[インタビュー]
ERPのコアに組み込んだ“自律的に動くAI”が業務を変える─インフォアCEO
2025年11月13日(木)鈴木 恭子(ITジャーナリスト)
MITのレポートによるとAI投資の95%がROIを実感できていないが、米インフォア(Infor)のCEO、ケビン・サミュエルソン氏はその原因を「業界固有のプロセス理解の欠如だ」と指摘する。細分化業種に特化したERPを強みとする同社は、AIをERPのコアに組み込む設計を採る。それを具現化したのが、問い合わせに答えるだけでなく、業務プロセスを理解し自律的に動くAI「Industry AI Agents」だ。ユーザーにどんな恩恵をもたらすのか。サミュエルソン氏に詳しく聞いた。
なぜ、AI投資の95%は失敗するのか
生成AIへの投資が加速する一方、実際にROI(投資利益率)を実感できている企業はわずか5%──。2025年8月、米マサチューセッツ工科大学(MIT)が公開したレポート「The GenAI Divide: State of AI in Business 2025(広がる生成AI格差:2025年ビジネスAI現状調査)」は、AI導入を急ぐ世界中の企業に現実を突きつけている。
米インフォア(Infor)のCEO、ケビン・サミュエルソン(Kevin Samuelson)氏(写真1)は「私もAI投資の厳しい現実を肌で感じているので、このレポート結果に驚きはない」と話す。ではなぜ、多くのAIプロジェクトはその効果を得られないのか。サミュエルソン氏はこう指摘する。
写真1:米インフォアのCEO、ケビン・サミュエルソン氏「AIがどれほど精緻なモデルを備えていても、業界固有のプロセスや商慣習、例外処理を知らなければ、実務には適用できない。それにもかかわらず、多くの企業がその前提を見落としたまま業務適用を急いでいる」
同氏が力説する「業界固有の業務プロセス理解」は、インフォアの差別化要素である。同社は製造、流通、医療、食品、アパレルなど8つの主要業界に特化したクラウドERPを提供しており、マイクロバーティカル(細分化業種)単位での最適化を全面に打ち出している。
例えば、同じ食品業界でも乳製品メーカーと飲料メーカーでは業務プロセスがまったく異なる。自動車業界でも、自動車メーカーとティア1~3のサプライヤーでは受発注や在庫管理の仕組みが大きく変わってくる。インフォアはこうした細分化業種ごとに専用のデータモデルと「プロセスカタログ」を用意している。これによりユーザー企業は、導入時から業界標準の業務フローに沿ってビジネスを実行できる(図1)。
図1:自動車、食品・飲料、ファッションなど業界ごとに業務プロセスは異なる。インフォアはこうした特性を踏まえ、各業界に最適化されたデータモデルとAI自動化で、実務に即した効率化を訴求している(出典:米インフォア)拡大画像表示
サミュエルソン氏は「多くのERPベンダーは、銀行、小売、自動車といった異なる業種を、同じ水平型の製品で扱おうとしている。しかし、その状態でAI機能を組み込むと、業界ごとの要件の違いが障壁となり、期待した結果が得られない」と指摘する。
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