[市場動向]
オープンデータをイノベーションの起爆剤に
住民と行政の取り組みに企業が貢献できること
2014年12月12日(金)柏崎 吉一(エクリュ 代表社員)
成長戦略の柱の一つとして日本政府も注目する「オープンデータ」。啓蒙活動を展開するオープン・ナレッジ・ファウンデーション・ジャパンが近況を報告すると共に、2015年2月に開催する「オープンデータデイ2015」について説明する会見を開いた。草の根的な取り組みも活発化しているオープンデータの最新トピックをレポートする。
成長戦略の柱の一つとして日本政府も注目する「オープンデータ」。新産業・新サービスの創出が期待されると共に、全国各地でオープンデータを活用した草の根的な取り組みが広がりを見せている。住民の減少・高齢化や地場産業の衰退に直面する各地域の課題解決や活性化につながるからだ。
「国や行政主導の“町おこし”と、どう違うの?」と首をかしげたくなるかもしれないが、それとは一線を画している。少なくとも3つの点で異なる。
- 当該市町村にゆかりのある、住民主体の動きであるということ。取り組む自治体はおおむね財政状況が厳しく職員だけで行政運営の質を維持・改善するのは困難で、市民の参画が欠かせないという状況に直面している。
- この取り組みではオープンデータを活用したハッカソン(アイデアやスキルを持ち寄る開発イベント)などのアプリ開発やデータの可視化・分析にITを積極的に利用している。ただし、ITエンジニアだけが参加するのではなく、アプリを利用する一般の利用者や課題を抱える当事者を巻き込んでいる。
- この取り組みが国際社会における大きな潮流の中に位置付けられる。
日本におけるオープンデータに関する正しい理解と普及啓蒙にいち早く努めてきたのが、一般社団法人オープン・ナレッジ・ファウンデーション・ジャパン(Open Knowledge Foundation Japan、以下OKFJ)である。去る2014年11月13日、OKFJは、オープンデータ記者説明会 兼 オープンデータデイ2015開催記者発表会を、国際大学GLOCOM(東京・六本木)で開催した。
市民・行政が中心として語られるケースの多いオープンデータだが、その取り組みに対して企業がどのようにアプローチするべきか、という観点で会見の様子をお伝えする。
オープンデータはグローバルな文脈で捉える
OKFJの代表理事であり、国際大学GLOCOM主任研究員の庄司昌彦氏は、「オープンデータを巡る官民の動きはますます活発になっている」と述べた。
2013年以降、G8(主要国首脳会議)におけるオープンデータ憲章の合意、日本政府においてはオープンデータカタログサイトの開設などがあり、オープンデータがキーワードとして注目される機会が増している。
とはいえ、まだ十分に、オープンデータが正しく認識されていないと庄司氏は懸念する。「最近国内で『オープンデータ』を冠したコンテストを見かけるが、規約によく目を通すと『学術限定』といった条件が付されている。オープンデータの“オープン”に込められた意味は、公開だけでなく加工や編集を含めて誰でも“自由に使える”ことが重要だ」(庄司氏)。
個人情報のように法律で開示すべきでないと定められたデータとオープンデータとの混同や、誤解を招きかねない報道も散見される。オープンデータは行政機関などが公開できる情報の中で、アプリの作成やデータの二次利用に適したものを指す。個人情報や機密情報などについてはルールに沿って漏洩しないように配慮をする。
オープンデータの定義や考え方は、イギリスに拠点を置くNPO組織オープン・ナレッジ・ファウンデーション(Open Knowledge Foundation、以下OKF)が示しているものだ。OKFJは、このOKFの趣旨に賛同するメンバーからなる日本のコミュニティである。
OKFが主宰するOpen Knowledge Fesitivalに参加した庄司氏は、「オープンデータに注目するのは先進国だけではない。OKFと世界銀行が連携し、途上国におけるオープンナレッジを推進しようとしている。政府の透明性を高め、民主政治を確立するためにオープンデータの推進が欠かせない」(庄司氏)。
さらに、データをオープンにする際のライセンスや表示の仕方、個人情報保護のルール・体制作りなどで国際間のコンセンサスを図り、「つながった経済」(庄司氏)という緩やかな経済圏の構築に向けた議論をOKFでは視野に入れていることに触れた。G8で合意するオープンデータ憲章についても、将来的にG20へと参加国の拡大を予定しているという。オープンデータは、このような国際的な文脈の上で語られていることを常に意識する必要がある。