[市場動向]
大手ベンダーの災害支援活動─指揮系統を整えて顧客をサポート、製品/サービスの無償提供も
2011年6月28日(火)折川 忠弘(IT Leaders編集部)
ITプラットフォームや業務アプリケーションなどの導入に関わる身として、 ベンダーは被災した顧客企業の救援に当たる使命がある。 現場ではどのような取り組みがあったのか。間接的な支援策も含めて、動きを振り返る。折川 忠弘[ 編集部 ]
震災が、情報システムの導入や運用にかかわる協力先との関係を考え直す機会になったというユーザーの声が出始めている。本当に困った時に親身になって支援してくれるベンダーに信頼を寄せるのは当然のこと。真の一体感を築くために、ユーザー企業は自らのベンダーマネジメントの姿勢を改めつつ、がっぷり四つで組んでくれるパートナーに目が向き始めた。
ベンダーの多くは災害時のサポート体制を用意している。しかし、今回のような「想定外」の大規模地震には平時に考えていたマニュアルの多くが役立たなかった。トップ中心の大号令の下、臨機応変に立ち回れたか否かでユーザー対応に差が生じたようだ。
まずは、比較的早い段階から系統だった動きをとれたと思われる大手ベンダーを中心に、その取り組みを見てみよう。
最新情報を収集し支援活動を効率化
日本IBMが製品/保守サービス部門による災害対策本部を東京/大阪に設置したのは、地震発生からわずか4分後のことだった(図5-1)。顧客の状況把握が最初のミッションである。1時間後には、事業所や社員などの状況把握と指示系統を一元化する全社災害対策本部を設置。副社長を本部長とし、財務権限などを委譲。部材や支援物資の調達を迅速化する体制を整えた。
被災地に支援要員を派遣したのは翌3月12日。第2陣が3月18日に到着するまでの1週間、顧客支援に従事した。全国の事業所から支援要員も募り、3月14日以降は茨城県や栃木県などへの復旧支援活動にも乗り出した。
支援に必要となる情報を一元的に共有するため、ITを最大限に活用した。具体的には「IBM Lotus Notes」で専用のDBを作成。日々更新される顧客の被害状況を一目でわかるようにした。顧客支援部門や社員/事業所支援部門などが最新の情報を入力/更新。「情報錯綜による混乱を防ぐことに役立った。指示系統を明確にする上でもDBを一元化したメリットは大きい」(執行役員 江口昌幸氏)。
製品/保守サービス部門間の連絡手段には、チャット/Web会議機能を備える「IBM Lotus Sametime」を活用。遠隔の拠点同士がSametimeで会議を招集し、各エリアの状況を共有しながら次善策を練った。米IBMとも同じ手段でやり取りし、必要に応じてスマトラ沖地震や大型ハリケーン・カトリーナの際の災害対応を参考にした。
情報更新を重ね被災地外の顧客もフォロー
ネットワンシステムズも大地震が発生した直後に災害対策本部を設置した(図5-2)。10人程度のスタッフで構成し、事態に応じて随時要員を入れ替える体制を敷いた。従業員の安否や東北支店の状況を集約する一方で、被災した顧客の支援準備を開始。部材を配送できる地域を洗い出し、そこへ運ぶためのチャーター機の手配に奔走した。「的確な指示が出せるよう、日々変化する災害状況や交通情報を可能な限り集めるよう心がけた」(取締役 執行役員 経営企画グループ担当 荒井透氏)。
被害状況が続々と明らかになる中で、重要度に応じてサポート案件に優先順位を付けなければならない。「まずは、人命救助や社会生活に不可欠な病院や自治体に照準を合わせた」(荒井氏)。
数日経った段階では、直接の被災地ばかりに目を向けるわけにはいかなかった。原発の被災で、関東圏の企業に計画停電への準備という課題が出てきたからだ。まずはWebサイトを通じて積極的に情報発信する姿勢が重要と判断。自社で取り扱う約50製品の停止・再起動マニュアルをPDFでダウンロードできるコーナーを早急に用意し、サポート/保守対応についても最新情報を随時更新した。
機器の復旧を支援、無償で修理や部品交換も
富士通は、被災地域に対して保守要員を増強する策をとった。東北エリアには日頃から約300人の保守要員を配備しているが、緊急措置としてエリア外から延べ約100人の応援部隊を派遣。ユーザーからの問い合わせの急増に対処する役割を担った。あわせて、サーバーの点検や修理のほか、水没してアクセスできなくなったハードディスクからのデータ復元などに尽力した。
デルは地震や津波で故障した製品について、規定の期間内なら無償修理することを発表。同社製のサーバー、ストレージ、ネットワーク製品が対象となる。日本HPや大塚商会なども代替機の無償貸し出しや、修理に要する出張費用、技術料を無償化し、積極的な復旧支援に取り組んだ。
自社設置のリスクを再認識、クラウドへの移行を視野に
震災を機に、自社内に置いておくサーバーを可能な限り減らさなければと考えた担当者も多いだろう。代替策として挙がるのがデータセンター(DC)への集約や、クラウドサービスの活用だ。それを裏付けるように、データセンター事業者への問い合わせが急増しているという。「地震を機にクラウドに関する問い合わせ件数が例年に比べて3〜4倍に増えている。自社運用のリスクを痛感した現れだと捉えている」(さくらインターネットの代表取締役社長 田中邦裕氏)。
地震をはじめ各種の災害対策を講じているデータセンター事業者の設備は、この震災においても致命的な被害は免れたようだ。
インターネットイニシアティブ(IIJ)は国内の16カ所にDCを構えている。そのうち、仙台のDCについては「2系統ある回線が遮断して一時的にアクセス不能に陥ったものの、センター内部の設備は保全できた。停電に際しては自家発電機に自動的に切り替わり、電力供給が回復する18時間後まで内部の機器を動かし続けることができた」(サービス本部 サービスオペレーション部長 兼 データセンターサービス部長 山井美和氏)。
むしろ、ユーザー企業は今夏の電力供給不足への備えを急いでいる。データセンター事業者は、東京電力管轄内となる首都圏エリア以外のDC拡充に動いている。さくらインターネットは東京と大阪のほかに、北海道石狩市のDCを今秋に稼働させる予定だ(当初は2000ラックを用意)。「今夏の計画停電前に、システムをDCへ移行したいという要望が多い場合、あわせて大阪のDCを増強することも検討する」(田中社長)。
首都圏のDCについては、自家発電装置を備えているとはいえ、燃料の継続的な確保や長期運用といった面で不安を感じるユーザーもある。政府は今夏、業種を問わず電気使用量の一律15%削減を提言しており、従来通りの運用はなかなか難しい。こうした背景から日本データセンター協会は、管轄する経済産業省に節電対象外にしてもらう要望書を提出。5月13日現在、回答は得られてないが、例外を認める可能性は低いとみられる。事業者側は「空調や照明を調節するのはもちろん、オフィスの電気使用量を見直し、顧客から預かるシステムに影響が出ないよう努めるしかない」(IIJの山井氏)。
●Next:被災した企業向けに無償で提供する主要クラウドサービス一覧
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