[技術解説]
ANAがDX推進で取り組む「5G×データ統合基盤」、そのシナジーとは?
2020年4月17日(金)田口 潤(IT Leaders編集部)
全日本空輸(ANA)がパイロットやCA、整備士、地上職員などの訓練施設「ANA Blue Base」にローカル5Gを導入する。仮想現実(VR)を取り入れて訓練を高度化するなど、5GのPoC(概念実証)が目的だが、それだけではない。5Gで多様なデータを収集・管理できるようにして実際の機内や空港ではテストできない施策を検証し、迅速な本番投入で社員満足や顧客満足を高めるという狙いがある。カギを握るのがANAの全社データ統合プラットフォームの「CE基盤」で5G導入に先だって拡張を施している。以下、5Gとデータ統合基盤の組み合わせがもたらすシナジーについて確認してみたい。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が世界中を大混乱に陥れている今、CIOやIT部門はどんな活動を求められるのか? リモートワーク(在宅勤務)を円滑に行うためのITインフラや業務環境の整備はもちろん、オンラインで完結する業務プロセスの確立に向けたペーパーレス化は必須だろう。例えば、関連記事:CIOが新型コロナウイルス対策ですぐに行動に移すべき16の項目にあるようなことだ。
一方で、コロナ以前とは状況が大きく異なるはずの“アフターコロナ”を視野に入れた取り組みも必要になる。例えば、グローバルサプライチェーンの見直しのような、様変わりしてしまった将来のビジネス環境を踏まえたプロジェクトが挙げられる。もちろん、デジタル化やデジタルトランスフォーメーション(DX)の取り組みも再起動、再加速させなくてはならない。では、実際にどんなアプローチが望まれるのだろうか。
参考になると考えられるのが、本誌でも速報で紹介した全日本空輸(全日空、ANA)の取り組みだ。新型コロナの直撃を受け、運行停止など厳しい状況にある同社は、(1)運用乗務員や客室乗務員などの訓練施設ANA Blue Base(ABB、写真1)にローカル5Gを全面導入、(2)さまざまなデータを収集・分析するCE基盤の強化・拡充、(3)拡充したCE基盤と5Gで収集したABBのデータを連携させて仮説立案・実施・検証する環境の構築、といった変革の土台整備を進めている。以下、それぞれの内容を見ていこう。
総合訓練センターABBにローカル5Gを全面導入
ABBは運行乗務員(パイロット)や客室乗務員(CA)、整備士、地上職(グランドスタッフ/グランドハンドリングスタッフ:空港施設や滑走路敷地の業務担当者)などを対象にした総合訓練センターである。フライトシミュレーターや訓練用のエンジン(写真2)、客室、チェックインカウンターなどさまざまなモックアップ設備を使って、運航オペレーションの向上や安全確保の訓練を行う。2019年4月に利用が始まったばかりの最新鋭の施設だ(写真3、関連記事:ANA、総合訓練施設「ANA Blue Base」公開 - トラベル Watch)。
ANAは、このABBにローカル5Gを全面導入することを決めた。2019年春頃にNECから提案を受けてローカル5Gの検討に着手し、高速大容量、低遅延、多数同時接続という5Gの利点を評価した。ABBにはすでに業務用途の無線LANを導入済みであり、VR端末やセンサーネットワークの混雑や電波干渉を避ける意味もある。当面はNECが取得したローカル5Gの実験免許で運用しながらPoC(概念実証)を実施し、21年度春には本番運用に移行する計画だ。
5Gの利点を生かした、さまざまな用途を開発する。一例が機内火災のような緊急事態を想定した訓練だ。ABBには実物大の客室モックアップがあるが、当然ながら実際に火災を起こすことはできない。そこで、CAにVRヘッドマウントディスプレイを装着してもらって、火災を疑似体験してもらうわけだ。再現性にすぐれているので訓練効果を高められるだけでなく、訓練者の視線移動や心拍数などのデータや高精細な画像も取得できる。それらをフィードバックして訓練精度を高めていける。整備士など他職種の訓練も同様だ。
とはいえ、これだけなら訓練効率の向上や施設の高度化に向けた取り組みにとどまる。特徴的なのは、ローカル5Gを単なる高速ネットワークではなく、ABBのITインフラの1つと位置づけたことだ(図1)。さまざまなデバイスをつなぎ、データを収集・分析し、アプリケーションを用意して活用可能にする。この取り組みに際してANAは、業務プロセスや業務効率の改善、働き方の変革、顧客体験の向上なども視野に入れている。
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ANAの全社データ統合プラットフォーム「CE基盤」を拡張
上述の目的を実現するため、ANAは、5G導入に先だって「Customer Experience(CE)基盤」を拡張した。CE基盤については関連記事:「企業データ基盤」はこう創る!─ANAの“顧客体験基盤”構築の要諦)でくわしく紹介したが、簡単に説明すると、さまざまな業務で発生するデータを“仮想的”に収集・活用するためのプラットフォームである。あちこちに散在するデータを簡単な手続きで統合して分析するための全社データ基盤でもある。
●Next:訓練施設とデータ基盤の連携による「デジタルツイン」とは?
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