香港・交通カードシステムの刷新案件の競合相手は中国の大手IT企業の北京鳳凰。同社の出方を探るため、日本ITCソリューション課長の佐々木と香港支社副社長の森山は、北京鳳凰の蘇総経理に会うことにした。アメリカが長い蘇総経理には、アメリカの話題から切り出せば信頼を得られるのではないかという議論を2人はしていた。そのうえで佐々木は森山に、孫子の「正」と「奇」について解説し、中国人とのビジネスでは「奇」すなわち想定外の作戦が必要だと説いていた。
佐々木は、慰安婦問題を例にとりながら、森山に孫子の「正」と「奇」についての話を続けていた。
慰安婦問題の根底には、それ自体の問題だけでなく、日本人が日頃から日本の立場とか意見について世界に発信していないし、コミュニケーションもしていないという問題がある。日本人が世界の人たちと交流していないということは、グローバルリーダー以前の問題であり、より大きな課題だ。
政治問題に限らず、ビジネスの世界においても日本人は同様の問題を抱えている。それで、彼らと交渉あるいは共同でビジネスを進めて行くうえで、仕事をうまくやって行けるのだろうか?勿論、営業する国ごとに、その対応方法は異なるだろう。これまでは、M&A(企業の統合・買収)の後は、先方に任せるケースが多かった。だが、海外市場でモノを販売して行く比重がますます高まることを考えれば、彼らに一層深く関与していく必要がある。
その“一層深く関わっていく”やり方が、孫子の「正と奇」なのだ。日本人が外国人を騙すということではなく、彼らがそうした環境で育ってきているということを理解するということだ。そうして初めて、外国人が「奇」を使ってきたときに日本人はその「奇」に対応できる。そうしたことに習熟する必要がある。従来の日本的なやり方では、買収行為もさることながら、買収後の企業に対する経営もおぼつかない。このままでは日本企業の海外でのさらなる成長は期待できない。
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