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[麻生川静男の欧州ビジネスITトレンド]

ドイツのサプライチェーン・デューデリジェンス法が企業に求めるもの:第30回

2022年3月28日(月)麻生川 静男

ご存じのように近年、SDGs(持続可能な開発目標)やESG(環境・社会・ガバナンス)が注目されている。いわばその具体的活動をビジネスの分野にも広げたのが、2021年7月に公表されたドイツのサプライチェーン・デューデリジェンス法だ。この法案によって企業は、従来の自社製品に対する製造責任だけにとどまらず、購入品に対しても製造工程において自社製品と同レベルのSDGs/ESG観点の配慮が求められる。多くの企業にとってはこのサプライチェーン法は頭痛の種となっている。本稿ではサプライチェーン法の目的と実際の運用に対する企業の措置の方策について現地報道から紹介しよう。

サプライチェーン・デューデリジェンス法とは

 2022年から2023年にかけて、ドイツ国内の従業員1000人以上の企業約3000社にとって、事業活動はより難しくなるだろう。というのも、2021年7月に公表されたサプライチェーン・デューデリジェンス法への準拠はかなりの難題だからだ。同法案が施行されると、企業は国内外を問わず、納入される部品・商品が製造される工程において労働者の人権が侵害されていないか、また環境に十分配慮されているかなどについて責任を持って確認しないといけなくなる。

 しかし、どこまでチェックすればよいのだろうか。例えば、外国企業の現場作業員が防護服やヘルメットを正しく装着しているかなどを定期的にチェックする必要があるのだろうか。あるいは。、製造工場の排水が環境基準をクリアしているかどうか、いちいち排水のサンプルを取って検査しなくてはならないのか。

 このような取り組みは現実的ではなく、今回のサプライチェーン法はそこまで厳格な監視を求めてはいない。結論から言えば、企業はサプライヤーの製造過程の人権や環境保全に対して「努力義務」は求めるものの「予防義務・阻止義務」までは求めていない。しかし、努力義務は「適切」でかつ「実効を伴う」ことが求められる。もっとも、この2つの修飾語は極めてあいまいな官僚語・法律用語である。現時点ではこの語句に対する具体的内容は公表されていない。

サプライヤーのランク分けで対応可能か

 独ライプチッヒに本拠を置く統合管理ソフトウェアベンダーのイノリティクス(Innolytics)のCEO、Jens-Uwe Meyer氏は、サプライチェーン法への現実的な対応策を次のように提案する。

ランク分け:サプライヤーを部品の重要度に応じて3つのランクに分ける。重要度の高いものから、Aサプライヤー、Bサプライヤー、Cサプライヤーと名づけ、それぞれのランクのサプライヤーに以下の対応を提案する。

Aサプライヤー:製造業者にとって、サプライヤーの部品が製品には必須の部品であったり、根幹の部品であったりする場合、取り替えが効かないので、正確なチェックを求める。このランクのサプライヤーは限られているので、定期的に担当者を派遣して監査すべきであろう。とりわけ、人権が侵害されていると噂される国に製造拠点がある場合は要注意だ。実際に、自社から人を派遣するか、あるいは信頼できる外部の代理人に依頼して、現地まで赴いてチェックする必要がある。

Bサプライヤー:Aサプライヤーの部品ほどではないが、重要部品を供給する業者が相当する。また、新製品の企画段階でも必要とする部品を供給できる業者でもあるだろう。ただし、契約条件が合わなければ納入契約を取り消して代替のサプライヤーを立てられるレベルだ。このようなサプライヤーに対しては、デジタルサプライヤー監査が適切で実効性がある。

Cサプライヤー:例えば、コピー用紙やネジやガスケットなどの小さな部品を供給する業者が該当する。会社の根幹部品ではないので、必要とあらば、いつでも業者を変更できる。したがって、サプライチェーン法の観点では考慮しなくてよい。

 サプライヤーをこのようにランク分けして対応することで、サプライチェーン法導入の初期段階では問題なく進むであろう。監督官庁である輸出管理庁(BAFA)にしても、実際の経験がないので、どのように対応すべきであるかが定まっていないからだ。したがって、上述の対応を律儀に遂行していれば、まずは罰金を課されることはないはずだ、とMeyer氏は述べている。

●Next:具体的な監査手順は? 日本企業は独サプライチェーン法をどう捉える?

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