Googleがそのデータセンターに保有する物理サーバー数は、100万に届くとも言われる。同社はそうした膨大なコンピューティングパワーを生かし、企業ユーザーの取り込みに向けた施策を次々に打ち出している。エンタープライズ部門の藤井彰人シニアプロダクトマーケティングマネージャーは、「企業はデータを載せるだけ。あとは“グーグルコンピュータ”が高速処理し、結果を返す。それが究極の形」と将来像を語る。
中核となるサービスの1つが、「Google App Engine(GAE)」だ。GAEは、JavaやPythonで開発したアプリケーションを、Googleのインフラ上で実行できるPaaSである。仮想サーバーの稼働時間に基づき課金する。
GAEの特徴はCPUやOS、ミドルウェアといったサーバー環境の設定・運用すべてをGoogleが管理すること。このため、利用者は仮想サーバーをいちいち立ち上げることなく、すぐに開発を始められる。増強、縮退作業も一切不要だ。アプリケーションの処理量の増減に合わせて、仮想サーバー台数は自動で変更される。
こうした運用しやすさの反面、GAEはポータビリティ(移行の容易さ)に欠けるという課題を抱えていた。キーバリュー型データストアを中心に据える独特の環境から、ほかのクラウドにデータやアプリケーションを移行するのは難しかった。実際、2011年後半にGAEの利用料金を実質的に値上げした際、多くの利用者が「ベンダーロックインだ」と反発した。
しかし、それも解消されつつある。一般に使われているリレーショナル型データベースとの互換性を高めるため、2011年に「Cloud SQL」を追加(正式なサービス開始は2012年6月)。ポータビリティを向上させる一方で、オンプレミス環境からのアプリケーション移行を容易にした。
検索や地図などの個人向けサービスをAPIとして企業に有料で提供
このほか、膨大なリソースを生かした企業向けサービスで注目すべきは「BigQuery」と「Prediction API」である。BigQueryは、大規模データ分析処理をデータのクエリ量に応じた従量課金型で提供する。Prediction APIは、企業が持つデータを解析するために、Googleが自社サービスで培ったパターンマッチングと機械学習アルゴリズムを呼び出すAPIである。どちらも、オンラインストレージである「Google Cloud Storage」上にアップロードしたデータを対象にしている。
開発・実行環境
App Engine
グーグル独自の開発言語であるGoのほか、JavaやPythonで開発したアプリケーションを同社の環境で運用できるPaaS。サーバーやデータストアを、トラフィックやデータ量に応じてを無制限かつ自動でスケールアウトできる。負荷分散も自動
【利用料金】アプリケーションごとの基本料金は9ドル。月額500ドルで無制限にアプリケーションを開発できるプレミアムアカウントもある。このほか、利用状況に応じて課金する(下表)
データベース
Cloud SQL
MySQL互換のデータストア。App Engine上で開発したアプリケーションでSQLを利用可能にする
【利用料金】1データベースインスタンスあたり0.1ドル/時から。ストレージは1GBで0.24ドル/月。I/Oへの課金は100万リクエストごとに0.1ドル。インスタンスとストレージ、I/Oをセットにしたプランもある。正式なサービス開始予定は2012年6月
オンラインストレージ
Cloud Storage
Googleのインフラにファイルを保存できる。保存したファイルは複製され、複数のデータセンターに保存される
【利用料金】
使用量 | 1GBあたりの料金 |
---|---|
1TBまで | 0.12ドル |
10TBまで | 0.105ドル |
100TBまで | 0.095ドル |
500TBまで | 0.085ドル |
帯域幅 | 1GBあたりの料金 |
---|---|
1TBまで | 0.21ドル |
10TBまで | 0.18ドル |
100TBまで | 0.15ドル |
ビッグデータ分析
BigQuery
テラバイト級の大規模データをカラム型DBに格納し、超並列で処理する。Cloud Storageにアップロードしたデータを、Webブラウザ経由で高速分析できる。SQL文による問い合わせが可能。保存データ量とクエリ処理量に基づき課金
【利用料金】ストレージ容量は1GBあたり月額0.12ドルで、2TBが上限。クエリ処理量は、1GBあたり0.035ドルで、1日20TBが上限。100GB/月までは無料。1日あたり1000クエリまで
機械学習
Prediction API
事前に用意したトレーニングデータをCloud Strageにアップロードし、独自の機械学習アルゴリズムにより予測モデルを構築。このモデルに基づき、実データを分析する。ドキュメントやメールの自動分類の他、レコメンデーションやスパムメール検知、顧客の感情分析、アップセル・離反分析といった用途を想定している
【利用料金】実データ分析は1万回まで無料。1万回を超えると、1000回あたり0.5ドル。予測モデルの構築は、トレーニングデータ1MBあたり0.002ドル(データセットの最大サイズは250MB)。月額基本料は10ドルから
Googleは、検索や地図表示といった個人向けサービスを、企業用途に展開する取り組みも進めている。「Google Apps」は、GmailやGoogleカレンダー、Googleドキュメントに、容量5GBのオンラインストレージをセットにし、企業に対し1ユーザーあたり月額600円で提供する。すでに自社で利用しているという読者は少なくないだろう。直近では、損害保険ジャパングループが全面導入を決めたというニュースが話題を呼んだ。
2012年5月、このGoogle Appsに「Apps Vault」と呼ぶオプションが加わった。GmailやGoogleドキュメントのデータを暗号化して保存し、検索可能にするサービスである。企業が監査や訴訟時に電子情報を探し出し開示する“eディスカバリ”の作業を効率化できるという。
地図表示・検索サービスから生まれたのは、「Map API Premier」だ。これは、Google MapやEarthをWebアプリケーションに組み込むための無償サービス「Map API」に、企業向け機能を追加したもの。具体的には、大量の住所情報を緯度経度に変換して地図上にマッピングする機能や、GPSを利用して移動体を追跡する機能を備える。
地図関連でもう1つ。「Earth Builder」は、企業が保持する地理空間データをグーグルのサーバーで解析・レンダリング。その企業独自の地図や3D地球儀を作成するサービスである。
これまで培った技術を企業利用に供したサービスとしてはこのほか、「Postini」や「Commerce Search」が挙げられる。
上で取り上げたサービスは、個人向け、企業向けを問わずそれぞれAPIを備えている。同社の開発者向けコンソール画面で公開しているだけでも、40近くのAPIがある。つまり、利用企業は複数サービスをAPI経由で組み合わせることにより、自社だけでは実現困難な新たな機能を開発できるということだ。GAEでの開発やGoogle Appsの販売・導入支援を手がけるトップゲート社のアーキテクトであり、GoogleからGoogle API Expertの認定を受けている小川信一氏は「AppsやMapも、一種の開発プラットフォーム。例えば、Googleドキュメントの編集画面にメールやチャットを表示するといった機能拡張を利用企業が自ら施せる」と、その意義を語る。
Apps for Business
企業向けコミュニケーション&コラボレーションサービス
- Gmail
Gmail Webメール、インスタント メッセージ、ボイス&ビデオチャット。保存容量は、1アカウントあたり25GB
- Googleドキュメント
文書や表計算、PDF、プレゼンテーションファイルをWeb上で共同編集
- Google Cloud Connect
Word、PowerPoint、Excel文書を自動的にGoogleドキュメントと同期
- Googleサイト
プログラムやHTMLを記述することなくWebページを作成。ストレージ容量は、1ドメインあたり10GB + 1 ユーザーあたり500 MB
- Postiniメールセキュリティ
送受信メールのフィルタリング・や暗号化
- Postiniメールアーカイブ
メールを1~10年保管。オプション機能で、メールの保存期間が1年の場合、1ユーザーあたり年間25 ドル。10年の場合、年間45ドル
- Google カレンダー
- Googleドライブ
1ユーザーあたり5GBまで各種ファイルを保存できるオンラインストレージ。容量を追加する場合は、 20 GBで350 円から。
- Googleグループ
ドキュメント、カレンダー、サイト、共有フォルダ、動画をグループ単位で共有
- Googleビデオ
動画のストリーミング配信
- Googleトーク
インスタントメッセージとファイル転送
- Google Apps Vault
Gmail、Google Talk、Google Docsのデータを暗号化して保存。訴訟や監査の際、検索可能にする。オプション機能であり、1ユーザーあたり600円
【利用料金】月間プランは1ユーザーあたり600円、年間プランは1ユーザーあたり500円
地図プラットフォーム
Earth Builder
Earth & Map技術を使った地図作成サービス。企業が保持する地理空間データをグーグル環境で処理し、地図や3D地球儀を作成して保存。Google MapsやGoogle Earthで検索・表示できる。Googleの衛星画像ベースマップや道路地図データ、ストリートビューと重ね合わせることも可能
【利用料金】ストレージ容量や地図閲覧回数に応じて課金する。年額250万円から
地図配信
Map API Premier
Google MapやEarthのデータや機能を自社サイトに埋め込むサービス。航空写真、ストリートビュー、地形図といったコンテンツを自社サイトで利用できる。このほか、大量の住所情報を緯度経度に変換し、地図上にマッピングできる。GPSを利用して移動体の位置を表示することも可能
【利用料金】地図、ストリートビューともに1日2万5000リクエストまで無料。無料範囲を超えた場合、1000リクエストあたり4ドルから
ECサイト向け検索機能
Commerce Search
自動スペルチェック、語幹の抽出、シノニム機能といったGoogleの検索技術により検索精度を高められる。検索結果とともに、複数の流通チャネルにおける在庫状況を表示するようなことも可能。検索結果のランキングを確認したり、特定の商品を常に検索結果の上位に表示するように設定したりするマーケティングダッシュボードも備える
【利用料金】 カタログ内の商品/アイテムの数(SKU)や、サイトで 1 年間に入力された検索キーワードの数によって異なる。年間2万5000 ドルから
システム連携
APIs
多数のAPI群を用意している。開発者向けコンソール画面から利用できるだけでも、40近くに上る。 開発者はこれらを用いてGoogleの各種サービスを呼び出し、自社のサイトや社内システムの構築に利用できる
- Ad Exchange Buyer API
- AdSense Host API
- AdSense Management API
- Analytics API
- Audit API
- BigQuery API
- Blogger API
- Books API
- Calendar API
- Custom Search API
- Drive API
- Drive SDK
- Freebase API
- Google Affiliate Network API
- Google Cloud SQL
- Google Cloud Storage
- Google Maps API v2
- Google Maps API v3
- Google+ API
- Google+ Hangouts API
- Groups Settings API
- Identity Toolkit API
- Latitude API
- Moderator API
- Orkut REST API
- Page Speed Online API
- PageSpeed Service
- Places API
- Prediction API
- Search API for Shopping
- Site Verification API
- Static Maps API
- Street View Image API
- Tasks API
- Translate API
- URL Shortener API
- Web Fonts Developer API