日本ITCソリューションの課長である佐々木。香港での案件の競合相手である中国の大手IT企業、北京鳳凰の蘇総経理との面談を控え、本題をどう切り出すかに悩んでいた。香港支社副社長の森山と別れ1人、ホテルに戻ったものの、孫子の「正」と「奇」にある「奇」、すなわち想定外の作戦は思い浮かばなかった。北京に出発する日の朝になっても状況は変わらず、ホテルの部屋でテレビのBBCニュースを漫然と眺めるだけだった。
朝食を採り部屋に戻った佐々木は、現地紙『サウスチャイナ・モーニング・ポスト』に目を通してから、テレビのスイッチを入れた。BBCニュースの画面には『Ukrainian separatists ask to join Russia(ウクライナの分離独立主義者たちがロシアへの編入を求める)』という記事が流れていた。
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ニュースは、ウクライナ東部の都市、ドネツクが独立宣言をし揉めていると伝えていた。直前に、クリミア自治共和国が、住民投票でロシア編入への賛成票が95%を超え、議会がウクライナからの独立を宣言(表1)。ロシアが3月18日に併合したばかりだった。米欧は「軍事的脅威を背景にした領土略奪だ」との批判を強め、G8からロシアを排除していた。
佐々木は、このウクライナ問題でロシアへの制裁が世界経済に与える影響が気になってはいたが、今はそれどころではなかった。今朝も「明日は先方と話をしなければならない。どういった話をしたらいいのだろうか」と考えているうちに朝を迎えていた。佐々木は、重い気持ちのまま香港支社に向かった。支社に着くと、副支社長の森山はすでに出社していた。
「やあ、昨晩は遅くまでご苦労様でした。先ほど筒井さんに電話して、10時に飛行場のスターバックスで待ち合わせることにしました。そこで昨日の続きを話しましょう」と森山は佐々木に話しかけた。
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