[麻生川静男の欧州ビジネスITトレンド]

1ユーロスマホ、接触追跡、クイック抗体検査─新型コロナ対策で結果を出しつつあるドイツの施策:第13回

2020年5月1日(金)麻生川 静男

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大が深刻だ。欧米各国でオーバーシュート(感染者の爆発的急増)が起こるなか、ドイツの対応が注目を集めている。ドイツは感染者の数こそ多いものの、死亡率が極めて低い。感染の初期段階から感染爆発に備えた医療体制を整備したため、比較的余裕ある対応が行えている。さらには、アンゲラ・メルケル首相の的確な指令に国民の満足度もきわめて高いようだ。感染を抑え込むドイツの取り組みのうち、興味深いトピックを3つ紹介しよう。

老人ホーム、介護施設に1ユーロでスマホを提供

 ドイツの老人ホームや介護施設は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大の影響を受け、厳しい環境下に置かれている。感染防止のため老人ホームや介護施設では、感染すると重篤化する恐れのある入居者が外部との接触を制限されるなど、入所規制が厳しくなっている。

 この状況を見かねたドイツテレコム(Deutsche Telekom)は、入所者が家族や友人とビデオ電話ができるよう、老人ホームや介護施設に1台1ユーロ(約120円)という破格の値段で、スマートフォンを1万台提供するというキャンペーンを始めた。キャンペーンの期間中、老人ホームや介護施設はスマホを3台まで入手することができる。

 介護施設の入所者には自身のスマホを持っていない人も多く、そういった人は介護スタッフのスマホを借りて家族や友人と話している。そのため、何かと不便を感じていたという。

 1台1ユーロという価格には、基本料のほか、 2年間(24カ月)のデータ料金もすべて含まれている。それだけでなく、高速の10GBのデータ容量もおまけについてくる。ドイツ以上に高齢化が進んでいる日本でも同様のキャンペーンが望まれる。

携帯のGPS情報から感染拡大を防ぐ

 新型コロナウイルスの場合、感染していても症状が出ていない人が無意識のうちに感染を広めているとされる。そこで、ドイツテレコムは携帯情報の位置情報をビッグデータとして集積して、人の移動を把握する取り組みを開始した。

 携帯電話の位置情報には、個人データが含まれているが、それらを匿名化して感染の研究機関であるロバート・コッホ研究所(Robert Koch-Institut)に集める。3月17日から同システムの運用が始まっている。

 収集するデータは、携帯電話の接続開始時刻、中継局の情報だ。粗いデータではあるが、ドイツ国内での人の移動を大まかにつかむことが可能となる。これらの情報を地域ごとに分析して、人の動きについてさらに詳細な情報を得ることができる。

 携帯電話の情報収集ではプライバシー保護が課題となる。この課題を克服するためドイツテレコムでは、収集するデータレコード1本あたりに約30人分の情報が含まれるようにした。つまり、個々の携帯電話の情報ではなく、30人分が1つのデータとしてまとめられているのだ。これでは個人個人の移動情報をつかむことができないし、ましてやコロナに感染している個々の患者の移動情報までは明らかにならない。こうしてデータ処理に工夫を凝らすことにより、ドイツの国家的なデータ保護規定に準拠するデータとしての利用が保証されている。

 実際のデータ収集と加工はドイツテレコムの子会社であるモーションロジック(Motionlogic)が行っている。同社は以前から携帯電話の情報を利用して「公共空間での人の移動」を分析するサービスを提供している。このサービスは、新店舗への人の出入り、交通網の計画、大規模なイベントでのセキュリティ強化などの評価に使われているものである。

 携帯電話の位置情報は接続中継局の位置情報から割り出しているので精度が低い。上述したデータ保護規定への順守によるものだが、感染拡大防止の観点からより詳細な位置情報が必要という指摘もなされている。

 この点を解決するため、ハノーファー医科大学(Hannover Medical School)はハンブルクにあるソフトウェア企業のユビラボス(Ubilabs)と共同でコロナ感染者に同意のうえ、感染者の携帯電話のGPS位置情報を使って行動を追跡する「接触追跡」の取り組みを開始した。同様な取り組みはオーストリアや、スイスでもすでに始まっている。

 この方式では携帯電話の情報自体は使わないので、個人情報が漏れることに対するユーザーの懸念が弱まるうえに、携帯電話の中継局情報よりさらに精密な位置情報を得ることができるというメリットがある。

●Next:ドイツのベンチャーが開発したウイルスセンサー、その特徴は?

この記事の続きをお読みいただくには、
会員登録(無料)が必要です
  • 1
  • 2
バックナンバー
麻生川静男の欧州ビジネスITトレンド一覧へ
関連キーワード

BCP / 新型コロナウイルス / パンデミック

関連記事

Special

-PR-

1ユーロスマホ、接触追跡、クイック抗体検査─新型コロナ対策で結果を出しつつあるドイツの施策:第13回新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大が深刻だ。欧米各国でオーバーシュート(感染者の爆発的急増)が起こるなか、ドイツの対応が注目を集めている。ドイツは感染者の数こそ多いものの、死亡率が極めて低い。感染の初期段階から感染爆発に備えた医療体制を整備したため、比較的余裕ある対応が行えている。さらには、アンゲラ・メルケル首相の的確な指令に国民の満足度もきわめて高いようだ。感染を抑え込むドイツの取り組みのうち、興味深いトピックを3つ紹介しよう。

PAGE TOP