香港の鉄道カードシステムを巡る大型案件に向けた入札時期が近づいている。日本ITCソリューションとしては、競合相手である中国IT大手の北京鳳凰との共同受注に持ち込みたい。一方で、入札資料の作成も終盤を迎えていた。課長の佐々木は一足先に香港支社に出向き、支社のスタッフに作成を指示していた資料を確認していた。ただ彼らが作った資料では、日本人技術者の投入数が多すぎるようだった。
香港支社で資料作りに携わっていた鈴木は、見積もった人数はできるだけ絞り込んだ結果であり「これ以上減らしてしまうとプロジェクトの品質が維持できなくなる」と主張していた。
その理由を聞いて、佐々木は答えた。
「鈴木さん、日本人だから品質が高いと思い込んでいませんか。それは間違いです。私は北京鳳凰を2度、訪ねましたが、彼らのレベルは決して我々より劣っているとは思えませんでした。もちろん、すべてにおいて同レベルだとは思いませんが、彼らを信頼できる部分は、あなたが思っている以上にあると思います。それに、この体制でしたらコストがかなり膨らんでいるのではないですか」
「そんなことはありません。コストは予定の範囲に入っています」と鈴木は答えた。
そうしたやり取りが何時間も続いた。コストが範囲内に収まっているというのは事実だったが、工数の読みが甘かったり項目の漏れがあったりしていた。結局、8億香港ドル(約124億円)と仮定しても、予定額を15%もオーバーしていた。明日は東京本社から苑田専務と三森事業部長が合流する。佐々木は「これでは夕食どころではないな」と思い始めていた。
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