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Azureへのシステム移行で66の国/地域のIT基盤を最適化~三井物産のビジネス加速をMKIの技術知見が支える
2019年8月30日(金)
大手総合商社としてグローバルで多種多様な事業を展開する三井物産。ビジネスの俊敏性を追求するためにテーマとして掲げているのが大局的観点でのIT基盤の最適化だ。具体策としてパブリッククラウドへの全面移行という基本方針を固めた同社が、移行先として選んだのが「Microsoft Azure」である。本稿では、プロジェクトを支援した三井情報のキーパーソンに、選定の理由や導入にあたってのポイント、今後の展望などを聞いた。
66の国と地域で働く連結約4万4000人の多様な個が持っているアイデアや情報、技術、ビジネスパートナーを結び付け、知的化学反応を生み、新しい価値を提供するビジネスを創出する──。三井物産は今、その想いを具現化するためにIT環境の整備を着々と進めている。
従業員同士のコラボレーション系についてはTeamsやYammer、SharePoint OnlineなどのMicrosoft 365製品を導入したのに続き、いよいよ“本丸”と目される「パブリッククラウドを活用した全社IT基盤の最適化」へと乗り出した。本社や国内外のグループ企業が個々に構築・運用していたIT基盤を、パブリッククラウド「Microsoft Azure」に切り替えるのが骨子となる。
このプロジェクトを全面的にサポートするのが、三井情報(以下、MKI)だ。金融業界をはじめ多種多様な顧客に、コンサルティングから設計・構築、運用・保守など総合的なITソリューション/サービスを提供している同社だが、こと三井物産というビッグユーザーのビジネスを支える各種のIT施策に従来から関わることを通じて、テクノロジーの選択眼はもちろんのこと、リソースのライフサイクルへの配慮や事業継続性の担保など、全方位の知見に磨きをかけてきた。今回も、その自負と責任の下で、課題の洗い出しや理想像の追求に臨むこととなった。
オンプレミスでの課題解決に向けパブリッククラウドに照準
ビジネスとITが密接不可分となっている昨今、経営のアジリティを究めていくにはIT基盤が市場環境の変化に素早く追随し得ることが欠かせなくなっている。必要に応じて速やかに調達できるのはもちろんこと、運用管理に手間ひまがかからないことや、事業継続の観点で強固であることなど要件は複雑だ。次代を担うためには、課題を今一度洗い出し、しっかりとしたグランドデザインを描かなければならない。
まずはプロジェクトの全体像として、これまでの経緯や課題感、解決の方向性といったものを整理しておこう。三井物産のIT基盤は、日本国内についてはプライベートクラウドの構築など時宜に沿った取り組みがなされてきた。もっとも、ハードウェアのライフサイクルへの対応や、業容拡大に伴うネットワーク/サーバー/ストレージといったITリソースの増設、および運用にまつわるコスト増加が次第に課題視されるようになってきていた。
海外拠点については主として米国/欧州の通信事業者が提供するデータセンター、およびIaaSを活用。ただし、豪州や東南アジア、南米などの地域については、それらのサービスの利用が難しいことから各拠点にサーバーを用意・運用しており、全体的な管理やコスト最適化の観点で改善の余地を残していたという。
そうした背景から2018年、「オンプレミスで運用していたIT基盤をパブリッククラウドに全面的に移行していく」ことを決定。パブリッククラウドのIaaS/PaaS機能を活用することで、ハードウェアやデータセンターなどの“低レイヤー”の運用負荷を削減し、事業競争力や生産性の向上を加速させるアプリケーションに資源を投入していくことが可能であると考えたからだ。
海外拠点では、パブリッククラウドの複数のリージョンを利用する。これにより、事業部門/事業会社に利便性の高いIT基盤を提供するとともに、共通プラットフォームを活用することの結果として運用の集約と効率化という恩恵を享受しようとの目論見があった。
次代を担うIT基盤として選択したMicrosoft Azure
新たなIT基盤として選択したパブリッククラウドサービスが、2016年より一部で利用を開始していたMicrosoft Azureである。プライベートクラウド環境のハイパーバイザーとしてHyper-Vを使っていたことや、先々でPaaSへ移行していくことなどに鑑みると、最も親和性が高いと思われた。MKIの山田櫻子氏(商社営業本部 商社第二営業部 第二営業室)は、「グローバルで同一のユーザー体験やレギュレーションを提供していくにあたり、最も適したサービスであったことがMicrosoft Azureを選択した理由の一つです。マイクロソフトはOSやエンタープライズソフトウェアで高いシェアを持っており、Microsoft Azureであれば三井物産のパブリッククラウドへの移行に十分に応えられると考えました」と語る。
パブリッククラウドというと「すぐに利用できる」「簡単に導入できる」というイメージでとらえるのが一般的だろう。しかし、三井物産のような巨大組織での利用、そして海外への展開を見据えて柔軟性・拡張性・セキュリティを考慮した構成とするには、エンタープライズならではの要件への深い理解や知識が必要だし、それらを一つひとつ実装レベルに落とし込むには相応の工数がかかる。
プライベートクラウドを構成していたハードウェアの保守切れに対応するという眼前の課題に対応するため、スケジュールは安穏と構えられるものではない。三井物産が定めているAzureへの移行プロジェクト完遂のメドは2021年だ。さらに、従来のプライベートクラウドと同等の環境をパブリッククラウドで構築するとなると、オンプレミスにおける仮想化サーバー基盤に関する知見といった技術的バックグラウンドもさることながら、三井物産の業務に対する知見もまた欠かせないものとなる。「既存の仮想化サーバー環境、三井物産の業務、移行先となるAzureそれぞれに精通したメンバーでチームを編成。相互に連携する体制を構築することでスピード感をもってプロジェクトの推進に努めることとなりました」(山田氏)。
商社技術第一部 第三技術室
早川真央氏
綿密な移行計画の策定や移行ツールの活用などもあいまって、国内のプライベートクラウドにおいて運用されていた約1000の仮想マシンのうち、現在は約300がMicrosoft Azure上で稼働するに至った。早川真央氏(ICTコア技術本部 商社技術第一部 第三技術室)は「オンプレミスで運用されていたすべてのサーバーがクラウド化されるわけではなく、中には集約されたり、新規に構築し直したりするものもありますが、海外拠点のサーバーも含めれば、この先、グローバルで数千規模の仮想マシンがAzure環境で稼働していくことになるはずです」と話す。
運用の一部をユーザーに委任する方針に転換
三井物産がクラウドシフトを図る狙いは、IaaSレイヤーのサーバー移行だけではなく、PaaSを活用したクラウドネイティブなアプリケーション開発を推進することにもある。クラウド上で提供される機能別のサービス群を組み合わせ開発を効率化すると共に、成果を検証しながら柔軟に改良・強化・強化を繰り返していく──。そのスタイルが今後の主流と目されるし、事実、三井物産の事業部門サイドからもPaaSを活用の機運が徐々に高まっている。
もっとも、すべてが順風満帆だったわけではない。例えばAzureへの移行に際し、運用まわりのことについて三井物産サイドの部門IT担当者(ベンダーのSEも含む)からの問い合わせが殺到し、MKIは対応に追われることとなった。
従来のプライベートクラウド環境においては、管理コンソールはMKIの運用担当者のみが操作することで特段の問題は起こらなかった。仮想サーバーの運用が主たる作業であり、利用者側に公開する必要性が無かったことが背景にある。
ところがAzureにおいては、従量課金というパブリッククラウドの特性を活かしてコスト削減を図ることがテーマの一つとなっており、仮想サーバーのON/OFFといった運用の一部を利用者サイドで任うことが検討材料にあがった。PaaSを構成するサービスの操作を委任し、ON/OFFをユーザー自身が対処できるようにすることでコストコントロールが可能になるし、それはMKIの負荷抑制にもつながってくる。
さらに部門IT担当者としては先々を見据えた場合に、PaaSをはじめとするパブリッククラウドの活用ノウハウを習得しなければAzureでの開発力を強化できない可能性があり、構成に関する問い合わせが急増することになった。
ここでMKIはAzure利用における運用の見直しを実施した。「あらゆるニーズに応えられるようユーザー向けドキュメントを整備して社内ポータルに公開すると共に、全5回にわたる説明会を開催。こうした下準備を整えた上で、ユーザーがAzureに関与できる範囲を拡げることになりました」と早川氏は振り返る。
こうした取り組みは、PaaSの機能をより積極的に使っていこうとする機運を高めることにもつながっている。MKIは目下、「Azure Search」や「Cosmos DB」などのPaaSのコンポーネントを利用したアプリケーション開発やPoCの要請に応えているところだ。また、PaaSの価値を広く訴求する一環としてMKIは三井物産のIT推進部と共同で、基幹系システムや勤怠管理、経費申請の照査をとりまとめるシステムをPaaSで開発。こうした具体的なユースケースの拡充にも余念がない。
PaaS活用を一つのきっかけとして、Azureが“事業部門にとって身近な存在”であることを感じてもらえれば、いろいろな波及効果が期待できる。先にも触れた通り、「Microsoft Azureを現場のユーザーが利用するメリットには、親しみやすい『ユーザーポータル』を通じてシステムの制御をユーザー自身が行えるようになることが挙げられます。これまでオンプレミスの基盤では、仮想マシンの電源オンオフもユーザーからの依頼に応じてMKIサイドが対処していました。しかし、ユーザーに権限を委譲し自らできるようにすれば、従量課金を採用しているサービスにおいてコストの発生をこまめに管理・調整することが可能となります」とは早川氏の弁だ。
Windows Server 2008を移行しても従来と同水準の運用を
2020年1月に迫っている、Windows Server 2008のEOS(End of Support:サポート終了)への対応について世間で何かと取り沙汰されているが、それは今回のプロジェクトでも影を落とすことになった。稼働しているアプリケーションのライフサイクルの都合上から、一時的に2008のままAzureに移行することになった仮想マシンがあり、それがMKIに新たな課題を突き付けることになったのだ。
マイクロソフトはWindows Server 2008のリプレースがEOSまでに間に合わない場合の対策として、Microsoft Azureへの移行を前提とする場合はESU(Extended Security Updates:延長セキュリティ更新プログラム)を無料で提供している。ここでMKIは、ただ一方的に受け入れるのではなく「Azureへ2008を移行しても従来と同様の水準の運用ができるか」という観点で徹底して調査を進めた。その結果、Azure IaaS VM としての Windows Server 2008 の利用に関しては一部の管理機能に制限があることが判明し、バックアップやDR機能については独自に対応を検討する必要が生じたという。
「弊社はMicrosoft Azureのマネージドサービスを提供する立場として、IaaSにおいても必要に応じて独自の機能やサービスを追加すべきと考えています。依頼に基づいたリソースの払い出しにとどまらず、安定した運用を実現するために仮想マシン1つにしてもバックアップサービスを付随して提供していることなどは好例です。従来、オンプレミスで提供していたWindows Server 2008に関するバックアップサービスやDR機能が移行後に使えなくなってしまうのは大きな問題ですから」(早川氏)。
そこで三井情報は、Microsoft Azureに移行したWindows Server 2008に対しても、オンプレミスで提供していたものと同等のバックアップサービスやDR機能を実装できるよう、プロジェクトチームが一丸となってアーキテクチャの検討、および検証と実証を行ったという。「限られたスケジュールの中で、マイクロソフトや他のソフトウェアベンダーにも知恵を借りながら代替策の捻出に奔走しました。最終的にはサードパーティのソリューションを導入することでこの問題を解決したのですが、短期間で種々のツールを一つひとつ検証するのには苦労しました。しかし、Microsoft Azureのエコシステムの活用により、Windows Server 2008を安全に運用できるようになったのは大きな成果でした」(早川氏)。
日々進化するAzureにキャッチアップし三井物産の事業に資す
ここまで見てきたように、(1)既存システムのプライベートクラウドからAzureへの移行、(2)既存システムの要件を引き継ぐ形でのAzureでの新規構築、などが混在する当プロジェクト。MKIの担当チームは、いずれの場合においても三井物産サイドのシステム管理者の一元的な窓口となって対応にあたることに努めている。
とりわけ気を遣うのが前者のプライベートクラウド→Azureのケースだ。プライベートクラウド環境における実装内容を十分に把握しておかなければ移行に際して予期せぬトラブルが生じ、利用者に迷惑をかけることにつながってしまう。MKIの担当チームは三井物産の既存環境チームと密に連携し、不穏な動きがあっても即時に手を打てる万全の体制を整備。利用者への影響を最小限に抑えることを強く意識して移行を推進している。
この先、三井物産の事業を根底から支えるMicrosoft Azureは、さらに利用範囲が拡がり使い方にも磨きがかかっていくことだろう。将来を見据えた時、プロジェクトに深く関与してきたメンバーは、今後の展望とマイクロソフトへの期待についてどのような想いを抱いているのだろうか。2人は次のように述べて取材を締めくくった。
「三井物産がMicrosoft Azureの利用を開始して以来、当社でもその安定稼働や業務効率化を支援するため、新機能やセキュリティ施策へのキャッチップに取り組み、サービス範囲の拡充に努めてきました。また、プロジェクトを進行する過程で、社内におけるMicrosoft Azureに関する体制も拡充し、実績や知見が日々、蓄積されています。引き続き、Microsoft Azureのマネージドサービスプロバイダーとして、三井物産のIT基盤のアップデート、およびビジネス変革にスピード感をもたらせられるよう、組織全体で取り組みを強化していきたいと考えています」(山田氏)。
「Microsoft Azureは日々、進化を遂げ、サービスや機能を拡充しています。そうした新しいサービスや機能を貪欲に活かしていくには、マイクロソフトとの密なコミュニケーションが欠かせないと考えています。いち早くMicrosoft Azureの最新情報を把握できれば、MKI社内で検証し、三井物産に提案することが可能になります。この流れを確立させられれば、三井物産が求める『ビジネス変革に対するスピード感』を具現化できると考えています。これこそがクラウドを活用するメリットではないでしょうか」(早川氏)。
●企業プロフィール
- 企業名 三井情報株式会社
- 本社 東京都港区愛宕2-5-1
- 事業内容 コンピュータ及び情報通信システムに関する各種ソフトウェア、ハードウェア、システム等の調査、研究、コンサルティング、企画、設計、開発など
- 創業 1991年6月20日
- 資本金 41億1,300万円 (2019年3月末現在)
- 従業員数 1,963名 (2019年3月末現在 連結)
●お問い合わせ先
日本マイクロソフト株式会社
〒108-0075 東京都港区港南2-16-3 品川グランドセントラルタワー
https://www.microsoft.com/ja-jp
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