[ユーザー事例]

2010年9月7日(火)栗原 雅（IT Leaders編集部）

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表3-1は、クライアント仮想化への取り組みを本格化したユーザー企業の一例である。三菱東京UFJ銀行とAIGエジソン生命保険はそれぞれ、3000台を超える端末を対象に、クライアント仮想化を実施。本誌の調べでは、東京海上日動火災保険はクライアント仮想化を一気に進めるため、毎週1000台超のペースで端末を調達しているようだ。

動き出したのは金融機関だけではない。伊藤忠丸紅鉄鋼は2010年3月、システム運用・管理の効率化を目的にDaaSを導入。国分はBCP（事業継続計画）の一環で、同年2月からクライアント仮想化に取り組んでいる。クライアント仮想化の利点をセキュリティ以外に見出した2社の取り組みを見てみよう。

表3-1　クライアント仮想化への取り組みを最近本格化した主なユーザー企業の例（画像をクリックで拡大）

PC50台分のDaaSを導入しシステム運用環境を改善

「スペースの効率化でリフレッシュルームができたんですよ」と話すのは、東京・日本橋に本社がある伊藤忠丸紅鉄鋼の渋井明彦IT企画部部長代行である。ガラス張りのリフレッシュルームからは、北東の方角に建設中の東京スカイツリーが良く見え、社員の憩いの場になっている。実は、これもクライアント仮想化で得た成果の1つだ。

伊藤忠丸紅鉄鋼は2010年3月、丸紅のDaaS「VirtuaTop」を利用して50台分のPCを仮想化した。10台の仮想PCはシステム企画部が使い、30台は基幹系の運用・保守端末として委託先に、残りを同社の物流業務を担う専用PCとして全国8カ所の関係先に、それぞれ提供している。

これによりまず、従来は基幹系の運用・保守のために常駐していた委託先の担当者がオフサイトでもまったく同じ環境で作業できるようになり、オフィススペースに余裕が生まれた。加えて、Windows 95搭載機が残り故障対応や回線設置負担などに手を焼いていた関係先向けのシステム環境も改善した。

ただ、DaaSの導入後、複数の企業が利用するサービスならではの難しさにも直面した。「6月に断続的にレスポンスが悪くなった」（IT企画部の木内正文氏）のである。VirtuaTopの利用者数が増え、ストレージに負荷がかかっていたのが原因だった。この点は「仮想化したリソースプールの論理構成を組み直して解決した」（丸紅 ITネットワークビジネス部の山際賢氏）

狭帯域の衛星回線でも実効があるBCPを実現

国分は2010年2月、物流管理システムのクライアントソフトをサーバー上で仮想化し、すべての処理をサーバーで完結させるクライアント仮想化システムを稼働させた。同社がクライアント仮想化に求めた最大の効用は、「実効があるBCPを実現すること」（板東直人経理財務部長）である。

国分は3年ほど前、インフラの災害耐性を調査した。その結果、データセンターそのものの耐久性は高く、首都圏を中心に広域災害が発生しても問題ないが、全国250カ所の物流拠点を結ぶ基幹ネットワークはバックアップ回線もろとも断線するリスクが少なからずあることが判明。完全復旧に2週間を要すると分析し、その間の通信経路を確保するために衛星回線を利用することにした（図3-1）。

図3-1　BCP（事業継続計画）の一環でクライアント仮想化を推進している国分の物流管理システムの概要（画像をクリックで拡大）

課題は回線の帯域幅だった。専用線による基幹ネットワークに比べ、衛星回線の帯域は狭い。衛星経由で物流管理システムを使ったところ、「（端末とサーバー間の通信量が多く）遅くて使い物にならなかった」（板東部長）。

そこで国分は米シトリックス・システムズの仮想化ソフト「XenApp」を使い、物流システムのクライアントソフトをサーバー側で実行するようにした。性能改善の効果は劇的だった。端末とサーバー間でやり取りするのは圧縮した画面データだけで衛星回線の通信量が減ったため、システム性能は60倍に上がった。「専用線よりは遅いが、問題なく業務を遂行できる」（同）。