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[プロセスマイニング コンファレンス 2019]

プロセスマイニング最前線から見える「解決すべき課題」と「進化の方向性」

【対談】独アーヘン工科大学アールスト博士 × NTTデータ イントラマート中山社長

2019年10月30日(水)

日本企業は地道なカイゼンを重ねることで業務を効率化してきたし、昨今ではRPAの導入も盛んで現場の生産性アップに不断の努力を続けている。しかし、それらは個別最適の域を出ない取り組みがほとんどである。今こそ、多くの企業に求められるのは、すべての組織を横断したプロセスの全体最適であり、それを支えるものとしてにわかに注目を集めているのがプロセスマイニングだ。プロセスマイニングの概念を20年前に発表し、それから常に第一人者としてその研究を牽引してきたドイツ アーヘン工科大学(RWTH Aachen University)のウィル・ファン・デル・アールスト(Wil van der Aalst)博士と、NTTデータ イントラマート 代表取締役社長の中山義人氏が、プロセスマイニングの“過去・現在・未来”を語り合った。

20年を経てプロセスマイニングのブームが到来

中山氏 プロセスマイニングがここに来て世界的に大きなブームとなっています。ただ、アールスト博士がプロセスマイニングを提唱したのは20年も前のことです。これまで認知が広がらなかった背景をどのように見ておられますか。

アールスト氏 プロセスマイニングの話をすると、多くの方が「なぜこんな重要なことに今まで気づかなかっただろうか」という反応を示します。つまり、現在まで普及が進まなかったのは、おそらく「知らなかった」という単純な理由だと思います。実際、アカデミックの世界ではプロセスマイニングはずっと注目され続けてきました。例えばBPM関連の学会で発表されている論文の約半分はプロセスマイニングに関するものになっています。

 裏を返せば、日本においてプロセスマイニングがあまり普及してこなかったのは、そうしたアカデミック領域での立ち遅れも原因の1つかもしれません。日本は製造業を中心にカイゼンやカンバン方式など、世界でも有名なコンセプトを確立してきた国であり、本来であればプロセスマイニングはカイゼンツールとしてもっと注目されているはずですので。

ウィル・ファン・デル・アールスト(Wil van der Aalst)博士
オランダ・エールセル出身のコンピューターサイエンティスト。現在、ドイツ アーヘン工科大学(RWTH Aachen University)の教授としてProcess and Data Science(PADS)グループを率いている。研究分野はプロセスマイニング、ビジネスプロセス管理(BPM)、ワークフロー管理、プロセスモデリング、プロセス分析、ペトリネットなど広範にわたる。プロセスマイニングに関しては、1990年代後半よりオランダ アイントホーフェン工科大学で研究を始め、以降、第一人者として同分野を牽引。

中山氏 その意味でも現在の状況には目を見張るものがあります。

アールスト氏 この20年を経て、プロセスマイニングはすでに成熟したレベルに到達しつつあります。国際カンファレンスも開かれるようになり、プロセスマイニングのソフトウェアを扱うベンダーも30社以上に増えました。

プロセスマイニングで直面する課題とは

中山氏 市場の盛り上がりは私も強く実感しており、NTTデータ イントラマートにもプロセスマイニングに関する問い合わせが急増しています。一方で、実際にプロセスマイニングを導入しようとして、さまざまな困難に直面するケースも少なくありません。

中山義人(なかやまよしひと)氏
NTTデータ イントラマート 代表取締役社長 執行役員。1992年にNTTデータ通信(現NTTデータ)に入社し、SCAW生産管理システムの開発業務などを担当。社内ベンチャー制度を活用し、Web対応のアプリケーション基盤「intra-mart」の開発を中核事業とするNTTデータ イントラマートを2000年2月に設立し、代表取締役常務に就任。2001年6月、代表取締役社長に就任。東京大学大学院工学系研究科にて、プロセスマイニングについての研究にも熱心に取り組んでいる。

アールスト氏 課題は大きく3つあります。1つは人材の問題で、プロセスマイニングをボトムアップで始めたところ、一定の階層に上がったところで停滞してしまうことがあります。コンプライアンスや非効率な業務プロセスといった今まで見えなかった問題点が一気に表面化し、中間層のマネージャーが恐れをなして止めてしまうのです。この人材という側面を慎重に取り扱っていかないと、プロセスマイニングの導入は上手くいきません。トレーニングはもちろん、経営幹部が取り組みをしっかりサポートしているかどうかも非常に重要です。

 2つめの問題はデータです。プロセスマイニングを行っている途中で、インプットとなるログデータの品質を担保したり、ログデータが存在する場所を特定したりするのが難しいといった問題が出てくるのです。あるいは、イベントログデータは十分な量があったとしても、これを抽出することにも相当な知識と労力が必要で、そこがネックとなっています。

 3つめとして、プロセスマイニングを単一のプロジェクトとして臨んでしまうのも大きな問題です。予想以上に長い時間がかかり苦労の連続で、これは無理という結論に達してしまうのです。プロセスマイニングは継続的に取り組まなくては意味がなく、それによってこそ社内に埋もれているログデータを効果的に活用し、ROIを高めることができます。

中山氏 挙げていただいた3つの課題が背景となっているのか、日本でもプロセスマイニングを推進するにあたり、DX推進組織やIT部門内に専門チームを設置する企業も増えてきました。

アールスト氏 プロセスマイニングは特別な部門が担うものではなく、長期的には組織全体に組み込まれた活動になっていくと考えています。しかし短期的には、やはりグローバルでもプロセスマイニングに特化したコンピテンスセンターを設置し、取り組みをスタートさせる企業が多い傾向にありますね。プロセスマイニングはビジネス側とIT側の双方のメンバーをつなぐものでもあります。したがってIT部門の中に置いて孤立させるのではなく、ビジネスとITのそれぞれの専門性をもった人材を融合し、チームを編成するべきだと思います。

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