ソフトバンクグループは2016年7月18日、英Armを買収することを発表した。Armの全株式を243億英ポンド(約3兆3000億円)で取得し、完全子会社化する。社長の孫正義氏は、IoT(Internet of Things:モノのインターネット)分野の強化をARM買収の最大の目的として上げている。
ソフトバンクグループが買収予定の英Armは、モバイル機器などの組み込みCPU向けアーキテクチャを中核事業とした半導体ベンダー。正確には、CPU設計のIP(Intellectual Property:知的財産権)をCPUメーカーにライセンス販売しており、CPUそのものの開発は行っていない。
ARMアーキテクチャを採用したCPUは、アップルやサムソン、クアルコムなど世界トップのスマートフォンメーカーをはじめ、多くの日本メーカーにも採用されている。ライバルと目されていたインテルが2016年4月にAtomプロセッサーの新規開発中止、つまりモバイル向け事業からの撤退を表明しており、携帯電話分野での世界的シェアは圧倒的となっている。特に同社のCPUは省電力性に優れており、コネクテッドカーやスマート家電など様々なIoT機器にも実装されている。今後もIoTの普及に合わせて、着実に成長を遂げると見られている。
一方のソフトバンクグループは、米General Electric(GM)の産業向けIoTプラットフォームである「Predix」の国内販売を2015年12月から手掛けている。加えて、2016年5月には傘下のソフトバンクが法人向けのIoTクラウドサービス「IoTクラウドサービス on CONNEXIVE」の提供を開始している。これは、IoTゲートウェイからデータセンター側のアプリケーションまでを、低価格でワンストップに提供するサービスだ。

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そのソフトバンクグループが、Arm買収に費やすコストは約3兆3千億円。これは、同社の過去の大型買収であるボーダフォン日本法人の約1.7兆円や米スプリントの約1.5兆円を大きく上回る、ソフトバンク史上最大の買収額となる。それだけの価値を見出しているということだろう。
今回の買収によりソフトバンクは、Armを通じて世界のIoT市場のキャスティングボードを握ることになる。しかし、Armがこの先もCPU市場に影響を与え続けていくためには、例えソフトバンクのライバル企業に対してであっても公正性を保つことが求められる。そのため、Arm買収がソフトバンク自身のビジネスにどれほどのシナジー効果をもたらすかについては、今のところ未知数と言わざるを得ない。