テクノロジーの発展が引き起こす課金システムの革新:第5回
2015年10月30日(金)Andrew Tan(独Enterest CEO)
テレコム業界で導入が先行する課金システムですが、他業界でもサービス化が進む中で課金システムの重要性が増しています。前回は、急速に広がったソーシャルメディアが課金システムに与える影響を考えました。今回は、テレコミュニケーションにおける技術革新が課金システムに与える影響を考えます。
テレコミュニケーションにおける技術革新により、携帯デバイスやウェアラブルデバイスでもインターネットが使えることが当たり前になりました。それに伴って、顧客の要求も膨らんでいます。さらに、ネットワークを介して各種のサービスを提供するOTT(Over the Top)プレイヤーが、テレコミュニケーションの領域に進出してきたことにより、市場の収入モデルは大きく変化しました。
これまで、通信サービス事業者(CSP:Communication Service Provider)は提供するサービスそのもので収入を得てきました。しかしOTTプレイヤーは、アプリ内広告や音楽のオンデマンド課金など、通信サービス事業者が想定していなかったビジネスモデルで収入を得ています。
デジタル時代のトレンドは、さほど新しくはない
ここで、通信サービス事業者に危機をもたらすような重要トレンドをリストアップしてみましょう。
スマートデバイス:初代iPhone(2007年)の登場によって始まった、いわゆるスマートフォンの台頭はとても革新的でした。ゲームからオンラインバンキングに至る数多くのアプリケーションが出現し、今や従来型の携帯電話(フィーチャーフォン)のほとんどがスマートフォンに置き換わろうとしています。
ネットワークのコモディティ化:通信サービス事業者はかつて、携帯電話のOSやネットワークアクセスを独占しようと試みたこともありました。だが、それは失敗に終わり、固定回線やモバイルネットワークは、完全にコモディティ化しています。ネットワークは、通信サービス事業者が恐れていた、“単なる土管”になってしまったのです。
OTTプレイヤー:スマートフォン上に“アプリ革命”をもたらしました。つまり、コンテンツの制作やゲームを開発した小規模な企業が、それを通信サービス事業者のネットワークを通じて販売することで、多数の顧客から収入を得るというビジネスモデルの登場です。10億円規模の収入連鎖モデルが、通信サービス事業者の手を借りずに実現されたのです。
顧客の知識向上と情報の透明性:新世代の人々は、スマートフォン以前の世代よりもずっと聡明です。彼らは技術をよく理解し、その活用方法を次々と考え出します。通信サービス事業者にすれば、彼らが良く使うソーシャルネットワークを通じて、彼らの動きを把握し、そのニーズに合った商品を作っていくことが必要になっています。
IoT(Internet of Things:モノのインターネット):最新トレンドの1つがIoTです。既に多くのモノがインターネットに接続され、重要情報をやり取りしています。技術の進歩により、さらに何十億もの小さな部品がインターネットに接続されるようになるでしょう。
通信サービス事業者は、これらのトレンドに追いついていくだけでなく、第2回で指摘したように、この波を乗りこなしてみせる方法を見いだす必要があります。
課金こそがビジネス成功の鍵
通信サービス事業者は近年、ブロードバンドアクセスの帯域幅拡大と品質向上に力を入れてきました。それは彼らの得意分野であり、需要の高まりに伴って収入も増加しました。しかし、土管の帯域幅を拡大する以外に、革新的な商品を作り出せなければ、ブロードバンドビジネスもやがて行き詰るでしょう。
サービスに“課金”はつきものです。いかに革新的なサービスでも、うまく課金できなければ、ビジネスとしては成功しません。ビジネスが成功するかどうかは、課金をいかに上手く扱うかが鍵になるのです。
ここで「課金を上手く扱う」とは、単に請求書を作ることだけではありません。顧客のニーズを理解し、それを積極的に取り込むことで新たな収入が得られます。例えば、IoTデバイスの急増に伴い、いろいろな新サービスが生まれると思われますが、それはまた、課金システムへのデータ増加や新しいニーズにつながります。
過去においても通信サービス事業者は、課金の新しいニーズに対応してきました。ただ、そのスピードはゆっくりとしたものでした。それが今や、個々の顧客ニーズに迅速に対応することが求められ、その要求に対応できない通信サービス事業者はやがて、デジタル革命に取り残されてしまうでしょう。
次世代の課金システムの必要条件
かつての課金システムは、通信サービス事業者のニーズに従って開発され、主要機能は請求書の作成でした。では、今求められている顧客ニーズに合わせた課金システムとは、どのようなものでしょう。
例えば顧客は、通信サービスをどのように、どれだけ使っているのかというリアルタイムの情報を欲しがっています。こうした情報は、利用データをたえず抽出・分析することで得られます。つまり、次世代の課金システムは、リアルタイム処理を基本に設計されていなければなりません。
既存の課金システムベンダーは、旧式のバッチ処理ベースの課金システムをなんとか改造し、「統合ソリューション」として通信サービス事業者に販売しようとしています。しかし、最初の段階で1つの課金システムとしてデザインされていないため、顧客から多くの要求が出されるにつれ、この「統合ソリューション」には欠点が目立ち始めます。
これは、全く異なるプラットフォームが必要なのに、従来型の課金システムを次世代の課金システムに改造しようと試みた結果です。それはバイクを改造して自動車にしようとするようなもので、必ず失敗するアプローチです。
通信サービス事業者は、ベンダーの話を鵜呑みにせず、現行の課金システムの存在を一度忘れて、どういうシステムが必要かをゼロベースで考えなければなりません。その上で、現在の環境から、どのように進めてゆくかを考える必要があります。
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