[調査・レポート]

DXを中心に進む2017年国内IT市場の主要10項目―IDC

2017年1月5日(木)杉田 悟(IT Leaders編集部)

2016年は、IoT(Internet of Things)やAI(人工知能)にまつわる話題が特に多く報道され、関連サービスも多数出現した年だった。ビッグデータ/アナリティクスやモビリティなども含め、SoE(System of Engagement)を象徴するこれらの技術、サービス、現象は「デジタルビジネス」あるいは「デジタルトランスフォーメーション(DX)」と呼ばれ、最新のITトレンドとして広く認知された感がある。IDCジャパンは2016年12月13日に、2017年に国内IT市場を席捲するであろう主要10項目を発表した。

 IDCジャパンが発表した、2017年国内IT市場の主要10項目は表の通り。AI、IoT、DXなどデジタル時代を象徴するキーワードが目立つ一方で、新たなキーワードの登場を予見するようなものはない。2016年からのデジタル化の流れが一層加速するというのが、IDCジャパンが予測する2017年の国内IT市場だ。

(表)IDCジャパンが選んだ2017年国内IT市場の主要10項目
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 まず、「第3のプラットフォーム」について説明しておく。IDCが2007年から提唱しているもので、「第1」のメインフレーム、「第2」のクライアントサーバーシステムに続く「モバイル」「ソーシャル」「ビッグデータ」「クラウド」で構成されるITプラットフォームが「第3のプラットフォーム」。

 次に「DX」。デジタルトランスフォーメーションの略だが、IDCの解釈では、「企業が第3のプラットフォーム技術を利用して新しいサービスやビジネスモデルを創出すること」となる。今や欧米では「ハイテク企業」と称されるGEなどは、その最たる例だ。この2つを踏まえて以下を挙げている

1.産業間のエコシステム連携によって、第3のプラットフォーム上にDXエコノミーが萌芽する

 DXでは、垂直統合型のビジネスモデルよりも、パートナーやユーザーを巻き込んでエコシステムを構築した方が有利となる。なぜならDXを取り入れた市場では、よりスピードが重視されるからだ。IDCジャパンはエコシステムによる産業内や産業間の連携がマクロ経済に影響を及ぼし、新たな「DXエコノミー」が形成されると予測している。

2.第3のプラットフォームへのICT支出が第2のプラットフォーム支出に並ぶ

 IDCは、国内IT市場の2015年から2020年のCAGR(年間平均成長率)をマイナス0.3%と予測しているが、第3のプラットフォームに関しては3.7%での成長を予測している。これは旧来型のIT投資が減少する一方で、DX関連の投資が増加することを示している。第3のプラットフォームへの支出は、2017年には減少傾向の第2のプラットフォーム(クライアントサーバー)に並び、2020年には全体の55.3%を占めるという見通しを示している。

3.ランサムウェアの被害拡大が、脅威インテリジェンスと認知システム/AIを活用したセキュリティ製品の開発を加速する

 近年、もっとも脅威とされているサイバー攻撃のひとつがランサムウェアだ。ランサムウェアに感染するとシステムをロックしたり、ファイルを勝手に暗号化して使えなくする。後から復旧するための身代金を要求するという、現実世界さながらの営利目的の攻撃で、残念ながらランサムウェアを含むマルウェアの侵入を完全に防ぐことはできないというのが現状だ。

 被害を最小限に収めるには、侵入されたことをいち早く察知して拡散を防ぐしかない。そのために必要なのが、脅威情報を収集して分析する脅威インテリジェンスだ。また、分析精度を向上させるために、認知システム/AIを使ったセキュリティ対策に期待が集まると考えられる。IDCでは、2017年に認知システム/AIを使ったセキュリティ対策製品の導入率は30%に達すると予測している。

4.DXを実現するハイブリッドクラウドとAPIエコノミーの拡大が加速する

 ここでいうハイブリッドクラウドは、異なる機能を持つ別々のクラウドサービスを連携させて新しい価値を創造すること。APIエコノミーは、APIを公開することによって広がる商圏のことで、IDCいわく「ハイブリッド環境におけるAPIエコノミーがDXを実現している」。

5.IoT事業者の競争軸は「IoTプラットフォーム」から「データアグリゲーションプラットフォーム」にシフトする

 2016年は、GEのPredixやPTCのThingWorxなどに続き、日立のLumadaなど国産のIoTプラットフォームも登場した。IoTプラットフォームが出揃ったものの、どれを使うかを左右するほどの突出したメリットを各社打ち出せないでいる。そこでIoT事業者は、「データアグリゲーション」に対する取り組みを強化すると予測している。

 IDCによるとデータアグリゲーションは、「IoTとして生成されるデータや従来の構造型データを集約し、分析することで新しい価値を生み出すこと」。事業者はIoTプラットフォームの機能とデータアグリゲーションを融合させることで、IoTソリューションの差別化戦略を進めるというのがIDCの予測だ。

(図) IDCジャパンが考えた2017年国内IT市場の主要10項目
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6.DXの普及が、エンタープライズインフラストラクチャの選定基準とITサプライヤーの競合関係に変化をもたらす

 企業のエンタープライズインフラストラクチャーの選定基準が、経済性、迅速性、拡張性、導入容易性などに加えて、ビジネス変化や企業の新しい価値創造の活動にどれだけ貢献するかも考慮されるようになるという。群雄割拠の日本市場においては、オールフラッシュアレイやハイパーコンバージドシステムの取り組みに一日の長があるヒューレットパッカードエンタープライズ(HPE)やデルテクノロジーズの存在感が増すことになるとIDCでは予測している。

7.認知システム/AIの事例がプロフェッショナルサービス、セキュリティ/リスク管理分野で多数登場する

 2016年、市場には一斉に「AI関連」製品が登場した。様々な領域でAIが活用される一方、IDCでは「現在のAIマーケティング手法は、ITプロフェッショナルを混乱させている側面もある」と指摘している。「AIで何ができるのか」に関するITプロフェッショナルの明確な回答がまだ出されていない状態なのだという。

 2016年は、ITベンダーが実証実験やプロトタイプシステムによって、実ビジネス現場でどのようにAIが利用できるかを検証してきた年であり、2017年になって実ビジネスへの適用が始まると予測している。

8.産業特化型クラウドがDXエコノミーのコア技術として成長を始める

 ここでいう産業特化型クラウドとは、インダストリアル・インターネットを謳ったGEのPredixや、ファナックがシスコシステムズやロックウェル・オートメーション、Preferred Networksなどの協力でスタートしたFIELD systemなど、特定分野向けに提供されるクラウド/IoTサービスのこと。

 2017年は一歩進んで、産業型クラウドで得られたノウハウやデータを分析し、異業種などに活用するモデルが発展すると見ている。1企業のDXが異業種のDXとつながり、より大きな経済効果を生むDXエコノミーを形成するという。

9.AR/VR、ロボティクス、3DプリンティングなどのIA技術が製造業の変革とグローバル競争力の強化に貢献する

 IA技術は、イノベーションアクセラレーターの略で、IoT、AR/VR、ロボティクス、3Dプリンティングなどの先進的な技術のこと。2017年はこれらIA技術が、特に国内製造業に大きな影響を与える年だという。

10.DXが企業の全社的課題として認識され、IT人材とDX推進組織の再定義が進む

 2017年は、DXを推進する人材をどう調達するかが、多くの企業の課題となりそうだ。ビジネスに直結するだけに、ITの知識に加えてビジネスそのものについての知識や、それを変革する能力なども求められる。ただでさえIT人材の不足が課題となっているなか、DXに目覚めた多くの企業が、DXを推進しようとしても、それに携わる人材が見当たらない状況が予想される。

 CDO(チーフデジタルオフィサー)の設置や、IT人材へのビジネス能力の教育、事業部門とのジョブローテーションなどを、人材像が不明確な中進めていくことになりそうなため、IDCでは企業における「IT人材」の再定義が進むと見ている。

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