高度情報通信人材育成支援センター(略称CeFIL、横塚 裕志 理事長)が、大手企業の経営幹部層を集め3日間に及ぶ「デジタルビジネス研修」を2015年11月末に実施した。果たして内容はどんなものか。経営幹部層を3日間も缶詰にした意味はあったのか?
「2014年のAgendaのテーマは『デジタルという名の竜を飼い慣らせ』だった。口から火を吐く怪物だが、味方につけると心強い存在だ。15年は『旧態をはじく!デジタルリーダーへの道』だ。CEO/CIOの役割は管理ではなく、デジタルを理解し、組織をインスパイア(刺激)することであり、それがリーダーシップだ。16年はさらに進んで『デジタルプラットフォームの構築』。具体的に戦略を推進せよ、という意味だ」
その上で小西氏は、先進企業の事例を取り上げる。といってもUber TechnologiesやAirbnbのような米国ベンチャー企業の例ではない。「変なホテル」という名前のホテルである。長崎のハウステンボスが運営するロボットが話題のホテルだ。フロント業務も荷物運びもロボットが行うので話題になっているから、ご存じの読者もいるだろう。「デジタルリーダーへの道」の例となる、変なホテルについて小西氏はこう話す。
「奇をてらったように思えるが、このホテルでは、人件費や建設費といったコストを究極に抑えている。同ホテルの72の客室を持ち、通常なら25人のスタッフが必要だ。それをロボット化で11人にしている。人の役割は、ロボットと宿泊客のインタラクションをモニタリングし、より良いインタラクションになるように変えていくことで、常に変わることを前提にしている。建設費も抑えた。土地効率を考えれば3階建て以上になるところを2階建てにし、ほとんどは工場で組み上げ現地では設置するだけにした」
プラットフォームはIT だけではない
一方、「デジタルプラットフォームの構築」の例としては、英国のネットスーパーOcadoを取り上げた。同社は、倉庫や物流にお金をかけることで、「新鮮な生卵を買うならOcado」という市場評価を得ているという。
「Ocadoが登場したとき、老舗スーパーの英Morrisonsは『顧客はネットでは生鮮食品を買わない』と無視していた。しかし今、MorrisonsはOcadoを使ってネットでビジネスをしている。これがプラットフォームの例だ。Ocadoにとっては、競合相手が同居することで効率化を図れるし、Morrisonsにすれば自社でやるより早く最適にできる」
これだけだと、プラットフォームはIT基盤のことに思えるが、そうではない。小西氏によればプラットフォームは、(1)ビジネスモデル、(2)リーダーシップ、(3)タレント(人材)、(4)デリバリー、(5)ITインフラストラクチャーの5層がある。つまりITプラットフォームは、そのうちの1層に過ぎない。
5層モデルを説明した上で小西氏は「それぞれのプラットフォームについて、企業は行動計画を策定する必要がある。『実施済み』『今年実施』『3年以内に実施』というタイムフレームを横軸に、5層のプラットフォームを縦軸にして、実施内容を書き出していく」と指摘する。
だが、そもそもプラットフォームとは何か、なぜ5層であり、それぞれを進化させる必要があるのか?この点について小西氏からは明確な説明がなかったが、「オープンかつ俊敏に他とつながる仕組み」と考えられる。対極に位置するのがブラックボックスでクローズドな仕組みだ。
そう理解すれば、5層が必要な理由は自ずと明らかになる。例えばビジネスモデルがクローズドなままなら、ITインフラだけをプラットフォーム化しても、Ocadoの例のようには機能しない。なお小西氏の講演資料は掲載できないので、代わりに横塚理事長が示した図5を掲載する。5層プラットフォームのイメージを把握するのに役立つはずだ。
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Bimodalに向けたCIOの取り組みは間違っている?!
この後、小西氏はガートナーが提唱する「Bimodal IT」に言及した。直訳すると「2つの流儀のIT」、つまりITには企業内の業務システム群と顧客や製品をつなぐイノベーションのためのシステム群があるというものだ。小西氏は、こう説明する。
「よく誤解されるが、Bimodalは全く別の2つの何かを意味するものではない。むしろ2つのピークがある連続曲線のイメージだ。そしてBimodalはITに限らない。人材にも、儀礼や秩序の重視と、奔放や自由の重視という具合に、モード1とモード2がある。それは経営でも同じで、重要なのは、例えばモード2の人材を企業はどう扱うのかにある。排除しているようではイノベーションには、つながらない」。
そのうえで、「CIO Agenda2016では、Bimodal ITに取り組んでいるCIOは38%。モード2のITに全体の25%を投資しているという回答だった。具体的には、トップはアジャイル開発の76%、逆にクラウドソーシング(Crowd Sourcing=集合知の利用)はわずか8%。結果を見る限り、やることを間違っている。なぜなら、効果があった取り組みは、クラウドソーシングがトップで、最近増えているスタートアップ企業との連携より、その効果が高いからだ。ここにヒントがある」と語る。
少々複雑な話になったが、いかがだろうか?デジタルビジネスに対応するにはテクノロジーは大事である。筆者には、それ以上に経営や人材、リーダーシップに関することが重要だというメッセージに聞こえた。同時に多方面から資金を集め、SMUの協力を得てまでCeFILが「デジタル・ビジネス研究所」を設置する意図(危機感)も見えたように思う。