九州工業大学と、ヤフーグループのデータセンター事業者であるIDCフロンティアが行動センシングに向けた実証実験に乗り出す。そのため両者は2016年6月24日に包括協力協定を締結した。九州工大がヘルスケア分野で実証してきた行動センシングの知見を生かし、IDCフロンティアがデータの収集・分析のための基盤をクラウドサービスとして構築する。8月にも実証実験を開始し2017年3月をメドに結果をまとめる。
九州工業大学とIDCフロンティアが取り組むのは、介護分野におけるIoT(Internet of Things:モノのインターネット)の実証実験。まずは介護スタッフの行動実態をIoTの仕組みを使って把握することで、介護業務の効率改善および質的な向上に向けたデータ収集・分析基盤と、そこでのデータ活用のあり方に筋道をつける。
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そのために両者は、包括協力協定を締結した(写真1)。九州工大は、戦略的研究組織として2015年10月に立ち上げた「スマートライフケア社会創造ユニット」を窓口に、介護分野における行動センシングのノウハウなどを提供。IDCフロンティアは、行動センシングに必要な各種のクラウドサービスを提供する。九州工大はクラウド環境を基盤とした研究の広がりと介護事業者の参画を、IDCフロンティアは九州工大の知見に基づくクラウドサービスの事業化をそれぞれ期待する。
実証実験のテーマに挙げる行動センシングは、スマートフォンなどのデバイスで取得したデータから個人の行動を把握するための取り組み。九州工大はこれまでに、九州大学病院と共同で、熊本にある病院の循環器内科病棟や整形外科病棟に務める看護師の行動をセンシングする実験を通して、機械学習による行動認識アルゴリズムを確立。データから個人の位置に加えて「どんな作業をしていたか」までを特定する仕組みを構築してきた。
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この知見を今回は、介護事業者の現場に適用する。実験に参画する介護事業者は主にIDCフロンティアが募る。そのため九州工大の地元に限らず全国数カ所で実験したい考え。実証実験の意義を九州工大学長の尾家 祐二 氏は、「日本が直面する高齢化問題にITで解決する。介護する人、される人のそれぞれが人間の尊厳をも加味して生活の質を高めるというライフケアの基盤にしたい」と語る(写真2)。
一方のIDCフロンティアは、九州工大の知見を元に、行動センシングプラットフォームとデータ収集のためのIoTゲートウェイをクラウドサービスとして実装し8月にも実証用に提供を始める。行動センシングプラットフォームは、データの蓄積と分析を担うもので、そのための機械学習の仕組みなども用意する。IoTゲートウェイは、各種のスマートフォンなどから送られているデータの形式やプロトコルなどの変換を担う。
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IDCフロンティアは現在、「データ集積地構想」を掲げ、従来型のデータセンター事業に加え、クラウドサービスの拡充や、そうしたサービスを通して得られるデータの蓄積に力を入れている。そのため北九州市にあるデータセンターでは6番目になる新棟の建設も急ぐ(写真3)。
今回の実証実験もデータ集積地構想の一環だ。親会社のヤフーが各種サービスで得ているデータなどとのクロス分析なども視野に入れる。IDCフロンティアの石田 誠司 社長は、「行動センシングの仕組みは、医療・介護分野にとどまらず、小売店における顧客の行動分析などへの適応が見込める。今後は、データの収集・分析のためのノウハウを持つ企業のほか、適用業務のノウハウを持つ企業などとのパートナーシップなども強化し、利用企業が直ぐに使えるアプリケーションとしてサービス化を目指す」と事業化に向けた意欲を隠さない。
IDCフロンティアが大学などとの共同実験に臨むのは今回が初めて。今後は他大学との連携を含め、各種業種におけるIoTやデータ分析に向けたオープンイノベーションに取り組むとしている。