交通カードシステム刷新という大型案件に臨むに当たり、日本ITCソリューション課長の佐々木や、香港支社長の森山、共同提案する三井商事の筒井らは、競合する中国IT企業の北京鳳凰について、より詳しく内情を探ることで意見が一致した。「彼を知り己を知れば百戦殆うからず」や「人に頼って敵の情報を得る」という孫子の兵法に沿った行動だ。そして、北京鳳凰の行動には何か裏がありそうだと考え始めていた。
「採算を無視してくるということは、きっと何か裏がありそうです」という佐々木の見方に対し森山は、相槌を打ってこう続けた。
「そうだと思います。佐々木さん、早く北京に行きましょう」
森山の強い言葉を聞いて佐々木は、孫子の兵法の作戦篇に、こういう一節があることを思い出した。
「故に、兵は拙速を聞くも、未だ巧久(たくみひさしき)なるを賭(み)ざるなり。夫れ兵久しくして国を利する者は、未だ有らざるなり。故に尽く用兵の害を知らざる者は、則ち尽く用兵の利をも知ること能わざるなり」
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