[ユーザー事例]

徹底した「事業部門との対話」と「予測精度と期待値の定量化」─サントリーのAI推進リーダーが語る秘訣

“PoC止まり”や“PoC疲れ”になったら「事前検証の正しいあり方」に立ち返る

2021年3月17日(水)河原 潤(IT Leaders編集部)

自社のビジネスでAIを活用する取り組みを行う企業が増えているが、「PoC(概念実証)から先に進めない」「期待したような予測精度が得られない」といった声をよく聞く。そんな中、AIの業務適用を阻む壁に対して独自の方針・指標をもって臨んだ1社が、サントリーグループのIT施策を支えるサントリーシステムテクノロジーだ。とりわけPoCとPoB(業務適用検証)における目標の定量化に注力し、事業部門のユーザーにとって納得感の高いプロジェクトを次々と成功させている。同社AI推進チームのリーダーに取り組みの秘訣を聞いた。

SST/先端技術部のミッション

 サントリーシステムテクノロジー(SST)は、飲料・食品のグローバル大手であるサントリーグループの情報システム会社である。2021年の組織改編から、サントリーホールディングス直下でグループ全社のIT戦略策定やシステム構築、業務改革の支援を担っている。

 最近の取り組みの1つとして、グローバルで300社以上に及ぶグループ企業のITインフラ基盤をAmazon Web Services(AWS)に移行するプロジェクトを完了している(関連記事サントリー、オンプレミスの全サーバーをAWSに移行完了)。

 そのSSTに先端技術部という部門がある。部門名のとおり、AIやIoT、xR(xReality:VR、AR、MRなどの総称)といったさまざまな先端技術を各事業部門のビジネスに適用できるのかを調査し、業務適用の具体的な方策を提案し支援するというミッションを持っている。

 先端技術部は2017年頃からマシンラーニング(機械学習)プラットフォーム「DataRobot」などの検証を通じて、AIの業務適用に着手していた。2018年には、同部がサントリーグループ各社の基幹システムへの適用を検討することになり、この年に同部に配属された坂本健后氏(写真1)がAI推進グループ主査として推進チームのリーダーに就いた。

写真1:サントリーシステムテクノロジー 先端技術部 AI推進グループ 主査の坂本健后氏

 組織体制面では、先端技術部、グループの各事業部門、各事業部門に寄り添って業務課題の解決にあたるビジネスプロセス改革部の連携が基本としてある。AIに限った話ではなく、利用側と提供支援側での十分な検討を経て、テクノロジーやソリューションの導入・利用が始まる。ビジネスとITの乖離を防ぐ部門連携と言える。

 図1は、取り組みにあたって先端技術部が定めた、PoCから業務適用に至るまでのプロセスだ。取り組みの初期に事業部門側からは、「需要変動に応じた生産計画を適切に立てるのが難しい」「多種多様なデータが集まっているのにうまく活用できていない」「ノウハウがデータ活用に長けた人材だけにとどまり属人化が生じている」といった業務課題が挙がった。

図1:PoCから業務適用に至るまでのプロセス(出典:サントリーシステムテクノロジー)

 「人間の予測に限界が来ていて、AIで手が打てないか。特定のスタッフのノウハウもAIに学習させることで属人化を解消できないか、といったように現場ではAIに対する期待が高まっていました」(坂本氏)。また、当時サントリーのトップメッセージとして、データドリブンの取り組みを強化して事業課題を解決していくという方針が示され、AIの活用に関しても経営層からも期待をかけられていた。

 先端技術部が当初苦慮したのは、AIへの事業部門の期待と、それに対して今のAIができることのギャップをどう埋めていくかという課題だ。発展途上の技術で一種の「あやふやさ」を持つAIは、その特性上、他のITソリューションのような導入効果の期待を持たれても応えにくい。坂本氏は、事業部門やビジネスプロセス改革部に、AIがどんなテクノロジーなのか、業務適用で何を目指すのかを十分理解してもらえるように努めたとして、次のように説明する。

 「需要予測の例で言うと、現在のAIが提示してきた値をそのまま信用するのは難しいですから、あくまで人の判断を支援するのがAIのメインの役割となります。“説明可能なAI(Explainable AI)”の研究がまだ途上であり、ある程度までの示唆はしてくれても、なぜこの値なのかを説明することができない。その後の業務適用のスタンスに関わる重要な部分として、理解していただけるように対話を重ねました」

 先端技術部は、経営層や事業部門が持つAIへの期待を受け止めたうえで、実際の業務で応えうる“精度”を重視して、取り組みの当初から目標の定量化に努めている。「特性上、AIは、他のITソリューションのように容易に導入効果が見込めるものではありません。実際どのような業務に適用できて、効果がどのぐらいの精度で得られそうか。各事業部門と慎重に協議しながら、目標を定量化していきました」(坂本氏)

「AIへの期待精度」を業務効果に紐づけて目標を定量化

 坂本氏が触れた事前検証フェーズは、先端技術部のAI推進体制において重要かつ独自性の強い部分だ。図1にあるように、現場の要求確認の段階では、「AIへの期待精度」を業務効果に紐づけて目標を定量化する。その後にPoCに進むが、ここでAIの予測精度を算出したうえで技術的に実現可能かを徹底的に検証するという。

 「事業部門が業務の中で実際に使っていけるのか、部門の業務プロセスやルールも踏まえて検証を行います。例えば、現場の運用で予測値を外した場合の対処なども、事前に定めるようにしています」(坂本氏)

 PoCの検証を終えたら、PoB(Proof of Business:業務適用検証)のフェーズに進む。事業部門の基幹システムに取り込んでいくタイプのプロジェクトが多く、実際の適用成果にシビアさが要求されるからだ(マーケティング施策など、PoBを経ずに本番適用を行うものもある)。SST 先端技術部長の野島達也氏(写真2)はこの点について次のように説明する。

写真2:サントリーシステムテクノロジー 先端技術部長の野島達也氏

 「一般には、PoCの中にPoBを含めている場合も多いと思います。当部では、技術で行う検証と、実活用時の業務プロセスも含めた検証を明確にする意図で、これらを分けて取り組んでいます」

●Next:推進判断の基になる「予測精度・期待値の3つのレベルライン」とは?

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