[海外動向]

見たり聞いたりする衣服を米国防総省が開発へ、“繊維+IT”でゲームチェンジ目指す米国

2016年4月4日(月)田口 潤(IT Leaders編集部)

人の行動様式や社会制度、競争の条件などを根本的に変えてしまうことを「ゲームチェンジ」と呼ぶ。正確にはゲームのルールを変えるもので、タクシー配車の米Uber Technologiesrや民泊の米Airbnbのビジネスモデルが、その好例とされる。それをもっと大規模に、根本的に引き起こす−−。そんな動きに米国がまい進している。

 中国が世界シェアの70%近くを占める繊維産業。先進国はどこも、じり貧を余儀なくされてきた。ここにICTを持ち込んで産業構造を変革しようと米国が動き出した。米国防総省(DoD:Department of Defense)が2016年4月1日、ICチップやセンサー、発電機構を内包する革新的な糸や高機能繊維を開発・製造するための組織を作ったと発表した(発表資料)。

 IoT(Internet of Things:モノのインターネット)を応用してウェアラブルデバイスに先手を打つというだけではない。既存の成熟した産業にICTを持ち込み、産業構造を変えるなどゲームチェンジを図る。それによって競争力を高める狙いがある。ものづくり大国の日本としては、見過ごしてはならない動きだ。

 DoDが目指すのは、見たり聞いたり通信したり、さらにはエネルギーを蓄えたりができる糸や繊維、および衣服などの最終製品の開発だ。衣服の色の変更のほか、着用者の体温調節や健康状態の監視なども可能にする。もちろん、一般商用用だけでなく、軍用への応用も視野に入れる。例えば、敵から見えなくなる軍服やパラシュート、軍用車の外装などである。ICチップやLED、太陽電池セルなどを糸や繊維に統合して実現する考えで、繊維の強度や耐火性、軽量性も追求する。

写真1:新しい繊維素材には軍用面での期待も高い(NNMIのサイトより)写真1:新しい繊維素材には軍用面での期待も高い(NNMIのサイトより)
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 いささか非現実感も漂うが、実現に向けてDoDは「Advanced Functional Fabrics of America(AFFOA)」を設置した。米マサチューセッツ工科大学(MIT)の「RFT-MII:Revolutionary Fibers and Textiles Manufacturing Innovation Institute」を中核に、30の大学や49の企業、非営利団体など合計89の組織が参加する産官学連携のパートナーシップである。DoDが7500万ドル、民間企業などが3億1700万ドルを拠出し、合計3億2000万ドルを投じて5年計画で研究開発を進める。

 例えば、ナノ繊維メーカーの米FibeRioとオーディオ機器メーカーの米BoseやCPU世界最大手の米Intel、ベアを組んで開発に当たる。米Analog Devicesや米Corningや米DuPontのような素材メーカー、米Nikeや米VF Corporationといったアパレル企業も名を連ねる。本気であることを感じさせる布陣だ。 RFT-MIIも単なる事務局にとどまらず、最先端の設計ツールやナレッジの管理システム、共同作業のインフラなどを提供し、糸や繊維のR&Dから最終製品のプロトタイプ製造をサポートするという。

 この取り組みはオバマ政権が推進する合計20億ドルに及ぶ製造R&D投資「 Network for Manufacturing Innovation(NNMI)」の一環(同活動のポータルサイト)。米繊維業界は過去、縮小を重ねてきたが、機能繊維などのおかげで2009年には上向きに転じた。ITと融合した高機能繊維を開発・製造することで、上昇傾向を加速させたい考えだ。

写真2:米製造業の強さを訴えるインフォグラフィック(NNMIのサイトより)写真2:米製造業の強さを訴えるインフォグラフィック(NNMIのサイトより)
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 繊維を高機能化する研究は、英国やドイツ、カナダなどでも進められ、日本では繊維メーカーの取り組みが先行している。例えば、東レが導電性樹脂をコーティングして心拍数などを計測できる機能性繊維「hitoe」を、東洋紡も同様な「COCOMI」を開発済み。帝人は関西大学と共同で、ねじりや曲げを感知する「圧電ファブリック」を開発した。

 実績の点では日本も頼もしいと言えるが、AFFOAは目標とするレベルや参加組織の多様さといった点で次元が異なる。もちろんAFFOAが成果を生み出せるとは限らない。しかし先行していたはずが、ゲームチェンジによって劣勢に追い込まれる可能性は否定できない。そんな事態だけは、避けなければならないだろう。

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