[2014年、エンタープライズモバイル最新動向]

2014年、スマートデバイスの企業活用はセカンドステージへ

2014年4月4日(金)藤吉 栄二(野村総合研究所)

スマートデバイスを使って、業務プロセス改革に本格的に取り組む事例も登場し始めた。しかし、多くの企業では、メールやカレンダーの閲覧、商品カタログの閲覧といった用途に限られている。本稿では、企業におけるスマートデバイス活用のセカンドステージ(第二幕)に向けた、今後の展望を紹介する。

本格活用を拒む、「セキュリティファースト」

 今後、スマートデバイスの活用範囲を拡大する上で課題となりそうなのが、セキュリティリスクである。端末を落として第三者に拾われるリスクもあれば、不正アプリに情報を抜き取られるリスクもある。今後、基幹系システムへのアクセスを実現するには、セキュリティに対する懸念を乗り越えなければならない。

 調査では、スマートデバイスを導入する際の関心事についても尋ねた。1位はセキュリティ。年々増加傾向にある(図表4)。他国においてもセキュリティは重大な関心事だが、日本はセキュリティだけが突出している。つまり、活用範囲を拡大することよりも、セキュリティを確保することが優先されている可能性がある。実際、利用する機能やアプリを必要以上に制限して、使い方を狭めているケースも見かける。

図表4:スマートデバイス導入時の検討事項

 ただし、こうした状況はある意味でやむをえない部分もあった。少し前までは、スマートデバイスの特性にあったセキュリティ対策ツールがなかったからだ。例えば、MDM(Mobile Device Management:モバイルデバイス管理)。名前が示す通り、デバイス全体を適切にコントロールし、セキュアな状態を保つアプローチだ。OSのバージョンや、各設定項目の状況、インストールしているアプリなどの情報を管理する。

 MDMの欠点は「デバイス単位」という点である。デバイスの中で業務とプライベートに区切ることができない。業務用ファイルをプライベートクラウドに放り込んだり、プライベートのメールを業務用のメールアカウントに転送したりするのを防ぐために、デバイスの機能を制限したり、アプリを限定したりする。

 しかし、極端な管理の強化はデバイスの魅力をつぶしてしまう。コンシューマはさまざまなアプリを自由にインストールし、Webサービスにアクセスし、パーソナライズできるからこそ、スマートフォンやタブレットを肌身離さず持ち歩くのである。それができないなら、積極的に持ち歩く意欲もわかない。業務用も同じではないか。持ち歩く意欲がわかなければ、机の引き出しに眠らせることになる。

 しかし、状況は好転しつつある。スマートデバイスの特性にあったツールが登場し始めたからだ。例えば、MAM(Mobile Application Management:モバイルアプリケーション管理)はその1つ。MDMがデバイス全体をコントロールするのに対し、MAMはアプリ単位でセキュリティポリシーを設定できる。

 例えば、アプリとデータに暗号処理を施して、不正に内容を覗き見たり、改ざんしたりできないようにする。アプリ単位でVPN(Virtual Private Network:仮想プライベートネットワーク)を利用することも可能だ。デバイスを紛失した際も、アプリだけを削除できる。

 業務用のアプリやデータを、プライベートなものと区別して管理できる。MDMと違って、デバイス全体をガチガチに固め、私的な利用を制限しなくても、セキュリティを確保できる。会社支給のデバイスでも、比較的自由にアプリをインストールして利用することができる。

 そのほかにも、コンテンツを安全に共有するMCM(Mobile Contents Management)などもある。こうしたテクノロジーをうまく使いこなせば、スマートデバイスの活用範囲を広げることができるだろう。

ビジネス変革手段としての「コンシューマIT」活用戦略を

 むしろ、今後課題になりそうなのは、戦略的視点である。これまで、多くの企業は、「まずは導入してみて、使い方を考える」というアプローチをとってきた。しかし、そうしたフェーズからそろそろ脱却する必要がある。スマートデバイスの業務活用を高度化するためには、「自社のビジネスがモバイルの活用によってどのように変わるか」といった戦略的な視点が欠かせない。

 走りながら考えるアプローチが有効なのは、誰も使ったことがない新しいテクノロジーを試す時だ。スマートデバイスはもはやコモディティ化している。すでにその使いどころも見えてきた。高度な活用を始める企業が登場しているのもすでに述べた通りである。戦略なき戦術に走って、わざわざ失敗の確率を高める必要はない。今、机の引き出しの中にデバイスを押し込めば、ライバルに置き去りにされかねない。

 では、具体的にどうするか。まずは、ビジネスゴール達成のためのモバイル戦略を検討したうえで、スマートデバイスの活用戦略を検討することを薦める。具体的には、中長期で自社の経営環境はどう変わるか、社員のワークスタイルはどのように変わるかを議論する。スマートデバイスにどんな役割を求めるかを話し合うのは、その先のことだ。

 IT部門だけで完結する話ではない。ユーザー部門や人事部門、法務部門の協力も必要だ。早い段階でステークホルダーの協力を取り付けるべきだ。アイディア創出の場としてワークショップを開催したり、部署横断でステアリングコミッティを設立したりすることも、“軸”をぶらさないために重要である。

 今後は、ウェアラブル端末のような新しいコンシューマITも台頭してくる。スマートデバイスの活用は、そうした新しいトレンドへの対応力を測る試金石だ。また、ソーシャルメディアやパーソナルクラウドなど、コンシューマ向けサービスをビジネス革新に生かす方法を検討するよいきっかけにもなる。

著者プロフィール

藤吉栄二(ふじよし えいじ)
野村総合研究所 IT基盤イノベーション事業本部 基盤ソリューション企画部 上級研究員。2001年に野村総合研究所に入社。情報技術本部にてIT動向の調査と分析を行うITアナリスト集団に所属。2014年4月より、現職。専門はスマートデバイスなどのクライアント端末、ネットワークの先進技術動向調査と企業活用研究。そのほか、ITを活用した最新のリテールサービスの調査も実施中。主な著作は「ITロードマップ」(共著、東洋経済新報社刊)

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