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[調査・レポート]

グローバルシステム構築は、こう挑め!─CIOの役割からソーシング、人材育成まで

CIO賢人倶楽部のグローバルシステムセミナー【後編】

2014年3月6日(木)田口 潤(IT Leaders編集部)

2014年2月27日、「世界で勝つグローバルシステムの要諦」(CIO賢人倶楽部/レイヤーズ・コンサルティング共催)というセミナーが開催された。今回は、レイヤーズの有川氏による「グローバルシステム構築の要諦」と、ノバルティスファーマ、東レ、本田技研工業、それにCIO賢人倶楽部会長によるパネルディスカッションの内容を紹介する。

(2)開発、運用ソーシング戦略について

深作:ソーシング先をグローバルで1つにすることが重要と感じている。ローカルが個別にソーシングするとお金がかかるし、コントロールと調整が大変になってしまう。そのためローカルでは一切開発はしない方針だ。仮に日本で設計しても、開発はグローバル管理下でインドのオフショア会社がやるといった形を採る。

 そのために80%程度までプロセス標準を決めることをしている。ローカル固有の要件を、法律など制度対応とビジネスインパクトに関わることに限っている。実際、3年で140カ国にシステムを展開する時には、本社で人員配置を決定し、グローバルベンダーを1社にするなどしている。

重松:東レでは、ノバルティスのようなところまでまったく進んでいない。ソーシングではQCDの重視と、ノウハウの継承を重視している。ノウハウの継承とは工数の見積もりができないとか、運用できないとか、そういった人材育成の場をなくさないようにすることだ。同時に、現場の要求が運用から開発へ、逆に開発から運用へと共有されるように注意している。

 海外拠点のシステムは現地で運用ができることを重要視している。だから開発も現地で行うのが基本だ。共通のシステムを使えるケースなどはその限りではないが、そういった例は少ない。

 では自由放任かというとそうではない。海外で大きなシステム開発がある場合には、日本からスーパーバイザーを派遣している。実のところ、生産管理は日本が進んでいるから日本のシステムを持ち込みたいという声が上がってくるが、これは現地のやり方や風土があるので経験上、上手くいかない。日本のシステムを展開しても、使い切れないので2,3年で作り直す話になる。

有吉:ソーシングに関しては、IBMにアウトソースするなどして2005年以降に開発量を倍にした。日本はマルチソースにする方向でやってきた。グローバルは逆で、取引先数が多すぎるので、どう絞るかを検討している。

 ただし話は簡単ではない。例えば先進国で標準的なシステムを作り、横展開すれば安いように思えるが、同じシステムを新興国に持っていこうとすると、現地で開発した方が安くなる現実もある。ソーシングの問題の1つは、日本のベンダーがグローバル展開していないこと。我々自身が海外側に行かないといけない。

木内:ソーシングで大事なのはポリシーであり、価値創造だ。にコストダウンを重視すると、魂を売ることになってしまう。よく中国の沿岸部にアウトソースしていたのを、高くなったという理由で内陸部に移すという話がある。今、それがカンボジアやミャンマーに移りつつあるが、こういうのは根本的に間違っているのではと思う。そこに共生がないから、いずれ破綻する。

 アウトソースを否定しているのではない。会社にある仕事の中でアウトソースした方がいいものもあるからだ。しかし運用をアウトソースすると非常にまずい。運用こそ、会社の仕事の問題が見えるから。CIOをしていた頃に、運用担当のシステム子会社のスタッフを全員、本社に逆出向させた。そうやって運用を取り込んだ。

有川:今、運用の話があり、運用を手放すとノウハウが失われる問題指摘があった。ノバルティスはどうか?

深作:その通りだと思う。当社でも何でもかんでもアウトソースしているのではなく、例えば変更管理の機能は社内に残している。この点ではホンダなどと同じだ。50くらいのベンダーと付き合っていたが、1つのハブベンダーに絞ることで、ノウハウが散逸しないようにしている。

(3) IT組織と人材育成について

深作:当社にはピラミッド型のロール定義があり、それに基づいて人材をアサインし、育成している(本誌注:同社のIS部門には20以上の役割をモデル化した規定集がある)。頂点のロールは「ストラテジックプランナ」。文字通り戦略企画を担う人材で、部内に2,3人しかいない。海外拠点の人やビジネス側の人を横断したコラボレーションを実践し、Win-Winの関係を作って、改革をリードする人材でもある。このほかシステム・アーキテクチャや、プロジェクト・マネジメント、品質にフォーカスして人材を育成している。

 人材育成の方法は色々あるが、基本の1つはジョブ・ローテーションだ。多くのIS人材がITからビジネス部門あるいはグローバルに出ている。ただし戻したくても、戻ってくるケースは少ないのが悩みだ。

重松:要員数の話をすると、以前は東レ本社と東レシステムセンターにそれぞれ150人くらいの要員で同じ規模だった。しかし中途半端に人数が分散していると上手くいかないので、現在はシステムセンターに250人、本体に20人程度という陣容になっている。その上で、職務に応じて役割期待をポジティブな表現で明示している。

 ところで人材育成は学ぶことが多すぎると難しい。学ぶことを絞るように標準化し、さらにローテーションによって営業、生産など実務経験の場を作ってきた。やはり、残念ながら戻ってこないのだが…。今、システム部門内でのローテーションを計画的にやっている。仕事の経験が価値あるものになるようにOJTにも力を入れている。誰のもとで育ったかで全然違うので、教育する人を教育することが大事ではないかと思う(笑)。

 関係会社への出向も重要だ。組織が小さい分、権限が増えるので人が育つ。それから語学も大事。年に1人だが1年半の間、海外研修に行かせることを3年前に始めた。今3人目が行っている。

有吉:今、お二人から、業務部門に行って戻らないという話があったが、自分は行って戻ったタイプだ。その経験で言えば、業務部門に行くことのメリットは、外からITが見えること。ITだけで育つとITの便利屋になる。HowではなくWhatを学ぶには、外に出ることがとても大切だと思う。

 人材育成に関しては、チャンスを均等に与えるのがホンダ流。つまり「3割人事」だ。3割の能力があれば、残る7割は仕事をこなすうちに成長して満たされるという考え方である。10割人事だと育成のスピードが追いつかない。

木内:IT組織を大きく見直したことがある。整理すると備えるべき機能は4つ。まず企画、それから実装と運用。先ほど行ったように、これをなくすのは良くない。“DevOps”は当然だから両方必要だ。3番目は、親会社のIS部門がグループ会社の面倒を見ること。グループ会社がIS部門を持つのは無理だ。4番目は調達の窓口、ベンダーマネジメントである。これは専任をおいて実施する。

 その上で大事なのはガバナンスだが、それはともかくグローバル人材はどうか。有川氏の説明にあったように各国の文化を受け入れられる人でないとダメだ。そうでない人を出しても、役に立たない。それから楽しく働けることも大事である。いずれにしても大学などの教育機関で、グローバル人材を輩出するかというとそうではない。企業が育てていかないといけない。

関連記事: 【前編】世界と戦う“ホンダ流グローバルIT構築”の凄み~グローバル最適生産を支えるITのあり方とは?

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