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[ビッグデータが変える課金システムの姿]

ビッグデータから利益を生み出すためのチャレンジ:第3回

2015年8月28日(金)Andrew Tan(独Enterest CEO)

第1回と第2回では、これからの課金システムを考えるために、導入が先行しているテレコム業界の課金システムの発展経緯と課題を紹介してきました。将来に向けて、あらゆる課題に効き目がある解決策を打ち出すことは、なかなかできません。今回からは、課金システムにおけるビッグデータの課題と、チャレンジについて考えていきます。

 最近、通信サービス事業者(CSP:Communication Service Provider)やテレコム分野の技術ベンダーと話をすると、「ビッグデータ」というキーワードが必ず出てきます。ビッグデータは今や、どこのカンファレンスでも重要なテーマになっています。誰もが「ビッグデータで何をするのか?」「どんな計画があるか?」などに興味を持っているようです。

 筆者のこれまでの専門家としての経験でも、このような全く新しい可能性を目にするのは初めてのことです。周囲がこんなに盛り上がっていることもありませんでした。データ量が絶えず増加しており、さらに増加していくことは、誰も疑ってはいません。

 しかし、ビッグデータが必要であるとは誰もが感じてはいるものの、ビッグデータの存在は漠然としており、手がかりがありません。何に関するデータがどう広がり、何が起ころうとしているかまでを詳しく分かっている人はほとんどいないのです。そのため企業側も、どうすればビッグデータから利益を生み出せるのかという課題に戸惑っているのです。

ビッグデータを無視すれば市場では負け組に

 「ビッグデータ」という言葉は、一部の人々が“普通のデータ量”と“膨大なデータ量”を区別するために作り出したものです。この記事では「ビッグデータ」が意味するところを次のように定義することにします。

RDB(Relational Database)のような既存のデータマネージメントシステムや、DWH(Data Warehouse)のような処理システムの容量を超えるデータ量によって、有意義にデータの保持やデータの処理ができるもの

 もちろん、これはとても主観的な考えです。他業種では、異なる解釈をされることもあるでしょう。技術の進歩によっても、どれくらいの量のデータのことをビッグデータとみなすかという定義は変化していきます。スマートフォンの普及によるユビキタスな時代、IoT(Internet of Things:モノのインターネット)やSNS(Social Networking Service)、LTEや5Gといった新しい技術はすべて、データ量の急上昇に影響を与えているからです。

 ビッグデータが、消費者と企業の双方にとって意味のある価値を作り出す機会であることは間違いありません。ビッグデータはすでに現実のものになっています。通信サービス事業者は、このビッグデータをどう活用して利益につなげるかを考える必要があります。

 テレコム分野において、ビッグデータはもはや経営層だけの問題ではなくなっています。ビッグデータを無視するようなことをすれば、それは市場で負け組になることを意味します。

CSPはGoogleやAmazonと同等のビッグデータを持っている

 すべての通信サービス事業者(CSP)は、巨大なDWHを既に稼働させています。それらがサービスの創出と発展に寄与してきたことは確かです。そして今、組織内の他のデータや第三者からのデータも含め、これまでの何百、何千倍の情報を使って顧客動向について詳細に分析できるようになりました。米Googleや米Amazon、米Facebookなどは継続的、かつリアルタイムにそうした分析を続けています。

 ユーザーは、あらゆる情報をネットワーク上に残していきます。通信サービス事業者は彼らがどこに住み、誰とつながり、どんなゲームをして、どのWebサイトを訪れたかなど、日々の行動に関する情報を知ることができます。当然、旅行先の情報も得られるでしょう。

 そう考えると、通信サービス事業者はGoogleやFacebookよりも多くの情報を持っているはずです。つまり、保有している情報量を考えれば、そこに大きな差はなく、通信サービス事業者は彼らに追いつけるはずなのです。

 データから利益を生み出す方法は多数存在します。よく利用される方法は、顧客動向をより分析し、革新的な商品を提供する形で新しい収益の道を引き出すことです。顧客の行動に関するデータを第三者に売ることも、最近はよく行われるようになりました。加入者の属性情報や利用実績データが正確であればあるほど、ニッチな商品を作り上げることが容易になりますし、市場でより注目されることになります。

 より良い情報によって顧客の満足度が上がると、サービスの使用量が増え、解約も減少して、さらなる利益を生み出します。どこに投資すべきかを理解することによって、全体的なCAPEX(Capital Expenditure:資本的支出)とOPEX(Operating Expense:運用費)を削減し、競争相手との差異化が実現できるでしょう。

 このように、ビッグデータは戦略上とても重要です。にも関わらず最近の調査では、ビッグデータ解析を重要視しているのは、通信サービス事業者においても50%を若干超えるだけであり、その他全員は「今のところ何の計画もない」としています。しかし、ビッグデータを否定し続けることは、現代の先進工業国においてサイバー攻撃への対応策を準備することを拒むことと等しいと言えます。よく考えてみてください。

ビッグデータに取り組むためのチャレンジ

 ビッグデータを活用するための大きなハードルは、多くの意思決定者がビッグデータの可能性を理解しておらず、何かを逃しているということにまだ気づいていないということです。仮に彼らがビッグデータを理解し注目を向けたとしても、実際に利益を上げるためには、多くの投資が必要です。

 ほとんどのシステムは、通信サービス事業者が利用可能なすべての情報を収集するようには設計されていません。すべてのデータを共有する仕組みになっていない可能性があります。結果、システムの改造や再構築に大きな投資を要します。

 まずいことに、これからビッグデータ戦略を進めようとすると、有能なデータアナリストやデータサイエンティストといったエンジニアは既に枯渇状態にあります。それでも、上述したように、飽和状態のマーケットで生き残ろうとすれば、ビッグデータへの投資を躊躇(ちゅうちょ)しているときではありません。

 ここで改めて、ビッグデータ戦略で成功するために必要な要素をまとめると、次の3つになります。

(1)計画立案
(2)データフレンドリーなシステム環境
(3)有能なエンジニア集団

 この単純なアプローチにしても、どこから手を付ければいいのか迷うことでしょう。筆者は1つの戦略がすべての戦略に有効だとは思っていません。重要なことは、「どこからでもいいから、とにかく始める」ということです。長い冒険も最初の1歩から始まるのです。

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