日本の情報処理技術者試験を元にした「アジア共通統一試験」。従来の6カ国にバングラデシュが加わり、着実に広がりを見せている。日本にとって大きな意味を持つ施策だが、課題も少なくない。
試験の知名度や予算縮小など課題も見え隠れ
と、いいことずくめのようだが課題もある。各国がアジア共通統一試験を実施する理由の1つには、オフショア開発など日本のIT需要を取り込む狙いがある。ところが試験に対する日本企業の認知度が低く、実需につながっていかない可能性がある。これが課題の1つだ。「実際の業務受託につながるかどうかはともかく、合格者を抱えていれば、日本企業と商談しやすくなる状況を作りたい。そうでなければ受験者や合格者が増えないおそれがある」(各国の試験をサポートする情報処理推進機構の関係者)。
2つめの課題は、政府の情報処理振興予算の縮小のあおりを受けて、遠からず日本からのサポートができなくなる可能性があることだ。実のところ、7カ国にまで情報処理技術者試験と同じ試験を拡大できたのは、2000年頃からアジア各国に働きかけ、試験制度作りから問題作成、実施まで日本が相当の負担をしてきたからだ。現在もアジア共通統一試験の問題作成時に、各国の担当者が集まるための交通費の一部を日本が負担している。その負担をなくす方向なのだという。
「各国が自立して試験制度を運営できるようになれば、それ以上、支援する必要はないという理由」(同)からだが、話はそう単純ではない。アジアのIT先進国、つまり中国や韓国、シンガポールやインドはそれぞれの試験制度を運用しており、近隣諸国に採用を働きかけている。一方、アジア共通統一試験の合格者は各国とも数十人から数百人と、まだ少ない。十分に浸透したと言えないこの段階で日本が手を引けば、試験制度が別の国の制度で上書きされてしまう可能性が高まる。
「ITスキル標準(ITSS)」も大きな課題の1つになりそうだ。現在、世界各国でITプロフェショナルが備えるべきスキルの標準を策定し、広げる動きがある。英国の「SFIA」、EUの「e-CF」、米国や日本のITSSなどがその例だが、アジア諸国の間ではSFIAに関心を示す動きがあるという。日本のITSSが2008年以来ほとんど改訂・更新されておらず、英語版がドラフト版しかないためである。後継版としてIPAが力を入れるCCSFはスキル・ディクショナリの位置づけであり、英語版もない。
だが試験制度とITスキル標準は、ITプロフェッショナル人材育成や採用/評価において対になるもの。まったく別の業界だが自動車の分野では業界団体の日本自動車工業会が4月、「国際標準検討会」を立ち上げた。日本の自動車産業は世界で35%のシェアを持ちながら、国際標準や規格の面でほとんど存在感がないことに危機感を持ってのことだ。今後、ITSSやCCSFをどうするのか、やや大げさかも知れないが、日本のIT戦略が問われている。