企業のスマートデバイス活用は、どんなステージにあるか。活用度を高めて、他社と差異化を図るには何が必要か。今、注目すべきテクノロジーは何か。企業のモバイル戦略に詳しい、ガートナーのシニアアナリスト 針生恵理氏に話を聞いた。
企業のスマートデバイス活用、大半は第1ステージ
―スマートデバイスの業務利用が注目を集めるようになって、3年近くが経過した。現在、モバイルの業務活用は、どんなステージにあるのか?
モバイルアプリの活用は2つの世代に分けられる。第1世代は、コミュニケーションや、業務効率の改善を目的としたものだ。例えば、外出先でメールやスケジュールをチェックできるようにする。あるいは、スキマ時間で経費精算を済ませられるようにする。現在、多くの企業は第1世代にあると見ている。
一方、第2世代は、業務そのものの最適化や、ビジネスモデルの革新を目的としたものである。例えば、モバイルの機動力を活かして、営業や販売のプロセスを見直す。従業員のモバイルから吸い上げたデータを分析して、マーケティング分析や、経営判断に活用する、といったものだ。
第2世代の取り組みは、IT部門だけでは完結しない。業務プロセスを見直すには、事業部門や経営層と連携する必要がある。第1世代と、第2世代の間にある壁は高い。
―第2世代の例を挙げてほしい
営業力の強化に、タブレットを積極的に活用し始めたリコーは好例の1つだろう。同社が扱う商材は幅広く、複合機1つとっても機能やオプションの組み合わせは複雑だ。単価の高いハイエンドモデルほど商品知識や設置上のノウハウが必要となり、経験の浅い営業担当者には荷が重かった。そこで、実機を持ち込まなくても必要十分な商品説明ができる動画コンテンツを用意して、若手の負担を軽減。また、商談の現場を動画に撮影し、エース級のメンバーからアドバイスをもらう仕組みも用意することで、営業力の底上げを図った。こうした取り組みは、営業部門のイニシアティブがなければ難しい。
―第2世代に進むためのヒントはあるか?
まずは、事例の見方を変えてみることを勧める。モバイル活用において、どこの企業が、どんな製品を導入したかという情報を収集するケースは多いと思うが、その際に、どう戦略的に使っているのか、どういう風にビジネスに生かしているのかを強く意識してチェックしよう。いかにビジネスに貢献しているのかという視点で深読みしてみると、思わぬヒントが隠れているものだ。
従来は、やりたいことがあってもテクノロジーの制約でできないことも多々あった。今は逆だ。テクノロジーはいろんな可能性を拓いている。むしろ、使う側の発想が追い付いていない。どうすれば、もっと魅力的な製品やサービスを作れるか、業務を変革できるか。ビジネスに対する発想力が求められている。
2014年は、デバイスの管理が課題になる
―スマートデバイスに関連して、押さえておくべきテクノロジーはあるか?
モバイルの活用レベルを高めるにしたがって、デバイスの管理が課題になる。基幹システムと連携したり、顧客の情報を扱ったりする機会が増えるからだ。一部には、個人所有のデバイスを業務に利用する「BYOD」を解禁する動きもある。デバイスを十分に使いこなしつつ、いかにセキュリティやガバナンスを確保するか。すでに、多数のツールが登場している。それぞれの性質を知り、自社の状況に応じて、使い分ける必要がある。
従来は、デバイスの管理といえば、もっぱらMDM(Mobile Device Management:モバイルデバイス管理)だった。デバイス設定や、インストールしたアプリをチェック。ポリシー違反があれば、管理者が利用者に警告する。デバイス紛失時には、遠隔操作でデバイスをロックしたり、初期化したりするというものだ。
カタログを閲覧する目的で、会社支給のデバイスを利用している場合は、こうした対策でそれほど問題ない。しかし、顧客情報を閲覧するための業務アプリを導入するとなれば話は別だ。MDMでは十分にセキュリティを確保できない。例えば、デスクトップ仮想化を使って、端末にデータを残さない仕組みを検討する必要があるだろう。
従業員に自由にアプリを利用させたい。私物の利用を認めたいと考える企業も増えてきた。こうした目的を達成するには、MCM(Mobile Contents Management:モバイルコンテンツ管理)や、MAM(Mobile Application Management:モバイルアプリケーション管理)が役立つ。アプリ単位で暗号化を施し、アクセス権限を制御したり、遠隔消去したりする機能を提供できる。業務アプリのデータを保護しつつ、従業員に自由にデバイスを利用させられる。
他にも色々なツールが存在する。例えば、モバイル開発プラットフォームは、1つのソースコードから複数OS向けにアプリを生成して、開発工数を減らす。企業向けアプリストアは、自社で開発した業務アプリや、業務に役立つ市販アプリを配布できる。企業向けDropboxとも呼べるファイル共有サービスもある。
MDMを除けば、これまでモバイル関連のツールは、それほど盛り上がってはいなかった。しかし、今後、モバイル活用の度合いが進展するにしたがって、徐々に注目を集めるようになるだろう。
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