユーザー企業に与えるインパクトが大きい。そのため必然的に話題になりやすく、製品ロードマップなどの情報も出てきやすい。しかしITの進化の行方を読み解き、近未来の情報システム像を描くには、是非とも、もう1つの戦いに目を向けたい。その戦いとは、大手が“水面下”で繰り広げている「ニッチの基幹技術」の獲得合戦である。

国内外のITマーケットに精通しているアイ・ティ・アールの内山悟志代表取締役は、最近のM&Aの動向を見て「マーケットを拡大する目的から、技術のポートフォリオを埋めていく方向にシフトしつつある」と指摘する(詳細は47ページを参照)。現にIBMやHP、オラクルといった大手は大型M&Aを推進する一方で、特定のテクノロジーや特色がある製品の取り込みを狙ったM&Aを加速させている。

例えば、HPにおいてはコンパックやEDSの買収が強く印象に残るが、そのほかにもストレージやネットワーク分野で2009年までの5年間で20社を買収している。IBMにいたっては、ミドルウェア「WebSphere」や運用管理ツール「Tivoli」など同社の5大ソフト製品群を強化するために40社を超えるテクノロジーベンダーを買収した。

以下では、こうした「ニッチの基幹技術」の獲得に焦点を当て、シスコシステムズ、EMC、HP、IBM、マイクロソフト、NTTデータ、オラクル、SAP、シマンテックという国内外大手9社のM&Aマップを描き、各社が強化している技術を整理する。そこには情報システムの将来像が透けて見えるはずだ。

●Next:カシオ計算機 執行役員の矢澤篤志氏が語るM&Aのメリットとリスク

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