[ザ・プロジェクト]

「社内にITインフラはいらない!」大和ハウス工業のフルクラウド化宣言

2012年9月19日(水)川上 潤司(IT Leaders編集部)

「ITインフラは一切持たない」。大和ハウス工業はフルクラウド化を宣言する。事実、複数ベンダーのクラウドサービスを適材適所で使い分け、運用管理の手間を大幅に削減した。さらに、ユーザーニーズに応じた新システムの早期立ち上げも可能にした。(聞き手は本誌副編集長・川上潤司 Photo:福島正造)

加藤 恭滋 氏
加藤恭滋氏
大和ハウス工業 執行役員 情報システム部長
1978年に入社し、経理部門に配属。西暦2000年問題への対応を目指した会計システム再構築においてプロジェクトマネジャーを務め、情報システム部門に異動。JSOX推進室長を経て2010年、情報システム部長就任。2011年から現職

 

櫻井 直樹 氏

 

櫻井直樹氏
大和ハウス工業 情報システム部 情報技術管理グループ 上席主任
1991年に入社。情報システム部に配属され、オフコンのアプリケーション開発に携わる。1994年からはUNIX系アプリケーションの開発運用を担当した。2002年から約3年、グループ会社への出向を経て、2005年から現職

 

─既存システムのクラウド移行を積極的に推進し、所有から利用モデルへの転換を急いでいると聞きました。そもそものきっかけからお伺いしたい。

加藤:源流をたどると、2006年にさかのぼります。そのころ、当社は社内のサーバールームや外部のデータセンターに、PCサーバーから大きなラック型に至るまで大小合わせて600〜700台の物理サーバーを所有していました。ご想像の通り、それらの運用管理は大変な作業でした。ここにいる櫻井をはじめ、担当者たちは人間らしい生活を送れていなかった。

─そんな大げさな(笑)。

加藤:いやいや、本当です。ネットワークやハードディスクに障害が発生したとなれば、夜中でも飛んでいって復旧させなければなりません。それから計画停止。これは業務時間外に実施する必要があります。小さいシステムであれば皆が眠っている夜間、大規模であれば盆暮れや5月の連休を返上して作業していた。

─なるほど。確かにそれは大変でしたね、櫻井さん。

櫻井:まあそうですね。でも、やりがいはありましたよ。トラブルを解決した経験は、知識として自分にフィードバックされます。いかに迅速に解決するかを楽しんでいたふしも(笑)。むしろ、既存システムの面倒を見るので手一杯であるがゆえに、ユーザーから「こういうシステムがほしい」という要請を受けても、すぐには応えられない。そのことのほうが問題でした。

加藤:運用現場の激務をどうにかしたいという思いに加えて、従来からのシステムインフラのあり方への疑問もありました。ハードやソフトを自前で購入し、4〜5年周期で保守サポート期間が切れるたびに多大なコストをかけてリプレースする。しかし、そのサイクルはシステムに求められるリソース増強のタイミングと必ずしもマッチしない。おかしいですよね。

─ユーザー企業にとって、インフラ所有は必然ではないのではという問題意識ですね。

加藤:そう。ベンダーが所有し運用するインフラを、サービスとして安定的に利用できるようにならないものか。そんな思いを抱いていたんです。

─まさにクラウドの考え方だ。2006年とおっしゃいましたが、当時すでにクラウドという言葉はありましたっけ?

加藤:いや、まだなかったですね。

櫻井:なので、付き合いのあるベンダーに「こういう商売をしませんか」と、こちらから声を掛けました。

─ユーザー側が逆提案した。サーバーと一口に言ってもいろいろ種類があると思いますが、具体的にはどういったサーバーを対象にしていたんですか。

櫻井:まずは、データ保管用のファイルサーバーです。

─ベンダーの反応はどうでしたか。

櫻井:残念ながら、どこも消極的でした。「マシンを購入なさったほうが安上がりですよ」などと言われました。それでもいろいろな会社と話していくうちに、引き受けてくれるところをようやく見つけました。当時のCSK、現SCSKです。社内のファイルサーバーを、SCSKが用意した当社専用の環境で運用してもらうという契約を結んだ。実際にサービスを利用開始したのは、2008年4月です。

汎用アプリも「持たない」SaaS利用を拡大中

xevoE 大和ハウス工業の戸建住宅主力商品である「xevoE」

─2年間、温めてきた思いが初めて形になったんですね。次に手を付けたのは?

櫻井:メールシステムです。ちょうど更新時期が来ていたので。3〜4社に提案を依頼し、IIJに決めました。

─なぜIIJを選んだのですか?

加藤:メール機能をSaaSとして提供するという提案をしてくれたのは、IIJだけでした。他ベンダーからの提案は、我々がマシンを購入することが前提だった。

─外部サーバー経由でメールをやりとりすることに心配はなかった?

加藤:実は、それどころではなかったんですよ。ちょうどそのころ、迷惑メールが急増して対応に苦慮していました。

櫻井:あまりにも大量の迷惑メールが届き、処理性能に影響が出るまでになっていた。

─メールの送受信に時間がかかるようになってしまった?

櫻井:はい。それどころか、サーバー自体がダウンしてしまうことも何度かあって。

─それは大変だ。

櫻井:ええ。ユーザーからは当然、「メールが止まって仕事にならない」というクレームが多数来ました。このままでは業務に重大な支障をきたしてしまう。メールシステムを外に出す不安より、そういう危機感のほうが強かったですね。率直に言うと、それまでは「たかがメール」と考えているところがありましたが、この一件でメールの重要性を痛感しました。

─スパム対策が急務だったということは、基本となるPOPサーバーのほかフィルタリング機能を利用している?

櫻井:はい。それに、当社が元々使っていたメール監査ソフトウェアもサービスに組み込んでもらいました。それまで自社で保有していたライセンスを返し、SaaSとして利用することにしたんですよ。

加藤:標準のサービス以外はダメ、というのではなくて、そういった“融通”が効くのはありがたいですね。使いたい機能をすぐ使える。メールシステムの移行は、3カ月ほどで済み、2009年8月にサービス利用を開始しました。メールのほか、営業担当者に配布しているiPad向けの認証やMDM、コンテンツ管理といった機能もすでに利用中です。今後も、汎用的だが重要度が高く、かつユーザーが多いシステムにはSaaSを活用する方針です。

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