[インタビュー]
SDDCやエッジコンピューティングがデータセンターに与えるインパクト
2016年9月29日(木)河原 潤(IT Leaders編集部)
Software Definedのアプローチをデータセンター全体に適用するSoftware Defined Data Center(SDDC)。コンセプトとして語られた時期を経て、導入に取り組むサービス事業者や一般企業が増え始めている。一方で、IoT(Internet of Things)のメガトレンドから、データ発生源の近くでリアルタイムに処理を行うエッジコンピューティングへの期待も高まっている。こうしたトレンドがデータセンターの設計・構築・運用に与える影響について、シュナイダーエレクトリック データセンターサイエンスセンター ディレクター/シニアリサーチアナリストのビクター・アヴェラー氏に尋ねた。
顧客への正確な情報提供を主目的とする研究分析チーム
――現在、どのような業務に携わっているのですか。
当社内の1組織であるデータセンターサイエンスセンターの運営だ。データセンターに関するトレンドの研究、調査分析と、そこで得られた洞察をホワイトペーパーやトレードオフツール(製品・技術の検討支援ツール)としてまとめ上げ、これらの成果物を通して、顧客に対する啓蒙活動を行っている。
――データセンターサイエンスセンターとは、他のベンダーではあまり見かけないユニークな組織ですね。設立の背景を聞かせてください。
その名称ではなかったが、チーム自体はAPCがシュナイダーエレクトリックに買収される以前からあった。
1990年頃、我々の主力製品は単層のUPS(無停電電源装置)だった。あるとき、競合会社が技術的に間違った情報を提示して顧客にアプローチしていることを知った。そのことへの我々の対処として、競合が間違って伝えた技術情報を正すことにした。「テックノート」と呼ぶホワイトペーパーを、このチームの設立者の1人であるニール・ラスムセン氏が書き上げた。
これをきっかけに、我々は電源管理製品だけでなく、データセンターにまつわるさまざまな分野のホワイトペーパーを執筆し、顧客に無料で公開することにした。顧客に対する正確な知識を持ってもらい、そこから正しい判断をしてもらいたいという思いからだ。
――競合の間違った情報がきっかけというのは面白いですね。
現在、製品開発チームや営業チームからは独立したかたちで、米国に3名、中国に2名の合計5名が、データセンターサイエンスセンターのアナリストとして研究、分析、顧客への情報提供に専任で携わっている。
データセンターの構築や運用に悩みを持つ顧客に、有用で正しい情報を提供することによって、ビジネスにつなげていく。ホワイトペーパーの発行を重ねるにつれ、このやり方への確信が深まっていった。公開したホワイトペーパーはすでに200を超えていて、初期のものにはアップデートをかけたり、各国版に翻訳したりと、長年にわたって投資を重ねてきている(図1)。
Software Definedで進展する、データセンターのシンプル化
――データセンターサイエンスセンターで捕捉しているトレンドの中で、今は特にどのようなものに注目していますか。
とりわけ興味深いのは2つ。1つは、データセンターのシンプル化(Simplification)で、もう1つはIoTのメガトレンドの中で台頭するエッジコンピューティング(Edge Computing)のアーキテクチャだ。
前者から話そう。IT機器のシンプル化はすでにかなり進んでいると思う。私がここで言うシンプル化とは、主にデータセンターを形成するインフラ全体のシンプル化を指している。
――データセンターのシンプル化にあたっては、やはり、Software Definedがカギを握るように思えます。
もちろんだ。このテーマを考える場合、Software Defined Data Center(SDDC)は非常に重要なトレンドだ。このコンセプトは、データセンターが今後どのようにしてデザインされ、運用されるかの方向性にかなり大きな影響を持っていると考えている。
SDDCを基に今後、シンプル化にまつわる技術や手法が進展し、ソフトウェアでデータセンターを構築できるようになったら、今のTier4レベルの重厚長大なデータセンターは必要がなくなる可能性がある。
――それはつまり、ファシリティスタンダートのTierは、物理マシンの時代の指標であり、Software Definedなデータセンターの時代には意味をなさなくなるということでしょうか。
そのとおり。Tier4やTier3ほどの要件を満たす必要はなく、Tier2やTier1のシンプルな設計・構造でよくなっていくのではないだろうか。
その意味では、フェイスブックのデータセンターが主導するOpen Compute Project(OCP)が、データセンターのシンプル化におけるリファレンスのような存在だと見ることができる。OCP自体が重要なトレンドで、かつ、シンプル化の具体的なソリューションともとらえられるだろう。
OCPの取り組みは、さまざまな要件に応えるために年々複雑化していったデータセンターデザインを極力シンプルにすることだ。OCPが従来のデータセンター設計に対してどんな革新を与えようとしているのかは、例えば、OCPが策定したオープンラック標準仕様を見れば明らかだ。これまでサーバーなどIT機器ごとに内蔵されていた電源とUPSは、オープンラック仕様では2台の電源に統合される(図2)。
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――ラックレベルで無駄をそぎ落として効率を高めるわけですね。
データセンターサイエンスセンターでは、実際、OCPの仕様を採用することで、データセンターがどれほど効率的になるのかを分析し数値化している(画面1)。このトレードオフツールの画面は、2N冗長構成(1台の稼働システムに1台の待機システム)を、従来(左側)の設計とOCP(右側)の設計とで比較したものだ。
電力コスト比較では従来設計がワット当たり2.52ユーロ(約290円)、OCP設計がワット当たり2.05ユーロ(約236円)となった。UPSを廃し電源を統合したOCP設計の成果が数字となって表れたかたちだ。ここまでの削減効果には我々自身もかなり驚いた。
もちろん、この結果はあくまでデータセンター設計を100%OCPにした場合で、今日明日にもすべてをOCP仕様に移行するというのは不可能だ。
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――データセンター運用担当者の視点で効率性を追求したOCPの設計は理にかなっていますが、実際の移行には問題が多く待ち受けてそうですね。
そのとおりで、OCPの発想自体はすばらしいが、適用のハードルは低くない。今後我々がさらに分析を重ねて考えなくてはならないのが、どうやって従来設計からOCP設計に移行していくのかの道筋だ。その際には、従来とOCPの混在環境に対する分析も必要になるだろう(写真1)。
OCPをそのまま適用するのは非常に難しい。OCPのコンセプトを理解したはいいが、そのあと何から取り組めばよいかわからず困っている顧客を支援するために、我々はこれまでの分析に基づいて、リファレンスデザインの提供を始めた。いくつかのパターンを順次公開していく予定だ。顧客が次期データセンターのPOC(Proof Of Concept)を作る段階で、選択肢をある程度少なくできるようなものを目指している。
この着想につながるヒントが、米国で禅を広めた高名な僧侶、鈴木俊隆(すずきしゅんりゅう)氏が残した言葉の中にあった。「(初心者にとって)最初はあまりに選択肢が多いように見える。でも、その筋の専門家からすると、選択肢はわずかなのだ」と。
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