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[市場動向]

創発型組織を目指す第一歩は「脱・電子メール」

ソーシャル型コラボレーション基盤に目を向けるべきこれだけの理由

2017年2月21日(火)森 英幸(IT Leaders編集部)

事業アイデアのブレストを繰り返したり合理的な課題解決策を導いたりするのに欠かせないのがコラボレーション基盤。限られた業務時間を有効活用し、本質的な議論に集中するには、メールに代わる新たな仕組みが必要だ。その観点で、コンシューマ分野にすっかり定着したソーシャル型のツールには従来からのワークスタイルを抜本から変えるポテンシャルが備わる。本稿では、注目すべき3つの製品カテゴリを取り上げ概説する。

 市場競争が激しさを増す中、「即断即決で最適な判断を下していくことが不可欠だ」との声が強まっている。しかし、思うようなスピード経営を実現できている例は決して多くない。その元凶の1つとして思い当たるのが、「電子メール」に依存しきったワークスタイルではないだろうか。かねてからのピラミッド組織にレポートラインを築き、幹部会議で決断を下すスタイルは昔のまま。メールは、ここにおける報告・連絡・相談の手段の域を出ない。だから会議は一向に減らないし、取り決めごとも捗らない。

 ビジネス課題に直面している現場のリーダーはそうした状況に業を煮やしている。彼ら彼女らが求めているのは、キーパーソン同士が部署や職制に縛られることなく、いつでもどこでも連絡をとり、情報を共有し、アイデアを持ち寄って議論できる「実効性重視」のコラボレーション基盤だ。

 新たな競争軸を創出するにあたって、もはや1社単独でできることには限りがあるとの認識が広がっていることも少なからず影響しているだろう。これからは、問題意識や知見を備えた人材が自社の枠を越えて集い、議論し、速やかに決断していくプロジェクト型の取り組みも増えると考えられる。どこにどんなキーパーソンがいるのか、世の中ではどのような動きがあるのか。そうした情報を敏感に察知し、それをベースにしたコラボレーションを支える新たな仕組みが今、求められている。

 業務の生産性向上を目的としたツールとして、以前からグループウェアや文書管理システムなどが存在してきたが、とりわけ、使い勝手の良さや機動性の観点から注目を集めているのが、クラウド技術をベースに最初からモバイル対応で開発されたソーシャル型のコラボレーション基盤だ。プライベートでFacebook/LINEなどのSNSやDropboxなどのクラウドストレージを自在に使いこなし、そのポテンシャルに気付いた人同士が、同等の仕組みをビジネスシーンにも持ち込めないものかとソリューションを探している。

 ソーシャル型のコラボレーション基盤は、友人知人の見聞や考えが絶え間なくタイムラインに流れ、“人”を介して世の動きをとらえることができる。皆が常用しているからこそ連絡も相談もたやすいし素早い。人脈も拡げられる。必要とあらばクラウドストレージとも連携して関連資料を素早く共有できる。現実社会では成し得ないダイナミズムがそこにある。そうしたコンセプトをビジネス用途に適用し、共創型ワークスタイルを支える製品が市場に登場し始めたのは、確固としたニーズがあることの証でもあるだろう。

 こうした状況下、企業が採るべき手は、新しい芽を摘むことではない。ビジネスで使える“エンタープライズソーシャル”の導入を検討し、それをテコに旧態依然とした組織体制に風穴を開けることが大きなテーマの1つとなる。変革を急ぐ世界の名だたる企業はそうした製品をすでに導入し始めた。物心ついた頃からテクノロジに慣れ親しんでいるデジタルネイティブ世代が第一線で活躍する今後は、さらに普及が加速するだろう。“ソーシャル型”の仕事の流儀が定着していない企業は、コラボレーションの蚊帳の外に追いやられる可能性すらあるといっても過言ではない。

 本稿では、こうした新しタイプのコラボレーション基盤として、「ビジネスチャット」「社内SNS」「クラウドストレージ」を取り上げ、その概要を紹介する。

ビジネスチャットでメールの非効率を排除

 インターネットがビジネスで使われるようになって約20年、メールはコミュニケーション・ツールの中核として使われてきた。しかし、ビジネスのスピードがどんどん加速している現在、メールに頼ったコミュニケーションは機能不全に陥りつつある。その最大の問題は、相手がいつ読むか、いつ返信をくれるかわからないことだ。報告や連絡といった決まった事柄の伝達には支障はないが、会話をしながらアイデアを練るといった創発的なコミュニケーションは行いにくい。

 そこでよりリアルタイムに近いかたちでコミュニケーションが取れるツールとして、ビジネスチャットを導入する企業が増えている。ビジネスチャットは、ビジネス向けに作られたLINEのようなものだ。メールのように件名や時候の挨拶などを書く必要はなく、相手を選んでメッセージを入力するだけなので、円滑なコミュニケーションが可能になる。コンシューマ向けのチャットと異なり、ビジネスチャットは、社内外へのアクセス制御ができたり、タスク管理機能が搭載されていたりといったビジネス向けの機能強化が図られていることが多い。

 もっとも、仕事に集中しているときに話しかけられると集中力が途切れてしまうこともある。そこで世界12万社以上で利用されている「チャットワーク(ChatWork)」の場合は、あえてオンライン/オフラインの表示機能を付けていないという。これについてChatWork代表取締役の山本敏行氏は、「チャットワークには、オンライン/オフラインの表示だけでなく、既読機能も付けていない。これらは使っている人にストレスを感じさせる機能だと考えていて、これから先も付ける気はない」と説明する(関連記事:“コミュニケーション疲れ”を起こさないチャットツール―12万社が使う理由は徹底したビジネス視点)。

社内SNSで部署の垣根を越えたコミュニケーションを活性化

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 社内SNSとは、自社専用のFacebookのようなものを想像してもらえればよいだろう。ビジネスチャットを組み込んだ製品も多いが、やはり中核機能は投稿(ブログ)だ。ブログに自分の記事を投稿でき、フォローしている人の投稿はタイムラインで追うことができる。投稿の使い方は目的次第だ。日報を書くこともできるし、担当プロジェクトの進捗状況を書いてもよい。企画書を投稿して、フィードバックを募るといった使い方もできる。

 社内SNSには、オンラインでのアクティビティを分析する機能を備えた製品も多い。分析機能を活用すれば、仕事を本当に動かしているのは誰なのかがわかるようになり、それを人事考課に役立てるといった使い方が可能だ。

 社内SNSを導入する企業の多くが期待する効果は、部署間の垣根を越えたコミュニケーションの活性化だ。同期入社や同じ社内サークルのメンバーといった直接面識のある知り合いから、さらにその知り合いへとつながりを広げて社内人脈を形成することで、さまざまな立場の人の知見を得られるようになる。

 ただし、社内SNSは導入しただけではうまく機能しないものだ。株式会社デンソーで社内SNSの導入を主導したデンソー 技術開発センターDP-EDA改革室 室長の鈴木万治氏は、いきなり直接的な成果を狙ってはいけないという。「社内SNSを日本という土壌にあった使い方をするにはまず、元気な苗床、すなわち情報発信力のあるキーユーザーを育て、時間をかけて“場”を醸成していくことが大事」(鈴木氏)。まずは、自社の導入目的をはっきりさせたうえで、コミュニティ形成に根気強く取り組む必要があるだろう。

クラウドストレージで作業スペースにどこからでもアクセス

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 オフィスのデータを共有するためにファイルストレージ(NAS)を導入している企業は多いが、その問題は外部からのアクセスが難しいことだ。しかも、オフィスの個人PCに保存されたデータは、オフィスに行かないとアクセスできない。

 クラウドストレージは、PCのデータをクラウド上のディスクスペースに同期して、モバイルデバイスからも閲覧可能にする。DropboxやOneDrive、Google Driveは、もともとは個人向けに作られたが、セキュリティを強化したビジネス向けサービスも提供している。Boxのように最初からビジネス向けに作られたサービスもある。

 クラウドストレージを使えば、メールに添付できない巨大なファイルもやり取りできるが、ファイルの受け渡し手段として使うだけでは効果は薄い。フォルダーを共有してチーム全員で使える作業スペースとして利用すべきだ。その効果について、グーグル株式会社 Google Cloud パートナー営業部 パートナーセールスマネージャーの津谷由里氏は、「資料は完成してから共有するのではなく、共有されている場所で作成すること。そうすることで、それを目にした人がコメントを書き込むなど、ドキュメント上でコミュニケーションが始まることもある」と語る。

 作業スペースを共有すれば、最新版のファイルを常に同じ場所で参照できるようになり、メール添付でバージョン違いのファイルが量産されるといった問題を解消することができる。

 以上、本稿では「ビジネスチャット」「社内SNS」「クラウドストレージ」の特徴と導入効果について解説した。これらのツールを社内に定着させるのは簡単ではないが、うまく使い分けられればオフィスの生産性向上、ひいてはスピードを武器とする競争力向上に大きく寄与することだろう。  

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コラボレーション / SNS / Chatwork / ビジネスチャット

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