製品の製造・販売から、予防保全や稼働監視あるいは稼働サービスの提供を含めたサービタイゼーション(Servitiation)へ──。すべてではないにしろ、多くの製造業はIoT(Internet of Things:モノのインターネット)などを原動力にビジネスモデルの転換を迫られている。スウェーデンのERPベンダーであるIFSによると、同社の製造業ユーザーの半数以上は既にサービタイゼーション化の検討に着手しているか、試行・実施中という。
「製造業は製品を製造・販売するこれまでの単発的なビジネス形態から、顧客が競争力を高められるように総合的なソリューションを提供する形態へと、ビジネスモデルの転換を果たす必要がある。事実、当社の顧客のうち純粋な製造業は約600社あるが、その半分以上は、こうしたサービタイゼーションを真剣に検討するか、あるいはすでに試行し、実施している」
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スウェーデンのERPベンダーであるIFSのAntony Bourneグローバル・インダストリー・ディレクターは、欧米の製造業の動きをこう話す(写真1)。
さらに、こうも付け加える。「昨年、数10社の顧客企業を集めてIoT(Internet of Things:モノのインターネット)のセッションを開催した。その際、サービタイゼーションに取り組んでいるかを参加者に聞いたところ、IoTのセッションであることもあって3分の2が手を挙げた」。IoTについては情報収集の段階を過ぎたというわけだ。
だが、そうした製造業は情報システムの手当はどうしているのか?必要なのは、センサーデータの収集や分析といったIoT回りのアプリケーションやシステムだけではない。契約管理や課金管理、設備・資産管理、さらには営業担当者などの業績評価などのアプリケーションも刷新が必要とされる。特に「X as a Service」と称される、サービタイゼーションを超えたサービス化の事業モデルをIFSのERPはサポートしているのか?
Antony Bourne氏は「常に改変しているが、必要なモジュールはおおむね整備済みだ」とする。「IoTについていえば、センサーデータの収集・蓄積はMicrosoft Azure、その先の分析や情報の共有あるいは部品手配のような業務はIFA APPLICATIONで処理する(図1右端の赤色表示のモジュール群)。サービタイゼーションに必要な保守契約管理も、最新ニーズに適合するようバージョンアップしている(図1右から3列目のモジュール群)」。
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ただし、一層の拡張や進化が必要なのも事実だという。「重要度が増しているのが、例えば廃棄。消費財を中心に環境重視が強まっているためで、企業は廃棄やリサイクルを透明性をもって処理する必要がある」(同)。そのために製品の設計、資材や部品の調達、製造、サービスの一連の過程をすべてサポートする仕組み、すなわち情報システムによるサポートが必要であり、IFSとしても製品を強化するというわけだ。
一方、日本でもIoTはまさしくブームの真っ只中。建設機械の位置管理や予防保全を主眼としたコマツの「KOMTRAX」などの先進事例があるほか、オフィスに設置される複合機など、いくつかの業種でサービタイゼーションが進んできた。しかしIoTブームの中、広がりはどうか?今のところは話題先行で、リアルな取り組みは必ずしも急増していないのが実情だろう。
背景には、経営トップの無理解、縦割りの組織構造、IT部門が製造/制御系システムに関わってこなかったことなど、様々な問題がある。「工場サイドにIoTへの取り組みを持ちかけても、生産機械や設備の稼働監視は以前からやっていると拒否される」「(納入する機器の)稼働監視や予防保全などを顧客に提案しても稼働状況を知られたくないからか受け入れてもらえない」といった話もよく聞く。結果、「日本のIoTはInternet of Thingsならぬ“Intranet(イントラネット)of Things"だ」と揶揄する声さえあるほどだ。
つまりIFSというERPベンダーの話であることを割り引いても、欧米に遅れを取りつつあるのかも知れない。しかしIoTは単にセンサーでデータを集め、予防保全ができればいいわけではない。企業の存続に関わる話であり、サービタイゼーションやその先にあるX as a Serviceになると情報システムの刷新が必要だ。製造部門から販売部門、保守サービス部門までを横断する中立的な部門という点も含めて、CIOおよび情報システム部門の活躍が期待される。