製薬大手のエーザイが、ITを生かした営業強化策を次々に打ち出している。iPadによるMR(医薬情報担当者)の情報武装に続き、リアルタイムのデータ分析のためにSAP HANAの導入を決めたという。蓄積する臨床データやゲノム(遺伝子)データを駆使して、医師への提案力を高める取り組みである。それにしてもなぜHANAなのか。意図を聞いた。(聞き手:本誌編集長・田口 潤 Photo:陶山 勉)
- 開發 寛 氏
- エーザイ 事業戦略部 統合戦略室 ICTマネジメント担当 担当課長
- 1990年 エーザイに入社。11年間、医療用医薬品の営業に従事。2011年より、営業本部にてICTマネジメントを担当。営業部門におけるすべてのICTテーマを、システム企画部と連携しながら企画・推進している。エーザイの企業理念であるhhc(ヒューマンヘルスケア)実現のために「ICTで何ができるか、何ができないか」を常に考え、日々奮闘中
─高速データ処理アプライアンスであるSAP HANAを導入中と聞きました。
開發:今年の秋から稼働させて、来年4月に本格稼働させる予定です。
─誰向けのシステムですか。
開發:約1400人いるMR(医薬情報担当者)です。
─MRというと、他業界の営業担当者にあたる位置づけですよね。だとすると、用途はリアルタイムの売り上げ分析?
開發:もちろんそれもありますが、売り上げ分析だけならHANAは明らかにオーバースペックです。実は、本丸は別にあるんですよ。
─本丸ってなんですか。
開發:パーソナル化が進むがん治療の最前線において、エーザイの存在感を高める。そのために、MRがあらゆる社内データを活用できるようにするための分析基盤です。
─うーむ、難しいですね(笑)。つまり、がん治療薬におけるシェア拡大が狙いですか?
開發:そうなりますね。順にお話ししていきましょう。
専門部隊はあえて作らず、情報力で競合を追撃
開發:当社は2010年、リンパ腫薬「トレアキシン」を発売し、国内がん市場に参入しました。
─それも難しい。そもそもエーザイといえば、チョコラBBやセルベールといった一般用医薬品のイメージが強いんですが。
開發:失礼しました(笑)。その通りですが、実はアルツハイマー型認知症治療剤をはじめ、医療用医薬品も数多く取り扱っているんですよ。というか、売上高の90%以上はこちらが占めています。
─で、がん治療薬では後発だった?
開發:そうなんです。でも、がんの治療薬は取り扱いが非常に難しく、ハードルが高い。同種のがんでも患者によって投与すべき薬の種類や量、頻度が異なりますし、患者1人ひとりの病状や状況に合わせて処方を考えなければなりません。MRには、新薬の開発や試験過程で得られる様々なデータを医師に提供しながら、一緒になって治療方針を探る役割が求められるんですよ。時には、自社の治療薬ではだめだと伝えるべきケースもあります。それができるかどうかが、チーム医療の一員に加われるかどうかの試金石です。
─ものすごくレベルが高そうですね。
開發:そう、医師と同じレベルの知識が必要です。ですから、がん専門のMR部隊を擁している製薬会社も多いのですが、後発である当社が他社と同等の組織を持つのはなかなか難しい。そこで「みんなでやろうオンコロジー(腫瘍医学)」という標語の下、全MRががん治療のアドバイザーとなる方針を立てたんです。実現には教育ももちろん重要ですが、ITが不可欠でした。
●Next:MRの武器となるiPad
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