ご存じだろうか、お隣の韓国が電子政府の取り組みで世界のトップを走っていることを。 行政制度が非常に似通っているにもかかわらず、日本は行政のWebサイト充実度などにおいて国連が約200カ国を対象に毎年実施している世界電子政府調査で10位にもランクしていない。 先ごろ日本政府が発表した「新IT戦略の工程表」を、単なる“お題目”で終わらせないためにも韓国が歩んできた道のりをここで振り返り、電子政府を浸透・定着させる秘訣を考察する。
「韓国に学べ」という論調の記事や書籍を目にすることが増えた。メリハリのある投資と現地化重視の人材育成、デザイン性を高めた製品で知られるサムスン電子、80年代の日本の自動車メーカーを彷彿とさせる現代自動車──。こうした企業から学ぶべきことも少なくないが、それ以上に学ぶべき点が多いのが韓国の電子政府への取り組みだろう。2010年3月22日には原口一博総務大臣が訪韓し、韓国の電子政府・電子自治体の運営状況を視察。日韓の協力体制に関する覚書締結に向け、両国の合意が図られたほどだ。
もともと韓国は1990年代初めまで、日本に範をとって行政の仕組みを構築していた。ところが経済危機などをきっかけに、電子政府へと大きく舵を切った。今では住民票を個人が自宅のパソコンで取得できる、所得税の申告は税務署から送られてくる計算結果を承認するだけ、といった高度な電子政府を実現している。今後は住民票そのものをなくす方向だ。こうした電子政府の成熟度は、一般企業の情報化や業務の効率化にも影響を及ぼす。
以下では、韓国の電子政府の実情と、どのようなアプローチで普及を図ってきたのか紐解いていこう。
世界ランク1位の韓国電子政府
5300種超の手続きをWebに集約
あまり知られていないが、韓国行政府は電子化で世界のトップを走る。表1は、国連が実施した世界電子政府調査「The UN Global E-Government Survey 2010」の結果だ。国連は2002年から192カ国を対象に同調査を実施し、各国電子政府の進展を色々な指標で評価している。韓国は現在、Webサイトの充実度や通信インフラの整備状況に基づく「E-Government Development Index」と、国民の意見が政策決定にどれだけ反映されているかなどを示す「E-Participation Index」の2つの主軸指標でいずれも世界ランキング1位になっている。
韓国は申請や届出(韓国では民願と呼ぶ)など5300種類以上の手続きの案内を、ワンストップで閲覧できるポータルサイトを用意している。このうち住居移転や自動車登録など住民、不動産、自動車、企業、税金に関する約720種類の手続きは役所に足を運ばなくても、オンラインで問い合わせて回答までもらえる。さらに、住民票の発給など利用頻度が高い28種類の手続きはオンラインで完結し、ネット経由で自宅やオフィスのプリンタ(解像度など所定の仕様を満たすもの)に出力した書類が公的に認められる。
それだけではない。2007年前半以降は、本人の同意が得られれば、金融機関が行政情報を共有できるようになった。金融機関で融資を受ける際、住民票と印鑑証明書を持ち込まなくても済む。
「その程度で世界1位か?」と思うなかれ。韓国の電子政府の全体像を見れば、先進性が浮かび上がってくる。
31項目の重点施策を終えた韓国電子政府の現状
韓国は2003年、電子政府のロードマップを発表した(表2)。行政業務プロセスの革新、国民向けサービスの革新、情報源管理の革新、法制度の整備という4つの分野に関して合計31項目の施策を推進。2007年にほぼ整備を終えている。このうち国民向けサービスの革新に含まれるG4C(Government for Citizen)とG4B(Government for Business Service)に加え、これらを支える行政業務プロセスの革新であるG2G(Government to Government)の3つの取り組みを順に解説する。
G4C:韓国版e-taxの内容を拡充
所得税申告の8割が電子化
前述したように、頻繁に利用される行政サービスに関してはオンラインで完了できる仕組みがある。1つの例がパスポート発給だ。従来7種類の添付書類が必要だったが、住民登録証と写真を準備すれば発給してもらえるようになった。兵役減免申請もかつて18種類の書類が要求されたが、現在は申請書と兵士用診断書があれば済む。
税の申告・納税の電子化については「ホームタックスサービス」と呼ぶサービスが2002年度にスタートした。日本のe-taxに相当するもので、「ホーム」と銘打っているが、個人限定ではなく法人も利用できる。
ホームタックスサービスの加入者は当初、伸び悩んだ。源泉税(日本における消費税に相当する)のような比較的簡単な税目の電子申告・納税に限られたうえ、添付書類の提出が必要だったためである。そこで韓国は2004年度以降ほぼ毎年のようにサービス内容を拡充し続けた。
まず2004年度は、法人税や所得税のように複数の添付書類が必要で手続きが煩雑だった税目のオンライン化に始まり、零細事業者を主対象とする簡便電子申告(One-Click)サービスや電子申告ソフトを申告期間外でも試用できるサービスを開始(図1)。2006年度には、過去の申告履歴などをさかのぼれるインターネット申告納付確認サービスをスタートさせ、2007年度に地方税である「所得割住民税」のインターネット納付にも対応した。
さらに2008年度になると、クレジットカード決済で納税できるようになり、2009年度にはホームタックスサービスを利用した納税者や税理士を対象に、税額控除などの税制優遇措置を実施。税務署に対しても、電子申告・納税の促進活動を評価する報奨制度を設けた。
このようにホームタックスサービスの拡充に向けた施策を相次いで打ち出した結果、加入者数は2007年1月に約500万人に達し、2009年12月には1100万人を突破した(図2)。所得税の電子申告の利用件数でみると、全体の約8割が利用するまでになった。
政府の報告によると、2008年に納税者は、納税のための移動コストや労働機会損失の低減により、4000億ウォン相当のコストを削減した。政府も案内や申告用紙の印刷・郵送コストを1500億ウォン節減した。
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