サーバー仮想化によりコスト削減を見込む企業は多いが、ここで忘れがちなのがストレージのパフォーマンス管理だ。仮想環境下でのストレージの使用率を監視し、パフォーマンス低下を防止しなければ、かえってコスト増につながりかねない。そこで必要となるのがストレージ・リソース・マネジメント(SRM)ツールである。
長引く景気低迷により企業のコスト意識は高まるばかりだ。IT部門では、限りあるリソースを効率的に活用するため、仮想化技術を用いてサーバー集約を進めるケースが増え、「コスト削減にはサーバー仮想化」という認識が広まりつつある。しかし、サーバー仮想化に目を向けるあまり見落としがちになっている問題がある。それが、ストレージの運用/管理である。
サーバーが仮想化することでストレージの管理は複雑化する。例えばVMwareの「VMotion」により、仮想マシンは物理サーバー上を自由に移動する。これまでストレージは固定した物理サーバーに対しデータを提供すればよかったが、仮想化によりデータ提供先は流動的になる。物理ストレージと仮想サーバーの紐づけが難しくなり、これまで以上に高度な運用/管理が求められることとなる。もし、ストレージのパフォーマンスがこれまで通り発揮できなかったり、リソースの使用率が低下したりしたとなれば、性能を改善するための追加投資が必要となる。これではせっかくサーバーを仮想化してコストを削減しても、その効果を相殺しかねない。ユーザー企業はこの点を十分考慮しなければならないのだ。ガートナーでは、2013年末までにサーバー仮想化によりストレージにかかるコストが10%増加すると予測。サーバー仮想化の陰に隠れた問題として警鐘を鳴らしている。
システム全体を俯瞰するSRMツールの導入を
ユーザー企業はサーバー仮想化に着手する際、こうした課題を解決するための取り組みも並行して進めなければならない。そこで必要となるのが、ストレージ・リソース・マネジメント(SRM)ツールである。
SRMツールは、ストレージの性能情報はもちろん、サーバーやアプリケーションなどの情報も一元的に管理する。ストレージだけ管理するツールと異なり、システム全体を関連付けられる点が特徴だ。例えば、ストレージに求める性能要件が厳しいアプリケーションの場合、アプリケーションデータを保管するストレージのRAIDレベルはいくつか、データ転送プロトコルはFCかiSCSIか、さらにスナップショットやレプリケーションの設定条件まで把握し、適切なストレージ環境を割り当てる。コスト削減が叫ばれる中、限りあるリソースに対し、最適なキャパシティ・プランニングやプロビジョニングを実施する。
サーバー仮想化プロジェクトでは、SRMツールの選定と導入のための予算確保も進めることが大切である。現状では、サーバーを仮想化した後になって、ストレージに対するコストと管理負荷が増すことに気づくケースが大半で、SRMツール導入に踏み切る企業もまだ少ない。だが、SRMツールの費用対効果は、サーバーの使用率向上によるコスト削減効果と同程度であり、十分なメリットを企業にもたらす。
継続的な性能監視でストレージ環境を最適化
SRMツールの選定では、(1)分析/予測機能、(2)障害原因特定機能、の2点を特に重視したい。
(1)は、収集したデータを基に将来的に必要となるストレージ容量や性能を分析/予測するもの。データ増加率の推移や頻繁にアクセスするデータの割合などを評価し、最適なストレージ環境をサーバーに提供できる。EMCの「EMC Ionix ControlCenter」やIBMの「IBM Tivoli Storage Productivity Center」、シマンテックの「Veritas Co-mmandCentral Storage」などがこうした機能を備えるソフトだ。これらの製品は、IBM AIX、HP-UX、SolarisといったUNIX環境にある仮想化環境もサポートする。なお、現時点(2010年2月10日)ではマイクロソフトのHyper-V向けには同等の機能を備えていないが、今後1年以内に提供する予定である。
(2)は、ストレージの使用率低下やディスクへのデータ配分の非効率化といったパフォーマンス低下の要因を特定するもの。仮想化環境では障害発生時の原因特定が困難になる。そこでSRMツールの中には、トポロジーマップを用いてシステム全体を可視化し、障害によりパフォーマンスが低下している範囲を特定して問題個所を絞り込めるものがある。迅速な原因究明と復旧作業に役立つ。こうした機能を備えるツールは、(1)で取り上げたもののほか、ネットアップの「NetApp SANscreen」などが該当する。
また、SRMツールとは別に、サーバー仮想化プロジェクトでは、サーバーやネットワークのキャパシティ・プランニングを実施できるツールの導入もできれば検討したい。サーバーやネットワークのリソースを適切にプランニングし、その構成要素に基づきストレージのプランニングを実施するのが理想だからだ。各システムをサイジング可能なソリューションは、TeamQuestやBMC Softwareが提供している。
ストレージ専任チームを作り、最新技術の動向を追従せよ
ガートナージャパン
リサーチ部門 ITインフラストラクチャ
リサーチディレクター
サーバーを仮想化したときに盲点となるのが「データオペレーション」である。これは、サーバーのリソースを仮想化した際、アプリケーションがきちんとデータを読み、正常に稼働できるような環境構築に向けた取り組みを指す。リソースと違い、データは企業固有の資産のため、セキュリティ対策やデータ保護も含む。一見当たり前の取り組みに思えるが、日本のユーザー企業にはこうした視点が欠如しているところが多い。仮想化やクラウドといった大きなトレンドにばかり注意が行きがちだが、適切なデータオペレーションを実施しなければ、サーバー仮想化プロジェクト自体失敗しかねない。
では、データオペレーション実施にあたって何をすればいいのか。何よりもまず、ストレージ管理チームおよび責任者を選任することが大切だ。サーバーの運用/管理の片手間に行うのではなく、ストレージの運用/管理、製品選定や導入計画の策定などを専門的に遂行する組織を設置してほしい。また、ストレージはサーバーに比べて技術革新のスピードが速い。最新技術の動向を把握しておくことも責務だ。無駄なデータを削除する重複排除や、高速アクセスが可能なSSD(ソリッド・ステート・ドライブ)などを今後、どのように活用すべきかを検討しておく必要があるだろう。
ストレージの選定では、サーバーと異なるベンダー製品にも目を向けることを助言したい。サーバーが優れているからといって、必ずしもストレージが優れているわけではない。日本のユーザー企業の場合、約半数がサーバー、ストレージを同一ベンダーに任せているのが実状である。サーバーとストレージを切り離して製品を選定し、自社の要件に合うストレージを見極めるべきである。ベンダーに製品選定を任せきりにすることで、どれだけ損をしているのかを認識してほしい。ユーザー企業はベンダーに対して積極的に要件をぶつけ、ベンダーもユーザー企業に対して的確なアドバイスをするべき。こうした関係構築こそが、企業の競争力を強化できるのだ。
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