[深化するSCM]

物流センター改革の次の一手、タスク管理からリソース管理へ:第3回

問題解決に必要なワークフォース管理

2014年5月26日(月)アビームコンサルティング

「SCM(Supply Chain Management:サプライチェーンマネジメント)」というキーワードが登場して約30年が経つ。企業全体のコストの最適化を図るために、多くの企業がSCMに取り組んできた。しかし、先進企業は、より深部の業務課題にフォーカスし、さらなるコスト改革へ取り組んでいる。前回は、改めて脚光を浴びている「S&OP(Sales & Operations Planning:販売・業務遂行計画)」について解説した。今回は、物流、なかでも物流センターにおける次の一手を取り上げる。

 サプライチェーンの土台を担っているのは物流機能である。物流の最適化なしにサプライチェーン最適化は実現できない。SCM(Supply Chain Management)の概念が登場するはるか以前より、物流の最適化・効率化は検討され続けてきた。各社とも種々の手を打ってきたことだろう。

 物流は大きく5つの機能からなっている。輸送、保管、荷役、包装、流通加工だ。これら5大機能のうち、輸送を除く4大機能を担っているのが物流センターである。物流の最適化・効率化のほとんどは、この物流センターが舞台になる。

物流センター運営の”深化”に必要な2つのコントロール

 物流センターは、購買部門や販売部門などから入荷予定や出荷指示を受け日々の業務を遂行している。その物流センター運営の“深化”と効率化において重要なことは、人材を中心としたリソースコントロールとコストコントロールである。

リソースコントロール:物流センターの作業工程は一度決めてしまうと変更が容易ではない。多くの制約(設備制約、庫内レイアウト制約、WMS制約など)が発生してしまうからだ。柔軟にコントロールできるのはリソースしかない。タスク量に合わせて、いつ、どこに、どれだけ配置するかのリソースコントロールが重要になってくる。

コストコントロール:物流センターの運営において、コストは最も重要なKPI(Key Performance Indicator)の1つだ。サービスレベルや品質レベルの達成も重要であるが、収支が伴っていてこそである。コストとしては、物流資産(倉庫・設備・マテハン、情報システムなど)が目立つかもしれないが、いずれも固定費であり柔軟なコントロールはできない。コントロールできるのは基本的に人件費だ。大規模な物流センターでは、1日に200~500人程度の人が働いている。年間5億~10億円ものコストが発生していることになる。

 物流センターの運営を担っているセンター長や管理者は日々、リソースやコストをコントロールしなければならない。

 具体的には、まずリソースに対しては、各工程において、いつ、どれだけ人が必要なのか、その結果出荷時間は守れるのかといったことをコントロールする。その結果どれだけコストが掛かかるのかを見るのが、コストコントロールである。もちろん日中は、進捗が予定通り進んでいるのか、人はちゃんと稼働しているのかなどを見ながら、人の配置も替えていかなければならない。

物流センター用ITシステムの現状と限界

 ところが、現在、多くの物流センターが導入している情報システムである「WMS(Warehouse Management System)」には、大きな問題がある。物流センターを運営するうえで重要な管理要素だと指摘した、リソースとコストの概念が抜けていることだ。

 WMSが持つ機能は、次の2つの機能である。現物を動かすための「タスク管理(作業指示・実績管理)」機能と、現物が、どこに、どれだけ、どういった状態で存在するかを把握するための「在庫管理」機能である。これらの機能によって、物流センター運営の高度化・効率化が実現されたことは間違いない。

 しかし、リソースやコストといった概念がないWMSでは、リソースコントロールとコストコントロールを支援できない。そのため、経験と勘に頼っていたり、そもそもコントロールしていなかったりする。つまり、現場の作業者支援できても、物流センター長や管理者の運用業務を支える仕組みはないということだ。

荷主と物流事業者が抱える問題

図1:物流センターのアウトソーシングによる、荷主・物流事業者の双方に起こっている弊害図1:物流センターのアウトソーシングによる、荷主・物流事業者の双方に起こっている弊害
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 さらに現在の物流センターでは別の課題もある。多くのメーカーや流通業者、すなわち荷主が、物流センターの運営を物流専門事業者へアウトソーシングしていることだ。荷主は物流コストの削減やサービスレベルの向上を実現したいのに対し、アウトソーサーである物流事業者は事業の拡大を図りたい。それぞれのメリットが得られる一方で、双方に弊害も生まれている(図1)。

荷主側の弊害:物流センター運営のブラックボックス化が進行してしまう。ブラックボックス化により、適正な運営がなされているのか、妥当なアウトソーシングの料金なのかの判断が困難になってくる。結果、物流事業者に対する管理・統制が効きにくくなってくる。漠然と「物流事業者の改善活動が不十分だ」と感じている荷主が多いのではないだろうか。

物流事業者側の弊害:事業の拡大に伴い、物流センターの運営を担える人材の不足に悩まされる。物流センターの運営レベルは、センター長・管理者の能力に強く依存しているためだ。個人の能力を上げるための人材教育などが実施されているが、現状を見る限り、期待するほどの効果は出ていないのが実情だろう。

問題解決に必要なもの

 では、荷主と物流事業者のそれぞれが抱える課題を解決するためには、何が必要なのであろうか?

 荷主にとっては、物流事業者を管理・統制するために仕掛け、つまり運営実態の見える化が必要である。一方、物流事業者にとっては、個人の能力の向上だけではなく、センター長や管理者が日々運営していくのに必要な仕組みを整備し、底上げを図ることが必要である。

 これらの課題解決手段として、アビームコンサルティングでは「WFM(Work Force Management:ワークフォース管理)」ソリューションを開発し、顧客企業の物流センターにおいて導入を進めている。

図2:WFMソリューションのコンセプト図2:WFMソリューションのコンセプト
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 WFMは、図2に示すように、2つのPDCA(Plan、Do、Check、Aciton)サイクルを管理するのが特徴だ。1つは、「リアルタイム・日次PDCA」である。日々の運営管理業務や実際の運営を効率化するために、人員配置計画、作業支援、進捗管理、人員再配置といったサイクルを回す。もう1つは、「週次・月次PDCA」である。スタッフスキル管理、工程別生産性、収支管理といったPDCAサイクルを管理する。

 荷主は、アウトソースしている物流センターへWFMを導入することで、物流事業者側の工程別コストや生産性の見える化が実現できる。コストが明確になれば、ゲインシェアリング(下がったコストを双方でシェアする)などのスキーム構築も可能になる。物流事業者が実施する改善活動にインセンティブを与え、改善停滞を打破できるようになる。

 一方の物流事業者は、WFMの導入により、物流センター運営のPDCAサイクルを構築し、管理者比率の低減や、生産性・収益の向上を実現できる。現状の運営レベルや物流センターの特性にもよるが、WFM導入により10%以上のコスト削減が可能になると考えている。

 WFMによって期待できる効果として、当社が実施しているプロジェクトから、出荷進捗管理の例を示す。

 対象の物流センターは、ピースソーターが導入されているスルー型センターである。そこでは、出荷の全体進捗を管理しようとしている。物流センターでは、トラックの出発時間が決まっているため、時間に追われることも多く、進捗の見える化の意義は大きい。

 WFMによって、リソースとタスクを紐付けた進捗の見える化を実現することで、次のようなことが分かるようになる。

・平均生産性は当初計画処理量と較べてどうか?
・ピースソーターのライン別の進捗率はどうか?
・いつ完了する見込みか?

 見える化により、以下の様な具体的なアクションが取れるようになり、コスト削減やサービスレベル向上の効果が見込まれている。

・追いかけなければならない数字が明確になっていることによる、作業員の意識向上と生産性向上
・進捗が計画値より進んでいるラインから、遅延しているラインへの人員配置換えによる遅延回避
・完了見込み時間の早期把握による、配送部門早期連携と遅配回避策検討

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