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[技術解説]

CIOの「責任と醍醐味」─テクノロジーへの感度を磨き、高次元の期待に応える

2014年 CIOの視座

2014年1月28日(火)川上 潤司(IT Leaders編集部)

経営とITは不可分と言われながら、実務を担う人々がスポットライトを浴びる機会は少ない。もとをたどれば、CIOをはじめとするリーダーの存在感が薄いのではないか。IT戦略を統括する「責任と醍醐味」を考える。

経営とITとの距離感がぐっと近くなり、両者は不可分とも言われる。IT部門は、ビジネスに欠かせない各種の情報システムをつつがなく運用し、これから必要となるものについては事業部門のニーズを聞き入れて開発プロジェクトを押し進めている。確かに、IT部門の機能なくして会社は回らない。

しかし、厳しい競争下で企業が順当な収益を上げ、社会に貢献していくという文脈において、IT(部門)はもっと高い次元での期待に応え得るものだ。高度なデータ分析から知見を得て最善策を導く、顧客に対しこれまでにない豊かな体験を提供する…とかく耳に触りのよい言葉が並びがちになってしまうが、要は「ITで新しいビジネスの形を創っていく取り組みなくして競合と戦えない時代が到来している。裏を返せば、それを可能とする魅力的なテクノロジーが次々に登場しているとうことでもある」(ガートナー ジャパンのエグゼクティブ パートナー、長谷島眞時氏)。<参考:長谷島眞時氏の寄稿記事

そんな状況下、これからを勝ち抜くすべ、つまりは具体的な戦略を誰が定めるか。実はここが、相変わらず曖昧なままの気がしてならない。「経営陣はITの価値を軽視している、IT部門は“所与の案件ありき”が習い性になっている…。仮にそんな状況が依然としてあり、指揮官不在ということであれば憂慮すべき事態。すぐに打開策を打たなければならない」とウェッジ・コンサルティング代表の矢坂徹氏は指摘する。IT戦略を統括する人、その責任と権限、ミッションが明確になっていなければ、目指すべき方向に歩を進めているかどうかが結局はうやむやになり“学習する組織”に変容しない。<参考:矢坂徹氏の寄稿記事

CIOというプロフェッショナルとしての職務や人材市場が確立している米国とは事情が異なる日本。テクノロジー領域の“土地勘”を備え、日頃、経営陣や事業部門などとの間で組織横断的なコミュニケーションパスがあるという点で、IT部門のトップや統括役員が実質的リーダーとして機能するのが多くの企業における現実解と思われる。乗り越えるべき壁があるとしたら、「ビジネスを考え創る」という、これまでコミットしていなかった、ややもすると得意としない分野のスキルだ。

ヤマトホールディングスのCIOを務める小佐野豪績氏は「“経営とITの橋渡し”とそれぞれを区分して考えるようではいけない。今やITは経営そのもの。ボードメンバーや事業部門トップとITをどう利活用するか濃密に議論することで、今のビジネスの問題点や、先々の可能性が見えてくる。その積み重ねが結局はビジネスセンスに帰着してくるはず」と経験を踏まえて話す。

いまだ低迷するITへの期待

もちろん、理想像を言葉で表現するのは簡単なことであり、現実には多くの企業が問題を抱えて思い通りの展開ができずにいる。その一端を示す、ややショッキングな調査がある。JEITA(電子情報技術産業協会)が2013年6月、日米それぞれ200人程度の非IT部門の経営層/事業責任者にITの重要度やITに対する姿勢を尋ねた結果がそれだ。米国のアグレッシブさに対して日本の消極さが際立つ結果となった。

例えば IT/情報システム投資。「極めて重要」との回答は、日本の約16%に対し米国は約75%と大差がついた。 IT予算の増減見通しで「増える」は、日本が39.80%、米国は80.4%。ダブルスコアである。

図1 IT/情報システム投資の重要性(出典:電子情報技術産業協会)

テクノロジートレンドの認知度にも開きがあった。ビッグデータについて、日本は「聞いたことがない/あまりよく知らない」との回答が42.6%だったのに対し、米国はわずか2.1%。「プライベートクラウド」はそれぞれ45.8%と9.3%、「モバイルのビジネス利用」は同じく21.8%と3.6%といった具合だ。

図2 ITキーワードに対する「聞いたことがない/あまりよく知らない」の割合(出典:電子情報技術産業協会)

総じて、日本の回答者はITに重きを置いておらず、関心も低いという見方ができる。それが今のビジネスサイドの肌感覚といってしまえばそれまでだが、日頃、ITリーダーとの間でビジネスの今後を活発に議論する場や風土があれば、結果は少しは違ったかもしれない。前出のガートナー長谷島氏は「ITサイドのトップが忘れてならない重要な役割の1つがテクノロジーやIT部門の価値を社内に訴求するマーケティング活動だ」と指摘する。ITは陰の存在ではなく、これからを戦う道具との共通認識がなければ、戦略実践の足並みは揃わない。

アイ・ティ・アールが実施した「IT投資動向調査」の結果も興味深いものだ(詳細は別掲の記事を参照)。それによると、国内企業のIT投資は5年ぶりの高成長を示している。IT予算の拡大は歓迎すべきこととはいえ、実態をつぶさに見ていくと課題や懸念も浮かび上がる。「1つは企業間における格差の拡大。例えば、自社のビジネスが好調と考えている企業とそうではない企業との間では、IT投資意欲やIT戦略の方向性に大きな違いが生まれており、施策がうまく回っていないと思われる企業の進路が気がかりだ」(同社シニア・アナリストの舘野真人氏)。

同氏は個人的見解とした上で、「IT戦略を統括する立場の人が中心となり、軸のしっかりした戦略を持っている企業ほど、成長への意欲が高く、結果的に高業績につながっているように感じられる。今後は、ITで事業をドライブするのだという強い意志と、それを具現化する指揮官/組織の存在が企業間競争を大きく左右するようになる」と見る。

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