[松岡功が選ぶ“見逃せない”ニュース]

2016年12月の3本:2017年国内IT市場の10大トレンドをIDC Japanが予測/KDDIがビッグローブを買収/ランサムウェアに身代金を払う企業は7割−IBM調査

2017年1月5日(木)松岡 功(ジャーナリスト)

2016年12月のニュースから松岡功が選んだのは、「2017年国内IT市場の10大トレンドをIDC Japanが予測」「KDDIがビッグローブを買収」「ランサムウェアに身代金を払う企業は7割−IBM調査」の3本である。

 MM総研による2016年9月末時点の国内ISP(光回線)市場シェアでは、KDDIは4.5%で7位。同シェア8.5%(4位)のビッグローブの買収により、同シェアが19.9%で1位のNTTコミュニケーションズに次ぐ2位に浮上する。契約者数は約128万件から約370万件に拡大する。

 ビッグローブは2006年にNECが分社し、2014年にJIPが約700億円で買収した。固定回線を利用したISP事業を展開しており、2016年9月末時点で約200万人の会員を抱えるほか、モバイル事業でも約40万人のユーザーがいるという。KDDIは買収後もビッグローブのサイトやブランド名は残すとしている。

[選択理由]

 インターネットビジネスの移り変わりを象徴する動きだからだ。ISPはインターネットの普及とともに成長してきた。だが、モバイル利用や多様なネットビジネスが拡大する中で、ビッグローブのような旧来のISPは変化を迫られていた。その意味で、ビッグローブにとって今回のKDDIによる買収は、新たな活動の場を得た形になる。

 KDDIがビッグローブを買収するのは、ISP事業を強化することよりも「au経済圏」と呼ぶ新しいビジネス領域を拡大したいからだ。au経済圏によって、さまざまな分野の支払いを自社の電子マネー「auウォレット」でつなぎ、手数料やマージンで稼ぐ。これまではスマートフォンの利用者が主な対象だったが、ビッグローブを買収することで個人から世帯単位に顧客層を広げやすくなると見込んでいる。

 KDDIはさらに、富士通からも国内ISP市場シェア8位のニフティの個人向けプロバイダー事業を買収する方向で詰めの交渉に入っている。これが実現すれば契約者数は約460万件になる。ビッグローブとニフティがこうした状況になること自体、まさしく時代の移り変わりを象徴している。

ランサムウェアに身代金を払う企業は7割−IBM調査

 米国で実施したランサムウェア(身代金要求型マルウェア)の被害実態に関する調査結果を日本IBMが12月16日に発表した。米国企業の70%がランサムウェアの要求に応じて金銭を支払っていることを明らかにした。

 同調査は米IBMのセキュリティ研究機関「X-Force」が実施したもの。企業を対象とした調査ではビジネスリーダー600人が回答したとしている。結果、およそ半数の企業がランサムウェア攻撃を経験。そのうち70%が業務データへ再びアクセスするために身代金を支払ったと回答した。被害額は半数が1万ドル以上で、うち20%は4万ドル以上に及んでいた。

 被害に遭った際は60%の企業が「データを取り戻すために身代金を支払う」としている。さらに25%の企業は「データの種類によっては2万〜5万ドルなら支払ってもやむを得ない」と回答している。

[選択理由]

 ランサムウェアの被害に遭った企業の70%が、攻撃者の要求に応じて金銭を支払っているという驚くべき調査結果だからだ。2016年から、サイバー攻撃の中で急増しているランサムウェアだが、攻撃者から見て、これだけ身代金を手に入れる確率が高いとなれば、さらにヒートアップするのは当然だろう。

 早急にランサムウェア対策を講じる必要がある。だが、やっかいなのは被害に遭ってしまうと、それをクリアする有効な手立てが今のところないことだ。従って企業としては、ビジネスを止めるわけにはいかないだけに、身代金を支払うしかデータを取り戻す術がないというのが実情だろう。

 IBMは防衛策として、「警戒を怠らない」「データをバックアップする」「マクロを無効にする」「パッチを適用し不要なものを削除する」といったことを呼びかけている。しかし悪質なサイバー犯罪だけに、解明する技術力に加えて社会的に強い抑止力となる対策が求められる。

筆者プロフィール

松岡 功(まつおか・いさお)
ジャーナリストとして「ビジネス」「マネジメント」「IT」の3分野をテーマに、複数のメディアでコラムや解説記事を執筆中。1957年生まれ、大阪府出身。電波新聞社、日刊工業新聞社などで記者およびITビジネス系月刊誌の編集長を歴任後、フリーに。主な著書に『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)などがある。

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