[イベントレポート]
Oracle+NetSuiteのシナジーで期待される、クラウドERPのさらなる進化
2017年10月11日(水)河原 潤(IT Leaders編集部)
企業ITにおけるクラウド活用が前提となって久しいが、基幹系システムを担うERPに関してはクラウド化が難しいという声を聞く。クラウドERPのパイオニア的存在である米ネットスイート(NetSuite) は、デジタル変革期の今、どのようなビジョンの下でユーザーに価値を提案・提供しているのか。2017年10月3~4日に開催されたNetSuite SuiteConnect 2017では、Oracle+NetSuiteとしてのビジョンとポートフォリオが示された。
20年前の信念を保ちながらOracle+NetSuiteが始動
2016年11月、オラクルは同年7月に発表したネットスイートの買収手続きを完了し、Oracle+NetSuiteブランドを冠した新生ネットスイートが始動した(注1)。
注1:正式な組織名はOracle NetSuite Global Business Unitだが、本稿では便宜上ネットスイートと表記する
ご存じの方も多いと思うが、オラクルがこれまで手中にしてきた幾多のITベンダーとは異なり、両社は長年緊密な関係にある。ネットスイートは1998年、オラクル退社後にネットレッジャー(NetLedger)という企業を立ち上げたエバン・ゴールドバーグ(Evan Goldberg)氏(写真1)によって設立された。ネットスイートの起業に際して、ゴールドバーグ氏は元上司であるラリー・エリソン(Larry Ellison)氏からビジネス上の示唆と多額の投資を得ることとなる。
ビジネス上の示唆とは、ほかならぬアプリケーションホスティングで、現在のSaaS(Software as a Service)の原型だ。「ラリーから『次のコンピューティングモデルはWebだ。だれもがWeb上のアプリケーションにアクセスする時代が来る』とアドバイスされた。私もWebホスティングに取り組んでいたのでそれを確信した」(ゴールドバーグ氏)
エリソン氏は、SaaS黎明期からのプレーヤーとしてネットスイートとよく比較されるセールスフォース・ドットコム(Salesforce.com)の大株主で、創業者マーク・ベニオフの元上司でもある。オラクルはクラウド事業で他の大手ベンダーに遅れをとったとたびたび指摘されるが、構想自体はすでに20年前に持っていて、その実現を、ゴールドバーグ氏とベニオフ氏というまずは、2人の元部下が起業したベンダーに託したかたちとなった。
クラウドERPへの一貫した取り組み
2000年代半ばから後半にかけて、企業の間でSaaSの採用が進み、これが2010年代に花開くクラウドコンピューティングモデルの端緒となる。
セールスフォースより1年早く先に設立されたネットスイートは、業界初のビジネスSaaSベンダーとなったが、SaaSの概念を世に広く知らしめたのはセールスフォースのほうだ。それには両社が初期に採った戦略やポートフォリオの違いが影響している。
セールスフォースが、同社最初のサービスとなるSFA(営業支援)/CRM(顧客関係管理)から水平型・用途別にSaaSを拡充していったのに対し、ネットスイートはERPを中核にCRM、ECを垂直型で統合したSaaSを業種別に広げていくことを推し進めた。当時、企業の経営層はクラウドに対して様子見の段階で、メールやSFA/CRMといったフロントエンド寄りの情報系システムから着手するところが大半だった。
では、ERPを中心した基幹系/バックエンド寄りのポートフォリオゆえに、ネットスイートが市場で苦戦を強いられ続けたかというとそうではない。NetSuite ERPの2大アドバンテージは、クラウドでの稼働を前提に設計されたERPであることと、そのERPがCRMやECシステムと緊密に統合されていることだ。そこで得られるメリットに早期から着目した企業から支持を集め、20年にわたって堅実な成長を遂げてきた。創業当初から中堅中小企業をメインターゲットに、現在では160カ国で4万社超の企業がNetSuiteを活用している。