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[技術解説]

いまさら聞けないスマートコントラクト

ブロックチェーンを基盤に自動化された契約が切り開くビジネスの未来

2018年3月27日(火)森 英幸(IT Leaders編集部)

ブロックチェーンは聞いたことがあるがスマートコントラクトは初耳、という方も多いだろう。だが、このキーワードを抜きにしてブロックチェーンは語れないというほど、その可能性・重要性は高い。本稿では、スマートコントラクトが実現する「自動契約」とはなにか、どんなことが可能になるのか、活用にあたっての課題について説明したい。

自販機で理解する自動契約

 スマートコントラクト(Smart Contract)を直訳すれば「賢い契約」となる。これは、これまで人手を介して行われていた契約手続きを自動化するもの、自動契約と捉えてもらえばよい。

 それでは、自動契約とはなにか。身近な例では、自動販売機である。お金を入れてボタンを押せば、選んだ商品が出てくる。お金が足りなければボタンは有効にならず、商品は出てこない。

 あまりに身近すぎて拍子抜けするかもしれないが、一定の条件を満たせば自動的に契約が成立するのが自動契約である。一定の条件とは、清涼飲料水の自販機なら金額だけだが、たばこ・酒の自販機の場合は、年齢認証が加わる。条件を満たせば、たばこや酒が人手を介さずに購入できる。

 自販機は街中にあふれているので、自動契約のどこが画期的なのかピンとこないかもしれない。だが、ビジネスへのインパクトは絶大だ。現在、清涼飲料の市場規模は4兆2000億円ほどで、うち自販機による売上は約2兆円である。つまり、全体の約半分を自販機が占めており、自販機なしでは清涼飲料水の市場は成り立たない状況にある。逆に言うと、自販機という自動契約装置が登場したことで、現在の市場規模まで成長したと見ることもできる。

プロックチェーン上で動く自動契約プログラム

 スマートコントラクトという言葉は、狭義的にはブロックチェーンのプラットフォーム上で動作する自動契約プログラム、あるいはそのプログラムによって締結される契約、という意味で使われる。

 ただし、広義的にはデジタル化によって自動化された契約全般を指し、それがどんなプラットフォームで行われるかまでは関知しない。もともと、スマートコントラクトの提唱者であるNick Szabo氏がこの言葉を使い始めたとき、ブロックチェーンは世に登場していなかったのでそれも当然である。

 その後、スマートコントラクトを前提としたブロックチェーン・プラットフォーム「Ethereum(イーサリアム)」が開発されたことで、スマートコントラクトとブロックチェーンは切り離せないものとして扱われるようになった。

 自動契約プログラムがブロックチェーン上で実行されるということは、最終的なサービス提供者が自前でプラットフォームを構築する必要がないということだ。誰かが自動契約プログラムを作る必要はあるが、参加者はそれに乗っかるだけでよい。

 ともあれ、先に例に上げた自販機は、広い意味ではスマートコントラクトかもしれないが、狭義的にはスマートコントラクトではない。

 では、ブロックチェーン・プラットフォームのスマートコントラクトで、どのようなことが可能になるのだろうか。

医薬品を例にしたスマートコントラクト

 世の中、大抵のものはお金を出せば買えるが、いろいろと面倒な手続きや条件が必要なものも多い。例えば、土地・建物は登記が必要だし、普通自動車は車庫証明や保険への加入が必要である。家や車のような高額商品でなくても、制限はいろいろある。医師の処方箋が必要な医薬品もそうだ。

 現在、市販薬はインターネット販売が認められているが、処方箋が必要な医薬品は調剤薬局に出向いて処方箋を提示しないと購入できない。年齢制限がある薬、妊婦に悪影響を及ぼす薬など、取り扱いに注意が必要な医薬品では致し方のないとことだ。

 だが、日常的な買い物にも不自由する地域に住む患者や病気で外出が厳しい患者が、不便を強いられていることも事実である。

 ここにブロックチェーンとスマートコントラクトを当てはめてみよう。プロックチェーンで取引できるのは、仮想通貨だけではない。電子化できるものであれば、処方箋のようなセンシティブな医療情報も、ブロックチェーンに組み込まれた公開鍵暗号と電子署名によって安全に取引することが可能だ。

 プロックチェーン上で、医師と患者が処方箋を取引し、患者は薬局と処方箋を取引する。さらに、患者は薬局と薬の代金もやり取りする。処方箋と代金という2つの条件が成立したら、自動契約プログラムが発動し、販売契約が成立する。プログラムを高度化すれば、ジェネリック医薬品を使うかどうか、患者が事前に決めておいたり、都度確認を求めたりするといったこともできる。

 さらに、ロボット技術を組み合わせれば、処方箋に書かれた薬をピックアップして梱包し、宛名ラベルを貼り付けるといったことまで自動化できるだろう。つまり、契約の執行までを自動化できるわけだ。

 薬は必要な人が必要な分だけ使うものだから、自動化されたからと言って、市場拡大の見込みはないかもしれない。だが、患者の負担は軽減されるし、薬の販売業者はコストを削減できる。サービス・デリバリーも迅速化される。

 このほか、ブロックチェーンには取引記録の改ざんが困難(事実上不可能)という特徴があるので、処方箋の偽造による薬の不正入手なども防止できる。まさにいいことづくめだ。

 地域医療向上のために、様々な地域で医療ネットワークの構築が進められているが、その多くは大学病院のような地域の拠点となる医療機関が中心となって進めている。電子カルテのようなセンシティブな個人情報の固まりは、安全に扱うために多大なコストがかかる。システム構築に加えて、維持・管理のコスト、それを誰が負担するのかという課題が存在する。

 これがブロックチェーンを基盤とすれば、必要な機能を備えた自動契約プログラム群を開発するだけでよくなる。インフラコストが下がるうえ、その負担がどこかに集中することもない。

最大の課題は法的整備

 医薬品で思考実験したようなスマートコントラクトの活用は、ありとあらゆる分野で行える。

 すでにその取り組みは国内でも開始されている。KDDIは2017年9月から、KDDI総合研究所、クーガーの2社と共同で「Enterprise Ethereum」をプラットフォームとしたスマートコントラクトの実証実験を始めている。ちなみに、Enterprise Ethereumは、先に触れたEthereumを、企業用途向けに仕様変更したプラットフォームである。

 KDDIら3社が実証実験の第一弾として行っているのが、auショップに持ち込まれた携帯電話の修理工程における情報共有を、スマートコントラクト技術で行い、オペレーションの効率化を図るというものだ。

 修理を頼んだものの、費用が思ったよりも高かったので修理をキャンセルし、機種変更することにした、というのはよく聞く話である。持ち込まれた携帯電話は、修理するかしないか最終判断を保留にしたまま、配送センターやメーカーの修理拠点などを巡ることになる。実証実験では、修理価格や機種変更料金、中古市場価格などを提示することで、最適な契約プランを提示するということである。

 このように、スマートコントラクトのビジネス利用はすでに始まっているが、解決しなければならない課題もある。最大の課題と言えるのが、法整備の遅れだ。まず、プログラムが自動的に締結する契約に法的拘束力があるか、という問題がある。

 また、サービス内容によっては、法的制限により無人化できないものもある。例として上げた医薬品の場合、スマートコントラクトで自動化された契約プロセスに、薬剤師が介在していない。これは現行法上では完全にアウトだ。もし、現行法を満たそうとすれば、処方箋を薬剤師が逐一チェックすることになり、自動契約ではなくなってしまう。

 ブロックチェーンは、情報保護(暗号化)、トレーサービリティ、改ざん防止といった優れた機能を仕組みとして備えている。だからと言って、法律を無視してよいということにはならない。特に自動契約プログラムは、設計・実装によっては抜け道が出来てしまう恐れもある。法改正と同時に、自動契約プログラムを審査するプロセスが必要になるかもしれない。

 参加者の合議制で取引の正当性を担保するブロックチェーンは、第三者機関によるお墨付きを必要としない経済システムを実現する。だが、現実世界と折り合いを付けていくには、法的整備を急ぐ必要がある。

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デジタルトランスフォーメーション

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