今や、モバイル活用は企業ITの最重要テーマの1つ。しかし、モバイルアプリの開発にはまったく土地勘がないという読者も多いのでは。分からないことは先達に尋ねるのが一番だ。本連載では、ニフティ、はてな、GREEでコンシューマ向けサービス開発の最前線に立ってきた伊藤直也氏に、モバイルアプリ開発の定石を聞く。(緒方 啓吾=IT Leaders編集部/監修:伊藤直也)
Q:モバイルアプリを開発する上での勘所は? 業務システムでの展開という観点も交えてポイントを教えてほしい。
A:モバイルアプリで成功を収めるためには、「ユーザーの満足を最優先事項として考える」必要がある。モバイルアプリの世界は、競争が激しいからだ。
アップルが運営するアプリストア「App Store」や、グーグルが運営する「Google Play」には、100万本を超えるアプリが並ぶ(2014年2月時点)。つまり、世の中には、似たようなアプリであふれかえっているということだ。顧客が特定のアプリを使う必然性は低い。ダウンロードしたアプリが気に入らなければ、より快適なものを探す。代わりはいくらでもある。
ユーザーは、他のユーザーの二の轍を踏まない。アプリマーケットはアプリのデザインや使い勝手について、ユーザーが評価する機能を設けている。ユーザーが、アプリをダウンロードするかどうかを決める際に、星の数やコメントをチェックできるようにしている。他のユーザーが不快な思いをしているアプリをダウンロードすることはまずない。読者もきっとそうだろう。
日頃、利用しているアプリは、厳しい競争を潜り抜けたエース級ばかり。ユーザーの目は肥えている。業務でしかPCを利用しなかった時代、ECサイトやWebメールが珍しかった時代とは環境が全く異なる。「アプリを使いこなせないのは、私がITに疎いから」「システムとはこういうものなのだろう」などと考えることはまずない。
だからこそ、開発者はユーザーの支持を獲得するために心血を注ぐ。B2C(Business to Consumer:消費者向け)アプリを開発するなら、先行するライバルと同様、ユーザー満足度を高めるために全力を注ぐ覚悟を持つべきだ。さもなくば、顧客はライバルアプリを使うだろう。
一方、B2E(Business to Employee:従業員向け)アプリは、ユーザー満足度の重要度が相対的に低い。競合アプリが存在しないからだ。B2B(Business to Business:法人向け)も同様である。取引先から指定されれば、どれだけ出来が悪いアプリでも使わざるをえない。
ただし、モバイルアプリを開発会社に発注する際、「コンシューマと同様にしてほしい」と希望する企業が増えているようだ。モバイルアプリの開発には、相応の投資が必要になる。であれば、使いやすいものにしたいと考えるのは当然だろう。
つまり、B2Cにせよ、B2BやB2Eにせよ、モバイルアプリを開発するときは、ユーザーの満足度を最重要視する必要がある。これまで、ユーザーを中心に据えて、サービス設計してきた企業であれば、モバイルアプリの開発にもすんなりと適応できるだろう。一方、こうした経験を持たない企業にとっては、1つのチャレンジになるかもしれない。
監修者プロフィール
伊藤直也(いとう なおや)
ニフティ、はてな(取締役 最高技術責任者)、グリー(ソーシャルメディア統括部長)を経て、2012年4月よりフリーランス。ブログやソーシャルブックマーク、モバイルアプリなど消費者向けサービスの開発・運営に一貫して携わる。現在はWebサービス事業者やシステムインテグレーターへのアドバイザリー業務なども行う。著書に『入門Chef Solo』(Kindle Direct Publishing)『サーバ/インフラを支える技術』『大規模サービス技術入門』(いずれも技術評論社)などがある。
- なぜ、iOSとAndroidで、アプリのデザインが同じではいけないのか?:第7回(2014/03/31)
- モバイルアプリの一般的なシステム構成は?:第6回(2014/03/28)
- モバイルアプリと業務システム、開発プロセスはどう違う?:第5回(2014/03/27)
- スマホアプリはどんな開発会社に発注すべきか?:第4回(2014/03/26)
- 自社のモバイルアプリがどうにも使いづらいのはなぜ?:第3回(2014/03/25)